190 / 220
国内騒動編
第181話 遺言
しおりを挟む「アトラス様! アトラス様の死後、家を引き継ぐ者をご指名くださいですぞ! 後はこのセバスチャンがよいようにやりますので」
セバスチャンが執務室に乗り込んできて、そんなことを言い出した。
……まるでクーデターだが決してそんなことはない。
決してセバスチャンが、もはやこれまでと斧を振りかぶって殺ってきたりはしない。
流石のこいつもそこまでは……いや割とガチでしそうだな……。
ようは万が一に俺が急死した時に備えて、誰がフォルン領主を継ぐか決めておけということだ。
もし俺が死んだ時に、遺言がなく誰が継ぐかが決まっていない場合。
下手をしたら国を巻き込んだお家騒動にもなりかねない。
それほど今のフォルン領主の椅子は魅力的な存在となってしまっている。
「……とはいえだ。今の俺に引き継ぐべき子供とかいないからなぁ……」
「本当なら即座に作って頂きたいところなのですが……イレイザーの件でカーマ様とラーク様が戦力外になるのは厳しいですからなぁ」
セバスチャンは残念無念そうな顔で頷いた。
実際のところ、貴族として本来ならとっくに子供作ってないとマズイ。
伯爵家の貴族に子供がいないなど、間違いなくお家騒動不可避。下手すればそれで戦争にもなりかねない。
王家からも先日手紙で忠告されたところである。イレイザーの件が終わったらさっさとヤレと。
……フォルン領が貧乏な時は、誰一人としてそんなこと言わなかっただろうに。
なんかなー。こう押し付けられると逆にしたくなくなってくる。
「なので子供の件は置いておきますぞ。とりあえず、緊急時のための遺言を残しておいて頂きたいのです。そうでなければ争いになりかねません」
「どうするかねぇ……どうすればよいか悩むな」
「昔のフォルン領では考えられない悩みですぞ! なにせ以前なら、誰が領主の座を引き継ぐかを押し付け合ってましたぞ! ある意味争ってましたな」
セバスチャンがしみじみと呟いた。
昔のフォルン領は廃絶直前だったからなぁ……領主を継ぐのは首をかけた罰ゲームだったし。
しかし困ったな……現時点で継がせられる人間がほぼいないぞ。
貴族である以上、赤の他人に爵位を継がせるのは不可能だ。
なので俺が死んだらセバスチャンとかに……は通用しない。
無難に行くならラークとカーマだろう。彼女らに継がせるのは問題ない。
レスタンブルク国は女性が領主になることも認めてるし。ライナさんみたいに。
だが…………。
「じゃあ俺が死んだらラーク。第二候補者でカーマに」
「アトラス様。そのお二人ですと、アトラス様と一緒に死んでしまう可能性も高いですぞ。最低でも後二人くらいは」
セバスチャンの言うことはもっともである。
ラークとカーマは俺と一緒に戦いに行ったりするし、何かあったら仲良死なんてこともありうる。
そうなったら結局遺言の意味がないわけで……もっと指名しろとなる。
「……じゃあ次は弟で」
「どちらのですぞ?」
「セバスチャン。俺の弟は一人しかいない」
もう一人は弟ではなくてただの赤のクズだ。まともで普段は話題にも上がらない、王都辺りで平和に暮らしている弟だ。
だが俺の言葉にセバスチャンは首を横に振った。
「無理ですぞ。弟君はフォルン領主の継承権を破棄しております。本人も自分には荷が重いと、以前にお聞きしております。今の妻との生活が幸せだとも。子供もできたようです」
「…………チッ。リア充が」
いかん、怨嗟の声が出てしまった。
「もう片方の弟君は、喜んで継ぐと思いますぞ」
「あんな奴に継がせるくらいなら、お家騒動起きたほうがいくらかマシだ…………」
俺の元弟に継がせたら、フォルン領はアッという間にシャブ漬けクズのたまり場になる。
それならお家騒動が起きてでも、他のまともな人間が継ぐ方がいくらかマシだ。
「むしろ例えどんなことがあろうと、あのクズ元弟にだけは継がせないように遺言残しておけ! あいつに継がせるなら、そこらで転がっているドラゴンでも領主にすえとけと!」
「正式文書で残しますがよろしいですぞ?」
「構わん!」
セバスチャンが俺の言葉を遺言書に記載していく。
先ほどの言葉に嘘偽りはない。というかドラゴンは金策かなり上手だし、下手な人間よりも領主向けな気もする。
何ならカーマたちよりも領主として優れているような……考えるのはやめよう。
「やれやれ……どうせなら遺言より辞世の句でも残しておきたいところだ」
「そんなものよりも子孫を残してください」
セバスチャンから辛辣な言葉が投げかけられる。
……いいじゃん。俺だってさ、「この世をば、我が世と思う……」みたいな句とか詩を残したい。
いや全然この世が我が世と思えないけどさ……。この世どころか、フォルン領民ですら思うように動いてくれないけど。
何なら自分自身ですら勝手に動いてしまう。アトラス=サンとかのせいで。
「……よし。万が一俺が死んだら、遠縁の親戚に領主の座を押し付けておこう。本人には知らせなくていいぞ、死ぬ気はないから」
「承知しましたぞ」
そういうわけで投げやりに遺言を作っておいた。
てきとう過ぎるって? 死ななきゃいいんだよ、死ななきゃ!
どうせ俺が死んだらイレイザーの討伐に失敗する。そしたら世界滅ぶしそうなったらフォルン領も自動的に廃絶だしな!
セバスチャンが遺言に全てを記載したのを確認した後、本題に入ることにした。
「……それでセバスチャン。わざわざ遺言を書かせたんだ。準備ができたということだな?」
セバスチャンは俺の言葉に対して、真剣な面持ちになると。
「はい。東レード山林地帯……人外魔境と化したかの地を、侵攻する目途が立ちましたぞ。戦力は整えられますので、後は策だけですな」
そう。いきなり遺言なんて作らされたのは、今から危険な土地へと向かうためだ。
イレイザーを倒すにあたって、あの土地を放置しておくことはできない。
もしイレイザーとの戦闘中に、あの地の強力過ぎる魔物が大量に外に漏れでもしたら……俺達は二方面での戦闘を強いられてしまう。
それはすなわち世界の滅亡に他ならない。イレイザーですら全戦力を費やして勝てるかどうか、というところなのだ。
更に他の場所に戦力を分配する余裕などあるわけがない。
かといって魔物たちを無視したら、最低でもレスタンブルク国は亡びるだろう。
もしイレイザーが魔物を呼び寄せる能力でも持っていたら詰みである。
後顧の憂いを断っておく意味でも、東レード山林地帯を人外魔境にしておくわけにはいかない。
「やれやれ……できれば一生放置しておきたかった所だが」
「それは無理ですぞ。なるべく被害がないように滅ぼすしかないでしょう」
幸いなのはレード山林地帯の生き物は全て魔物であり、人的被害を気にせず攻撃できるところだな……。
爆撃とか毒撒くとか、色々考えて極力安全に制圧したい……。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる