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国内騒動編
第183話 東レード山林地帯攻略②
しおりを挟む東レード山林地帯攻略のため、レザイ領兵士を呼び寄せた。
彼らを村の入り口付近の前線に配置したところ、大量の人の気配に惹かれてか魔物がわんさか森から出てくる。
オーガ種やドラゴン種の新種魔物たちが撒き餌……じゃなくてレザイ領兵士に襲い掛かってきた。
「ひ、ひいっ!? お助けぇ!」
「こ、こんなの聞いてねぇぞ! 最低でも十倍はもらわないと割に合わねぇ!」
「フォルン領兵士を囮にして安全を確保しようぜ!」
レザイ領兵士が口々に叫びながら必死に化け物たちから逃げまとう。
彼らが囮になっている間に戦車の砲撃やカーマたちの魔法攻撃を撃ちだし、魔物たちに損害を与えていく。
……レザイ領兵士は案の定、文句や不満ばかりだが大丈夫だ。俺達は奴らが欠片も信用ならないのを前提に作戦を立てている。
俺は拡声器を使って彼らに優しく語り掛けることにする。
「事前にレード山林地帯の危険性は説いたはずだ! ここで逃げたら貴様ら全員国家反逆罪だ!」
「「「ち、畜生!」」」
お前らのやり口はわかってるんだよ。
混乱した戦場では逃げた奴と囮をやった奴の見分けをつけるのは難しい。
なので逃げ切った後、しっかりと戦いましたと金だけ受け取るつもりなのだ。
そんなことさせてたまるものかよ。奴らは一心同体のように動くので、全員揃って逃亡していくはずだ。
それなら全員同罪だ、国家反逆罪にすればよい。
対外的にもレザイ領兵士が敵前逃亡したと言えば、周囲はみんな納得するのだから。
悪名高きレザイ領の評判は伊達ではない。
「何が英雄で聖人だ! 権力を盾にするゴミ野郎が!」
「権力を盾に俺達を盾にするなんて! くだらねぇんだよぉ!」
結局レザイ領兵士は逃げるのをやめて、飛ぶわ跳ねるわで魔物たちの攻撃を無様に回避していく。
……思ったよりだいぶ敵の攻撃を防ぐのうまいな。どう見ても正統な武術じゃないのだが、妙にこなれているところがある。
「ふむ。あの戦い方は……」
彼らの動きを見てセンダイが少し感心している。
こいつはレザイ領兵士の戦い方の名前を知ってるのだろうか。
「センダイ、あいつらって何か武術でもやってるのか?」
「いや武術ではないでござるな。完全に賊の戦い方でござる、しかもあれはかなり熟練して場慣れしている」
「……なんで仮にも領兵なのに賊の戦い方に慣れてるんだよ」
「普段は山賊やってるからでは?」
「そんな兼業農家のおっちゃんみたいな……」
流石はレザイ領兵士。あがき方にも品がない……。
そんなことを考えている間に、魔物たちは何体も地に屍を晒していた。
俺のバズーカではあまり効果はなかったが、戦車の砲撃は流石に効くようだな。
カーマたちの魔法も以前よりも強化されているので、魔物たちに致命傷を与えられている。
気分はタワーディフェンス系ゲームである。待ち伏せさせておいて火力で撃ちのめすの楽しい。
以前にここの魔物に敗走したので復讐心も燃え上がるというもの。
周囲には魔法や砲撃の爆発音に魔物の断末魔の叫び、そしてレザイ領兵士の必死の悲鳴が響き渡っていた。
「アトラス殿。我が軍の損害、今のところはなしでござる」
「これなら楽勝ですな! アトラス様にかかれば人外魔境も人知にできるのですな! アトラス様の自伝のページ数が厚くなりますぞ!」
「…………なんかすごく嫌な予感がしてきた」
こう何というのだろうか。楽勝ムードが漂い始めるとろくなことがない。
特にここは魔の東レード山林地帯……そう易々と攻略させてくれるとは……。
そんなことを考えていたら、レザイ領兵士の絶叫が聞こえてきた。
「く、首が三つあるぞあのドラゴン!?」
「あのオーガも首が四つあるぞ!?」
……彼らの悲鳴の聞こえる先には、三つ首の巨大ドラゴンや四つ顔のオーガがいた。
三つ首竜は普通のドラゴンよりも遥かに大きく、十メートルほどの巨体を誇っている。
しかも鱗も漆黒に輝いてすさまじく硬そうである。
オーガもそれに匹敵する大きさを持ち、漆黒の肌はおそろしく筋肉質だ。もはや筋肉がすごすぎて、岩のようにゴツゴツな肉体だ。
そんな彼らに戦車の砲撃や魔法が直撃するが……爆風が晴れた後、全ての顔がケロリとした表情をしている。
……こいつら先ほどの奴らとは別格のようだ。
「三つ首に四つ顔……どういう進化したらあんな奇天烈な魔物になるんだ……」
化け物どもを見て思わず嘆いてしまう。
ケルベロスとかいるけどあれはあくまで神話の創作物である。
普通に考えてひとつの身体に複数の脳など、どう考えても不合理だろうが!
