【異世界ショップ】無双 ～廃絶直前の貴族からの成り上がり～

国内騒動編

第179話 誰も得しない

　降伏したレザイ領軍から、総大将であるはずのレザイ領主が差し出された。

　奴は腕も足もロープでがっちりと縛られたあげく、しかも身体中アザだらけ。絶対これ蹴ったり殴ったりしただろ。

　そんな哀れな奴をどう裁くかを決めるため、布で簡易に作った自陣にて暫定的な軍議を行うことになった。

　なんかすでにボロボロなんだけど……とレザイ領関係者に聞いたら、「殴ったほうがアトラス様の心が晴れると思ってボコっておきました」と返って来た。

　豊臣秀吉は気を利かせて信長の草履を温めていたという逸話があるが、それのクズバージョンだろうか……。

　参加メンバーは俺とセバスチャンにセンダイ、カーマとラーク。

　そしてレザイ領からは領主に軍隊長、そして領主の息子とかの権力のある奴数人。

　巨大なテーブルを置いて、人数分の椅子を揃えて軍議が開始された。

「我々は騙されていたのです！　この悪しき汚れた元領主に！　偉大なるアトラス様が我らの大切な宝物を奪ったと！」

　開口一番、レザイ領軍隊長が叫んだ。

　これは完全に領主を斬り捨てる構えである。流石はクズ、そこに良心の呵責などないのだろう。

「な、なにを！　貴様らとて嬉々として物資を盗んでいたではないか！　挙句の果てに戦いもせずに降伏しおって！　恥を知れ！」
「我らは騙されていたのです！　アトラス様と言えば本でも有名な聖人！　ですが本人を知らなかったため、領主の戯言に従っておりました。あのお力を見て、本の内容が真実と知ったのです！　であれば、聖人であるアトラス様が間違っているはずがない！」
「ふざけるな！　単純に魔法にビビっただけであろうが！」

　俺の目の前で、領主と軍隊長の醜い骨肉の争いが開催されている。
　
　断言するが軍が戦闘を辞めたのは、俺が正しいと察したわけではない。

　戦車を見て勝ち目がないと判断して、即座に降伏しただけである。

「アトラス様！　我々は独裁者たるこの領主の被害者です！　この男を縛り首にして、軍隊長の私に今後の領地をお任せください！　必ずや発展させてみせます！」
「ふざけるな！　領地を引き継ぐのは息子たる私だろうが！」
「何を！　領主の血族が継ぐなど！　ここは陪臣のトップであるこの私が！」

　レザイ領関係者による恐ろしく醜い闘い……なんだこれ。

　勝った側の俺達が何一つ喋ってないのに、何故か勝手に喧嘩している。

「ふざけるな！　もはや話し合いなど無意味ならば、殴り合いで決めるべきだろう！」
「はぁ！？　そんなの武人である貴様が有利過ぎぐはぁ！？」
「卑怯もごはぁ！？」

　そして殴り合い、いや軍隊長による他の者への一方的な殴打が始まった。

　特に悲惨なのはレザイ領主。両手両足縛られてるから、文字通り手も足も出ない。

　……おかしい。何でこいつら、敗者のくせに勝手に決めたあげく暴力沙汰に？

「俺こそが正義だぁ！」

　最終的に勝ち残った軍隊長が空に拳を掲げた。そりゃそうだ。

「よし！　これで次期レザイ領主は私だ！」
「いやそんなわけあるか」

　意味不明な間に勝手に話を進められそうなので、釘を刺しておく。

　すると軍隊長は俺に対して驚愕の表情を向けてきた。

「何を仰いますか！　私が勝てば領主にしてくださると言ったではありませんか！」
「勝手に捏造するな…………」

　いかん、物凄く疲れてきた……。

　とりあえずこいつらの話だけは聞いておこう。最後の言葉として。

「お前たち、各自何か言いたいことがあれば述べろ」

　俺の言葉に対して、レザイ領関係者が全員目を見開いた後。

「「「「他の奴らは殺していいから、私だけは助けてくれ！！！」」」」

　すごい、一糸乱れぬ同時の叫びだ。

　こいつら全員性根が全く同じじゃねーか。もう親友みたいなものだろ、仲良くしろよ。

「アトラス伯爵！　私はレザイ領主としてしっかりと領地を経営しておりました！　一時の過ちを赦すべきです！」

　お前が言うな。

「我が父は間違えたのです！　ここは息子である私に継がせることで、領内は一丸と纏まりましょう！」

　クズが一丸になってクソになられたら困るんだよ。フンコロガシ野郎。

「私にお任せください！　軍隊長である私が領民全てを軍の力で脅して、必ずやアトラス伯爵の言うことに従わせてみせます！　逆らう者には死を！」

　どこの独裁者だ俺は。

　ダメだ、まともな奴が誰一人としていない。

　もしかろうじて救いようのある奴がいたなら、そいつにレザイ領を任せることも考えた。

　流石に全く知識のない人間に、いきなり領主をさせるのも可哀そうかなと……。

　でもこれはダメだ。こいつらに任せても何も変わらん。

　諦めて王家から誰か領主を任命してもらおう。

「お前たちの言うことはよくわかった」
「「「「では私を領主にしてくださるのですね！」」」」
「違う！　お前ら全員犯罪者として牢獄行きだバカ野郎ども！」
「「「「ば、ばかなっ！？」」」」

　全員が嘘だろ……みたいな絶望の表情をしている。

　俺の方が嘘だろと言いたい……もうさっさと帰って寝たい。

　こいつらが有力者であったことがこのレザイ領最大の汚点だな。

　マジで長所がなにひとつとしてない……そこらの村人でももう少しマトモそうだ。

　……でもこいつら、領民の支持も皆無だろうからまた担ぎ上げられるとかはなさそうだな。

　カリスマがなさすぎて誰もついてこないという意味で。唯一の利点がそれか。

「……さてと。じゃあ帰るか」
「お待ちください、アトラス様。このまま放置してしまいますと、またレザイ領民が領地を抜け出してフォルン領に盗みを働くのでは？」
「戦車とかで脅しただろ。あいつらは領民を集めた軍だし、逆らったらどうなるかは理解しただろ」
「いえ。確かに一斉蜂起はないと思いますぞ。でも各自が個々に好きに盗みまくりそうですぞ」

　…………セバスチャンの言う通りだ。

　レザイ領民はクズが多いので、示し合わせて蜂起でなくても盗賊がかなり増えそう……。

　何の前提知識もなく新しくレザイ領主になる奴が、そこまで領民を押さえられるとも思えない。

　……どうしよ。レザイ領民が領地から出られないようにするには……関所を作ったとしても、そこ以外の森とかを普通に抜けてきそうなんだよな。

　…………ベルリンの壁ならぬ、ゴミクズの壁でも作るか。

　人が通れそうなところを全て壁で覆えば、いくら奴らでも抜け出してこれないだろう。

　ゴキブリとて食べ物のないところでは湧かぬのと同じだ。

　壁を作るのはうわきつ女王のチート魔力に頼もう。

　高級化粧品をお土産にすればやってくれるだろう。彼女らはラスペラス国の人間なので、レスタンブルクの経済がよくなることは協力してくれない。

　だがこんな意味不明で、むしろ交易が悪くなる壁ならば作ってくれるだろう。

　そんな感じで女王に話をもちかけたところ。

「あらぁ。あなたたちばかなのぉ？　何で併合したてとかでもなく、自領民閉じ込めてるのよぉ」

　至極正論を言われてしまった。俺だって意味不明だよ畜生め。