天才科学者の異世界無双記 ~SFチートで街づくり~

クロン

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村発展編

28話 貴族と交渉

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「ボクさ、スグルのことはおかしな人として見てたよ。でも今回のは正気なの? 冗談じゃなくて?」
「無論本気だ」
「……どこの世界に! 戦争しかける相手の足元で商売する人がいるのさ!」

 王都で以前から出している出店の前で、リタが何やら怒っている。
 最近は軌道にのっていて結構売れ行きもいい。店を閉める選択肢などない。
 怒りながら勝手に商品を食らうリタに電撃を浴びせる。

「痛っ!? 酷い……そもそも王都で店出さなくてもいいじゃないか……バレたらヤバイよ」
「大丈夫だ、木偶の棒ズは最悪自爆させる。最近雇ったバイトは元々王都に住んでいる者だ。仮に何かあっても私は痛まない」
「その発想がまずいんだって!」

 木偶の棒の店番だけでは限界を感じたので、最近は人を雇っている。
 確かにこの店の正体がばれれば、バイトはまずい立ち位置になるだろう。
 無論、一応は雇っているので弁明はする。
 バイトたちは我らとは関係がないと言うつもりだが、あの無能な王なので死刑にしそうだ。
 
「もう撤収しようよ。商売はジュラやジュペタでやれば……」
「愚か者。ここでの売り上げは敵の金をそのまま奪うことに等しい」

 どうせならもう何店舗か出したいくらいだ。
 現状は私が面倒を見ないとダメなのでしていないが。

「リタ、スグルに言ってもムダ。それよりも目的を果たそう」
「……アリアってけっこう冷たいよね」

 アリアが私の袖を引っ張る。
 わざわざ敵地に赴いたのはこの店のためではない。
 王都にいる貴族にアポイントがとれた。こちらの味方にするために交渉にやってきたのだ。
 
「でもさ、交渉に失敗したらボクたちのこと密告されない?」
「その前に記憶を消す。それに私が捕らえられるわけがない」

 目的の貴族の屋敷に向かいながら話す。
 何度でも言うが、戦力的には王都など私一人で蹂躙できる。
 それをしないのは鉱山を手に入れた後が面倒なのと、戦いを広げたくないアリアの願いのためだ。
 
「まぁそうだけどさ……でもこんな時まで浮いて移動して目立たなくても……ばれたら交渉はどうするのさ」
「その時は私たちの交渉相手が、王都に歯向かった逆賊に認定される。私と組む以外の選択肢がなくなるだけだ」
「考え方が酷すぎる」

 酷いのではなく合理的なのだ。
 そんなことを話している間に目的の屋敷の前へと着いた。
 アリアが門番に用件を話すと、すぐに屋敷内へと入るように言われる。
 そのまま応対室らしき部屋へと案内されると、すでに一人の青年が椅子に座っていた。
 横にはボディーガードらしきガタイのいい男が立っている。
 私も勧められて彼に対面する位置の席に腰かける。アリアはその横の椅子に座り、リタは役に立たないが名目上の警備として傍に立たせる。

「あなたがスグル様ですね?」
「そうだ。単刀直入に言う、王都を裏切って私につけ」
「スグル、少しは交渉すべき」

 私の言葉に貴族は少し黙った後。

「……今の王都がいいとは思えません。先日も休戦を忠言した軍務卿が捕縛されました」
「そんな生易しいレベルではないだろ。この王都は腐っている」

 チンピラが顔をきかせて、無能な王が好き放題している。
 芯が腐っているのだからまともなわけがない。
 青年もそう思っているようで反論してこない。

「なので私たちの味方となって、この国を救う手助けをしてほしいです」
「魅力的な言葉です。ですがお嬢さん、貴族はそう簡単ではない。清廉な意思だけでは生きていけません」

 青年はこちらに笑って語り掛ける。
 笑みこそ浮かべているがその言葉は軽くはない。
 
「まどろっこしい話をするな。裏切ることの恩恵、勝った後に何を得られるか。そして勝てるかどうかを示せだろう」
「……ええ。それらがなければ私のような貴族は動きません。軍務卿のようになるのは嫌ですから」

 予想はしていたが貴族はやはり面倒だ。
 いちいち言葉が遠回りで。
 リタに目配せをすると彼女はうなずいて、持っていたキャッシュケースを開いて中身を見せた。
 そこには大量の金貨が入っている。