仮にひとつの脳が右に走ろうと考えて、もう違う脳は左に駆けようと思ったらどうなるのだろうか。
身体が衝撃に耐えられずに左右に割けたりしてくれないかな。そうしたら討伐も楽なんだけど。
「いやはやレード山林地帯の摩訶不思議伝説ですな。ではアトラス様、あの化け物を討伐お願いしますぞ」
セバスチャンが微笑みながら俺に死ねと言ってくる。
「は? いやなんで俺が!?」
「アトラス様の伝説に新たな一ページを増やすためですぞ!」
「俺、この戦いでは陣地から出る予定ないんだけど」
「何を仰いますか。すでに王都中にアトラス様出陣と広めておりますぞ。ここで戦果をあげねば名声が地に落ちますぞ」
なんでセバスチャンは余計なことしかしないのだろう。
できれば三つ首竜とかに近づきたくない……バズーカとか撃ってお茶を濁すか?
「アトラス様、空から物を落として倒してくだされ。以前のジャイランド討伐の再現で、読者の心を掴むのですぞ!」
「敵には飛べる奴もいるんだが」
「誤差の範囲ですぞ」
「いや絶対誤差じゃないんだが。撃ち落されるんだが」
結局、ミサイル攻撃で魔物たちを粉砕することにした。
……いや本当よかったよ。怪獣映画みたいな現代兵器全く効かない怪獣じゃなくて。
このクズ撒き餌作戦は三日ほど行われて、東レード山林地帯の魔物は一掃されたのだった。
今後はこの森も開拓していき、黄金の道に続く交易路にするらしい。
名前は白銀の道と物欲を隠しきれない名称になった。
この交易路が開通されれば、王都⇒黄金の道⇒フォルン領⇒白銀の道⇒バフォール領⇒ベフォメット国、と直通ラインができることになる。
これは少し先の話だがドラゴン便と相まってレスタンブルク国の大血管、命綱と呼ばれるまで発展していく。
また東レード山林地帯開通の時、レザイ領兵士が不満たらたらで戦ったこと。
それが俺の自伝が出された時に脚色すら生ぬるく歪められて出版された。
なんとレザイ領兵士たちは、フォルン領に迷惑をかけたことを悔やんで望んで勇敢に戦ったと記載された。どこがだ。
その誇りを取り戻す戦いとやらは大絶賛され、レザイ領兵士が主役のスピンオフまで発売されたとか。
その結果として彼らの評判が少しだけ上がったのだった。
……リズ、わりとヤバイ。あいつのペンがレスタンブルク国を操ってるぞ……。
マスコミよりもよっぽどヤバイのだが、なんでこんなことになってしまったのだろう。
「あれだけ命かけて戦ったんだ! 俺をレザイ領主にしろ!」
「これから白銀の道でもうけるんだろ!? ならその大功労者である俺は毎年の利益の一割はもらえる権利が!」
「フォルン領主の座をよこせぇ!」
……まあ本人たちの性根は変わらなかったのだが。
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