天才科学者の異世界無双記 ~SFチートで街づくり~

クロン

文字の大きさ
2 / 53
隣村との戦い

2話 現状確認

しおりを挟む

 アリアと向かい合って椅子に座り情報収集を開始する。

「ここはどこの国に属している?」
「パーセヴァルです」

 ……聞いたことがない。量子コンピュータで国として検索しても、たまたま類似したであろうどこかの個人小説の国の名称しか出てこない。
 
「この村の名前ではなく国の名称を確認している」
「ここの名前は村長である私の名であるアリア村です」
「パーセヴァルの規模は分かるか?」
「世間的に見てかなりの大国だと思います」

 大国ならば歴史に残っているはずだ。嘘をついているのかと思ったが、アリアは事実を無表情に淡々と述べているように見える。
 嘘発見器にも反応がないことを見ると真実を話している。
 ならば可能性は三つ。一つは本当にそんな都市が存在していて私の時代に伝わっていない、二つ目はアリアが本当のことだと勘違いしている。
 三つ目は……平行世界《パラレルワールド》。簡単に言うと私のいた地球とは異なるところに来て
してしまっている。
 一つ目の可能性はほぼありえない、この文明レベルで大国の存在が未来に伝われないなど。
 二つ目についてはゼロではない。
 三つ目はバカげた話に聞こえるが、時間を遡る上で切っても切れない話であるので同じく可能性はある。 

「世界地図は存在しないのか?」
「王都の教会に存在すると聞きますが、一般人では見ることは叶わないでしょう。魔法使いならば交渉次第で可能かもしれませんが」

 そう話しながら紅茶を口につけたアリアが少し目を丸くした。

「この紅茶、美味しいですね」
「特注品でね。……魔女狩りなどの異端狩りを君は知っているか?」

 私の考えが正しければここは中世ヨーロッパではない可能性がある。
 ならば魔女狩りがあったとは限らない。なかったなら剣士などと無理な言い訳をする必要もない。
 
「魔女を狩るなんてあり得ません。そんなことを呟いた時点で処刑されかねませんよ」
「……そうか。実は私は剣士ではない、これからは魔法使いに近い存在と思ってくれ」
「わかりました」

 特に深く聞いてくるでもなくアリアは頷いた。
 内心は何で剣士などと言っていたのだろうかと思っていそうだ。無表情なので想像でしかないが。
 とりあえず今後に科学技術を発揮する時は魔法だとごまかそう。
 魔女狩りなんて発言だけで処刑なら、どうやら魔法使いに幻想を抱いているようだし。

「しかし何故こんな辺鄙な場所にやってきたのですか? あれほどの魔法を使えるならば王都で暮らせるのに」
「私は変わり者とよく言われていてね」

 ごまかすように紅茶に口をつける。
 ……今までの会話をまとめると、魔法使いの権利は認められているようだな。
 地球の歴史でも魔法使いと世間に思われている者は存在する。
 そういった類の者が処刑されたのが魔女狩りなのだから。

「知りたいことはだいたい分かった。王都はどの方向かわかるか?」
「ここから馬車で北に七日ほどと聞いています」

 馬車の一日の移動距離はおおよそ百二十キロほどだったはずだ。
 私のホバーブーツならば安全運転でも一日かからず行ける。
 情報収集をかねて向かうのがいいか。世界地図を確認すればここがどこかも把握できる。
 
「わかった、ありがとう」
「いえ、礼を言うのはこちらの方です。剣士じゃない魔法使いに近い様のおかげで村人が死なずに済みました」
「……名前を言えということか、君は思ったよりもやるな。私の名前は優《すぐる》だ。決して罪人の類ではない」
 
 暗に要求されたので名前を伝えておく、姓は貴族に思われそうなので言わないが。
 アリアからすれば私がうさんくさい言動ばかりで気になったのだろう。それは間違ってはいない。
 村を救ってもらったと言えども、それが脱獄囚だったなら見逃したことで罪に問われかねない。
 やはり彼女は頭がいいようだ。

「スグル様、報酬の件で相談がありますがよろしいですか?」
「構わない。まともに払える物がないのだろう?」
「その通りです」

 こんな辺鄙な村では金銭などあまりないだろう。
 私がしたことは死にかけた人間を三人も助けた上に、男が束になっても勝てない動物退治。
 村長としてそれなりの謝礼をする必要がある。

「安心しろ。即物的な物を要求するつもりはない。対価は君に払ってもらう……身体目的ではなく働いてもらうという意味だから脱ぐ必要はない」

 自分の服に手をかけたアリアを見て付け加える。
 本当に話が早いので楽でいいが、驚いたほどためらわないな。少しは恥ずかしがると思っていたが無表情のままだ。
 いや服に手をかける時に私に対する視線が冷たくなっていたか。

「申し訳ありませんがそれはできません。私はもうすぐ借金のかたに結婚させられますので」
「村長なのにか?」
「両親が生前に隣村から借りた少しの金銭に法外な利子がついていたのです。いえ正確には法外な利子での契約を結んでいたのだと、両親の死後に伝えられたのです」

 アリアは淡々と無表情に語る。だがその声音には多少の怒りが含まれていた。
 彼女の言葉が本当だとするならばどうせこれだろう。

「死人に口なしか」

 私の言葉にアリアは頷いた。契約を証明出来る人間がいないので向こう側が好き勝手に言ってるのだろう。
 だいたいの筋書きは分かる。どうせ金を貸したのに返さないならばこの村を攻めるとかだ。
 それが嫌なら村長を差し出して従属せよと要求する。
 何ならそのストーリーのためにアリアの両親が殺された可能性まである。
 
