【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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王家騒動編

第131話 お話

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「アトラス殿。ここはカーマ殿たちと話し合ってみては?」

 リズにチョコを渡した後、何の成果も得られずに執務室に戻った俺とエフィルン。

 今後どうするか考えていると、役立たずの酔っ払いがなんかほざいてきた。

「話し合いの余地がないだろ。俺は王になりたくない、あいつらは俺を王にしたい。どちらかを叶えれば片方は絶対叶わない」

 これは仁義なき戦いなのだ。椅子取りゲームなのだ。

 いや玉座的には椅子押し付けゲームだけども……互いに相手を無理やり椅子に座らせたいのだが。

「それも案外誤解かもしれぬ。それに妥協点もあるかもでござる。ここはやはり話し合うべきでござる」
「……お前にしては随分と押してくるな。何が狙いだ?」

 センダイはあまり無理強いしてこない奴だ。だが今日のこいつは妙にしつこい。

 以前にこいつの話を聞かなかった結果、カーマとラークがエフィルンに捕縛されたこともある。

 ここはちゃんと聞いておくべきだろう。何か大問題が発生するやもしれん。

「拙者、カーマ殿からも酒をもらっている。故に互いの陣営で結果を残さねば、酒を返せと要求されかねん! 拙者が橋渡しすれば、仕事したことになるでござろう!」
「くたばれコウモリ野郎」

 センダイの力説に心無い言葉を投げておく。

 完全に己の利益のためだった。話聞く意味なかった、やはり酔っ払いのたわごとだ。

「主様、ここはカーマ様たちと話すのもよいのでは? 戦いは説得を試みてからでもできます」
「確かにそうだな。話してみるのもよいか」
「同じこと言ってるのにこの扱い。拙者は目から涙が出そうでござる」
「お前の目からあふれるのは涙じゃなくて酒だろ」

 ウソ泣きするセンダイを放置しつつ、執務室から出ていく。

 あいつは放置でよい。どうせ酔っ払いのん兵衛の言葉に発言力はない。

 食堂に入るがカーマたちはいない。アイスやケーキでも食べてるかと予想したが外れたか。

 仕方がないのでおびき寄せることにする。

 【異世界ショップ】から焼きたてのチーズケーキを大量に購入して、机の上の皿に置く。凄まじく香ばしい匂いが周囲に広がっていく。

 駅とかでケーキ売ってるけど、この匂いは本当に卑怯だ。思わず買ってしまう。

 しばらくするとバタバタと廊下から足音が聞こえてきた。やはり来たな、ケーキ好きのラークならばこの匂いからは逃れられない。

 勢いよく食堂の扉が開かれて、ラークの姿が。

「よい匂いはここですかっ! メルの鼻は誤魔化せませんよっ!」
「お呼びじゃないから帰れ」

 ……メルだった。紛らわしいことこの上ない。

 メルは俺に媚びた笑顔を浮かべるとこちらにすり寄ってきて。

「そんなこと言わないでくださいよ。私にもこの甘い匂いのケーキをください」
「給料から差し引いてよいなら食っていいぞ」
「そんな!? こんな砂糖ふんだんに使ってそうな高級品、私の何か月分ですか!?」

 ……腹いっぱい食べても半日分くらい? 【異世界ショップ】で安く買えるのだが面白そうなので黙っておこう。

 メルは俺に身体を押し付けてきた。だが悲しいかな、全くもって興奮しない。

 子犬がじゃれてきたようなものだからなぁ……。

「ねえくださいよ。お願いします! もうこの匂いの前では溶けちゃいそうですぅ」
「勝手に溶けてろ。じゃあラークたち連れてきたら食ってもいいぞ」

 もともとラークたちを呼び寄せるための策だからな。それが達成できるなら文句はない。

 俺の言葉にメルはきょとんと首をかしげた後。

「すでにラークさんならケーキ食べてますけど」
「美味」
「いつの間にっ!?」

 ラークはいつの間にか席に座ってケーキを食べていた。

 しかもすでに何皿か空になっている……本当にいつ来たんだ……。

「実は食堂に最初からいた」
「……何で?」
「数的不利。隠れてた」

 そうか、今はこちらが人数差で有利ではないか!

 口論は口数が多いほど有利だし、ラークは特に無口だからゴリ押せるのでは!

「よし。ラークよ、俺を王にするのを反対しろ。それだけでそのケーキをもっと食わせてやる」
「……! いやでも……」
「ほれほれー! 早く裏切らないと俺が食べるぞ! あっ、やば。喉につまった……水……」
「主様、水です」

 俺はこれ見よがしにケーキを急いで食べ始める。こうやってケーキの数を減らしていき、彼女の判断力を奪う策だ。

 だがチーズケーキの一気食いはキツイ! 恐ろしく喉が渇いてヤバイ!

 チーズケーキ大食いバトルとしかしたら、地獄を見ることになりそうだな。

 ラークは涙目になりながら、ケーキを食べ続けている。だが遅い! 俺のほうが早いぞ!

 徐々に震えだしたのでそろそろ落ちるはずだ!

「ふっふっふ。さあ落ちろ! 我が陣営に入るのだっ」
「……わ、わかっ……」
「そこまでだよ! 姉さま、しっかり!」

 ラークら陥落する直前、邪魔をするようにカーマが扉を勢いよく開いた。

 ちいっ! あとすこしのところでっ!

