【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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国内騒動編

第181話 遺言

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「アトラス様! アトラス様の死後、家を引き継ぐ者をご指名くださいですぞ! 後はこのセバスチャンがよいようにやりますので」

 セバスチャンが執務室に乗り込んできて、そんなことを言い出した。

 ……まるでクーデターだが決してそんなことはない。

 決してセバスチャンが、もはやこれまでと斧を振りかぶって殺ってきたりはしない。

 流石のこいつもそこまでは……いや割とガチでしそうだな……。

 ようは万が一に俺が急死した時に備えて、誰がフォルン領主を継ぐか決めておけということだ。

 もし俺が死んだ時に、遺言がなく誰が継ぐかが決まっていない場合。

 下手をしたら国を巻き込んだお家騒動にもなりかねない。

 それほど今のフォルン領主の椅子は魅力的な存在となってしまっている。

「……とはいえだ。今の俺に引き継ぐべき子供とかいないからなぁ……」
「本当なら即座に作って頂きたいところなのですが……イレイザーの件でカーマ様とラーク様が戦力外になるのは厳しいですからなぁ」

 セバスチャンは残念無念そうな顔で頷いた。

 実際のところ、貴族として本来ならとっくに子供作ってないとマズイ。

 伯爵家の貴族に子供がいないなど、間違いなくお家騒動不可避。下手すればそれで戦争にもなりかねない。

 王家からも先日手紙で忠告されたところである。イレイザーの件が終わったらさっさとヤレと。

 ……フォルン領が貧乏な時は、誰一人としてそんなこと言わなかっただろうに。

 なんかなー。こう押し付けられると逆にしたくなくなってくる。

「なので子供の件は置いておきますぞ。とりあえず、緊急時のための遺言を残しておいて頂きたいのです。そうでなければ争いになりかねません」
「どうするかねぇ……どうすればよいか悩むな」
「昔のフォルン領では考えられない悩みですぞ! なにせ以前なら、誰が領主の座を引き継ぐかを押し付け合ってましたぞ! ある意味争ってましたな」

 セバスチャンがしみじみと呟いた。

 昔のフォルン領は廃絶直前だったからなぁ……領主を継ぐのは首をかけた罰ゲームだったし。

 しかし困ったな……現時点で継がせられる人間がほぼいないぞ。

 貴族である以上、赤の他人に爵位を継がせるのは不可能だ。

 なので俺が死んだらセバスチャンとかに……は通用しない。

 無難に行くならラークとカーマだろう。彼女らに継がせるのは問題ない。

 レスタンブルク国は女性が領主になることも認めてるし。ライナさんみたいに。

 だが…………。

「じゃあ俺が死んだらラーク。第二候補者でカーマに」
「アトラス様。そのお二人ですと、アトラス様と一緒に死んでしまう可能性も高いですぞ。最低でも後二人くらいは」

 セバスチャンの言うことはもっともである。

 ラークとカーマは俺と一緒に戦いに行ったりするし、何かあったら仲良死なんてこともありうる。

 そうなったら結局遺言の意味がないわけで……もっと指名しろとなる。

「……じゃあ次は弟で」
「どちらのですぞ?」
「セバスチャン。俺の弟は一人しかいない」

 もう一人は弟ではなくてただの赤のクズだ。まともで普段は話題にも上がらない、王都辺りで平和に暮らしている弟だ。

 だが俺の言葉にセバスチャンは首を横に振った。

「無理ですぞ。弟君はフォルン領主の継承権を破棄しております。本人も自分には荷が重いと、以前にお聞きしております。今の妻との生活が幸せだとも。子供もできたようです」
「…………チッ。リア充が」

 いかん、怨嗟の声が出てしまった。

「もう片方の弟君は、喜んで継ぐと思いますぞ」
「あんな奴に継がせるくらいなら、お家騒動起きたほうがいくらかマシだ…………」

 俺の元弟に継がせたら、フォルン領はアッという間にシャブ漬けクズのたまり場になる。

 それならお家騒動が起きてでも、他のまともな人間が継ぐ方がいくらかマシだ。

「むしろ例えどんなことがあろうと、あのクズ元弟にだけは継がせないように遺言残しておけ! あいつに継がせるなら、そこらで転がっているドラゴンでも領主にすえとけと!」
「正式文書で残しますがよろしいですぞ?」
「構わん!」

 セバスチャンが俺の言葉を遺言書に記載していく。

 先ほどの言葉に嘘偽りはない。というかドラゴンは金策かなり上手だし、下手な人間よりも領主向けな気もする。

 何ならカーマたちよりも領主として優れているような……考えるのはやめよう。

「やれやれ……どうせなら遺言より辞世の句でも残しておきたいところだ」
「そんなものよりも子孫を残してください」

 セバスチャンから辛辣な言葉が投げかけられる。

 ……いいじゃん。俺だってさ、「この世をば、我が世と思う……」みたいな句とか詩を残したい。

 いや全然この世が我が世と思えないけどさ……。この世どころか、フォルン領民ですら思うように動いてくれないけど。

 何なら自分自身ですら勝手に動いてしまう。アトラス=サンとかのせいで。

「……よし。万が一俺が死んだら、遠縁の親戚に領主の座を押し付けておこう。本人には知らせなくていいぞ、死ぬ気はないから」
「承知しましたぞ」

 そういうわけで投げやりに遺言を作っておいた。

 てきとう過ぎるって? 死ななきゃいいんだよ、死ななきゃ!

 どうせ俺が死んだらイレイザーの討伐に失敗する。そしたら世界滅ぶしそうなったらフォルン領も自動的に廃絶だしな!

 セバスチャンが遺言に全てを記載したのを確認した後、本題に入ることにした。

「……それでセバスチャン。わざわざ遺言を書かせたんだ。準備ができたということだな?」

 セバスチャンは俺の言葉に対して、真剣な面持ちになると。

「はい。東レード山林地帯……人外魔境と化したかの地を、侵攻する目途が立ちましたぞ。戦力は整えられますので、後は策だけですな」

 そう。いきなり遺言なんて作らされたのは、今から危険な土地へと向かうためだ。

 イレイザーを倒すにあたって、あの土地を放置しておくことはできない。

 もしイレイザーとの戦闘中に、あの地の強力過ぎる魔物が大量に外に漏れでもしたら……俺達は二方面での戦闘を強いられてしまう。

 それはすなわち世界の滅亡に他ならない。イレイザーですら全戦力を費やして勝てるかどうか、というところなのだ。

 更に他の場所に戦力を分配する余裕などあるわけがない。

 かといって魔物たちを無視したら、最低でもレスタンブルク国は亡びるだろう。

 もしイレイザーが魔物を呼び寄せる能力でも持っていたら詰みである。

 後顧の憂いを断っておく意味でも、東レード山林地帯を人外魔境にしておくわけにはいかない。

「やれやれ……できれば一生放置しておきたかった所だが」
「それは無理ですぞ。なるべく被害がないように滅ぼすしかないでしょう」

 幸いなのはレード山林地帯の生き物は全て魔物であり、人的被害を気にせず攻撃できるところだな……。

 爆撃とか毒撒くとか、色々考えて極力安全に制圧したい……。
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