「そんな話に従うつもりか?」
「私が隣村の村長と婚姻を結べば、この村もしばらくは安泰でしょう」
「ならばしばらく後にどうなるかもわかっているはずだ」
「……だとしても、です。今の最善策ですから」

 アリアは顔をうつむかせた。
 そんな村に従ってもいい未来があるとは思えない。
 しばらくは安全だとしても何かあれば見捨てられる、あるいは捨て駒にされかねない。
 彼女もそれはわかっているのだが他に選択肢がない。
 金を貸せる側と借りざるを得ない側、力関係など語るに及ばない。
 この村自体がどうなろうが興味はないが――。

「だが私は君の働きで報酬を返してもらうと決めたのでね。拒否権はない」

 私の言葉にアリアは顔を上げると黙ってこちらを見つめている。
 彼女は話が早いという貴重な存在だ。この私のおよそ残り八十年ほどの限られた時間を無駄に浪費しない。
 この世界の知識を知る者が必要なのだ。王都に一人で行っても迷うし常識もわからない。

「……スグル様が魔法使いだとしても、向こうが言う借金はかなりの大金ですよ」
「安心しろ。そもそも私は一銭たりとも持っていない」

 中世ヨーロッパなのか平行世界なのかは知らないが、日本に向かうはずだった私が持っているのは大判小判のみだ。
 しかも未来で作ったのだから偽造した貨幣である。

「魔法使いだとしても借金を帳消しにするのは難しいですよ」
「くだらん。元々が詐欺めいた契約だ、手段を選ばなければどうとでもなる」

 仮に詐欺じゃなくて本当の契約だったとしても、アリアを手に入れるつもりなのでどうとでもするつもりだが。
 
「村程度の規模の集落など全て焼き払ってやろう」
「……あの、お金を借りたこと自体は本当なので極力穏便にお願いします」
「私は手段を選ぶのが好きではないが善処はする」

 机に置かれたカップの紅茶を飲み干す。
 アリアもちょうど飲み終えたようで、名残惜しそうに空になったカップを持ちながらこちらを見つめてくる。

「……机に置け。おかわりをくれてやる」
「ありがとうございます」

 本当にしたたかである。だが嫌いではない。
 人間たるもの、欲望に従うのは悪いことではない。私とて知識欲の権化であると自覚はしている。

「隣村の村長との交渉はいつだ?」
「一週間後です」
「遅い、今すぐに交渉しろ」

 私の時間は有限である。隣村の屑村長相手に費やすなど、本来ならば人類の損失だ。
 隣村の距離は知らないが私のホバー移動ならばすぐだろう。
  
「わかりました。すぐに伝えます」

 アリアは椅子から腰を上げると、壁に向かって歩いた。
 彼女は奇怪な六芒星の陣が描かれた壁に手を当てると、その紋様が青く光り輝きだした。
 ……どういう原理だ? 後で色々と調べてみよう。
 
「アリアの名のもとに、エクボへ道をつなぐ」

 彼女の言葉と共に光が赤へと変わる。それから二十秒ほど経つと。

「おやおや。我が愛しのアリアではないですか。何の用ですか?」

 紋様から見知らぬ男の声がする。……本当にどういう原理だ?
 壁に電話機能でも隠されているのだろうか。

「今日か明日に、契約のことについて改めてお話がしたいのですが」
「すでにそれは終了したはずです。今月中に返せないなら、貴女が私の妻になるとねぇ」

 男の下卑た声が部屋中に響く。何とも気持ちの悪いというか不快だ。
 アリアの身体が少しばかり震えていた。ポーカーフェイスな彼女に反応させるとは、なかなかゲスな才能があるではないか。

「その契約について、魔法使いであるスグル様から異論が出ています。私の身体が欲しいので拒否するようにと」
「なっ!? 魔法使いに身体を売ったのですか!?」

 嘘は言っていないが間違いなく誤解する言い方である。
 あれは確信犯だ。案の定、向こうの男の声に焦りが生まれた。

「つきましては今日か明日に話し合いの場を設けるようにと。逆らうならば貴方の村は焼き払うと仰っていました」
「なっ、なっ……!? い、いくら魔法使いとてそんなことが許されるわけが……! アリア、嘘をついているのでしょう!?」
「本当のことだ。何でもいいからさっさと準備しろ」
「い、今のが魔法使いの声ですか!? 何の権利があって私のアリアを奪おうと! こちらには契約があって……!」

 ……こいつは俺が最も嫌いなタイプだな。利権を守るためにどうでもいい話をグダグダと。
 こういう輩の話を遮る方法は知っている。声を出している陣のある壁へと近づき、時計から陶器の割れる音や爆破音を流した。

「ひいっ!? い、今のは何の音ですか!?」
「さっさと話しあいの場を作れと、スグル様がお怒りです。作らないならばすぐにあなたの村を滅ぼすと……」
「ひ、ひいっ!? す、すぐにします! 今から向かいますので!」

 無暗に怒鳴るよりもこのほうが話が早い。ぐちぐちうるさいスポンサー相手にも効果があった。
 
「すぐに来ると行っていたがどれくらいかかりそうだ?」
「あの様子なら二、三時間で来ると思います」
「もう少し脅せば一時間で来れるか?」
「なかなか鬼畜ですね。流石に馬の走る速度にも限度はあるかと」

 隣村の村長が来るまでもう少しアリアとお茶をしながら待つことにした。
 無駄な時間ではなく情報収集に費やした。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

処理中です...