 カーマはラークにそばに駆け寄ると、彼女を守るように俺に立ちはだかる。

「ケーキで脅すのは卑怯だよ! 条約違反だよ!」
「そんな条約知らん! 俺は勝つためなら手段を選ばない! アイスもケーキも脅しの材料だ!」
「じゃあこちらもセバスチャンさんに、漫画とかのこと全部言うからねっ!」
「待て! それは条約違反だろう!? 無法の戦いがもたらすのは破滅だぞっ!」

 ええい! 互いに弱みを握った状況では! 

 結局、アイスとケーキと漫画はこの抗争では使用不能になった。

 これ以上の犠牲を広げないために致し方ない……。

 そしてこのまま話をしようという流れになった。これはチャンスだ、セバスチャンがいないのだから。

 邪魔されないようにメルに大量にケーキを与えておいて、俺達は机を挟んで対面に座って討論を始めることにした。

 少しでも話の有利になるように、チーズケーキとチーズアイスを二人に手渡す。

 ふっふっふ、水はあえて渡さない。喉が渇けば口論の不利になるはずだ。

「何でカーマもラークも、俺を王にしたいんだよ。もっと相応しい人間がいるだろ」

 王の息子……は確かいなかったはずだ。だがそれにしても、その親族とか誰かいるだろたぶん。

 だがカーマもラークも首を横に振った。

「だってこの国の貴族だよ? まともなのいると思ってるの?」
「恐ろしく説得力のある言葉やめろ。だが探せば一人くらいいるんじゃないのか?」
「王家の血を継ぐのはボクたちと……後何人かいるよ」
「じゃあそいつらに継がせればいいだろ」
「みんな元ライダン領主や元バフォール領主と親しい人間だったよ」

 終わりだろこの国。売国奴と親しい王家関係者……もう一度崩壊したほうがいいんじゃないか?

「じゃあ何か? この国は俺が王を継がなかったら、クズしかいないのか?」
「もしくははボクか姉さまのどちらかが継ぐ。女王としてね」
「……無理じゃね?」

 カーマとラークに政治の才能があるとはとても思えん。

 そもそも彼女ら、報告書の類も大して読まない。それに結構脳筋の類である。

 権謀術数ひしめく政治の世界で生きていけるとは思えん。いや魔法の力でゴリ押せる可能性はあるが……。

「ボクも無理だと思ってるよ。だからあなたに押し付けようとしてるの」
「無理」
「賢明な判断と言わざるを得ない……」

 カーマとラークの言葉に思わずうなずいてしまう。

 俺も別に政治とか得意ではないが、カーマたちはもっと無理だ。

 魔法の使い方とか見ても純粋に力押しタイプだし……。

「あなたと結婚の話が出るまでは、ボクたちのどちらかが女王になる予定だったの。男じゃなくても強力な魔法使いなら、継ぐ資格があるとゴリ押して」
「あー……ライナさんが領主になってるのもそんな理由だったな」

 確かにこの国最強の魔法使いの王族となれば、女でも王になる資格があると言えるか。

 文句言ってくる奴がいたら簡単だ。姫たちよりも武力で優れてると見せろとか言えばよい。

 そこらのへぼ貴族が、彼女らに勝てるわけもないのだから。

 ……この制度、割と大欠陥だよな。だってライナさんがもし王族なら、王になれるんだぜ……?

 狂戦士が王ってこの国が世紀末不可避ではないか。

 ……それと何となくだが、今までの王の理不尽な行動の理由がわかってきたぞ。

 俺を何度も試すかのような行動。たぶん俺を鍛えているつもりだったのだ。

 よく考えればカーマたちを嫁にもらう時から、明らか俺を値踏みしていたのだ!

 あの野郎! 最初から俺に王を押し付けるつもりだったな!?

「そういうわけだから、王を継いでよ」
「継いで」
「…………やっべぇ。断りたいのによい反論が思いつかない! 言い訳名人の自負がある俺が!?」

 くっ! カーマたちに国を継がせてもなんか崩壊しそう!

 他のクズ貴族に継がせるのはもっと論外! 俺が継ぐ以外に道がないだとっ……!?

 おかしい、なんだよこの国。いや今更だけど腐りきってるだろ!




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 とある森。黒装束を着た怪しい男たちが何かを話していた。

「アトラス伯爵が、次期国王になるようです。王都の大きな動きはそれでしょう」
「なるほどな。それは確かか?」

 常人の二倍はあるガタイを持った大男が、野太い声をあげる。

「はっ! フォルン領に潜り込んだ暗部からの報告です。騒いでいるアトラス伯爵も、領民に見られているそうなので確かです」
「そうか。すぐにラスペラス本国に知らせよ」
「はっ!」

 黒装束の一人が馬に乗って離れていく。

 それを見た大男は近くにあった木を掴み、その握力で幹を抉りながら。

「しかし、この状況下でアトラス伯爵に王位を継承とは。俺達を大甘に見てるな」
「古い貴族が反対するに決まっています。レスタンブルク国が半分に割れるまでありますね」
「五魔天ダイナが命じる。この隙に更に奴隷を仕入れやがれ、大派手に大大量にな」
「はっ!」
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