「ほう。これはこれは」
「裏切るならばくれてやる。それに貴様の近辺を護衛する者もつける」

 指を鳴らして近くに忍ばせていたケチャップの一人を呼ぶ。
 奴は貴族の目の前にいきなり現れた。
 ボディーガードがようやく反応して剣を抜くが遅い。暗殺する気ならばとっくに殺している。
 
「……これは凄腕ですね。私の護衛が一切反応できなかった」
「貴様の護衛が無能なのもあるがな」
「これでも元Bランク冒険者なのですがね」

 貴族の護衛が悔しそうな顔をして、拳を強く握っている。
 以前からBランク冒険者をよく聞くが、一人たりとも優秀なのを知らない。
 内心では馬鹿ランクのBではないだろうかと思い始めている。

「ちなみにこの者は血濡りの刃のメンバーです」

 アリアが暗殺者たちの素性を説明する。
 そんなどうでもいいことは言わなくていい気がするが。
 だが貴族は何やら感心して手を叩く。

「……なんと。あの者たちを抱え込むとはすごいですね。……武力も財力もあると」

 この程度の奴らを捕獲して使うだけで謎の高評価とは。
 そのうちBランク冒険者狩りでもするか? 
 貴族は腕を組んでしばらく黙って考え込んだ後。

「いいでしょう。貴方達のほうが今の王よりよさそうだ」
「元から比べるに値しないだろうが」

 あんな無能と比べられたのは不愉快だな。
 貴族が握手を求めてきたので応じる。これで交渉は成立した。
 
「ちなみに今後はどのような展望を?」
「他にも貴族をある程度味方につけて、その後は王都を占領する」
「多方面に侵攻中とはいえ、王都には常に軍隊を置いています。貴方たちの巨大ゴーレムならば可能かもしれませんが」
「ヴィントのこと知ってるんだ……」

 リタが驚いている。だが知らないような無能な貴族など味方にいらん。
 あれだけ派手に町を占領したのだから、情報網を持っている者ならば知らされていて当然だ。
 二十五メートルの巨大ロボットが暴れたのだ。隠す方が難しい。

「そもそも今この瞬間でも占領は可能だ。この国が全方面に攻撃を仕掛けている無能なせいで行わないだけで」
「確かに今のあなたに従う者は少数でしょうね。そこは私が寝返りそうな貴族をご紹介しましょう」

 貴族が指を鳴らすと老齢の執事が部屋に入ってきて、私に一枚の紙を渡す。
 受け取って内容を見ると、何名かの貴族の名前がのっている。
 
「目端の利く者達です。彼らならば裏工作で寝返る、もしくは中立になってくれます」
「何が望みだ?」
「貴方が王になった時、私に今と変わらぬ立場をもらえれば」

 貴族は軽い笑みを浮かべた。
 こいつは分相応という言葉を知っているようだ。俗物以下はだいたいがその言葉を理解していない。
 自分の力を見誤って失敗するのだ。そういった意味では悪くない。
 だが他人の分相応は見誤っている。

「いいだろう。だが一つ勘違いしている、この国の王になるのは私ではない」

 リタから「えっ」と言葉が漏れ、貴族の顔に一瞬だけ動揺の色が走った。
 だがすぐに軽薄な笑みに戻ると私に対して口を開く。

「それはそれは……では誰がこの国の王になるのですか?」
「私の横に座っている者だ」

 その言葉で皆が私の横を見て、辺りが静まり返った。
 貴族もボディーガードもリタも、アリアまでもが呆けた顔になる。
 そしてしばらくした後。

「ええっ!? ど、どういうこと!? スグルが王になるんじゃないの!?」
「ス、スグル、私も聞いてない」
「な、なんと……そのような少女を王に……!? いかなる理由で……?」

 一気に噴き出すように質問の嵐だ。
 しかしアリアも予想していなかったとは。私の思考はだいたい理解していると思っていたが。
 
「決まっている。私は政治なんぞに興味はない、次にむさい男より少女が王のほうが受けがいい」
「そ、そんな理由でアリアにやらせるなんて……!? そんなの皆、納得しないよ!」

 リタが特に思考もせずに叫ぶ。
 だが貴族のほうはアリアを注意深く観察した後。

「……確かに一理ありますね。この少女を救国の乙女などに祭り上げれば……」

 正直二つ目の理由は取って付けたのだが、勝手に納得してくれたらしい。
 貴族はしばらく考え込んだ後に私の手を握った。

「いいでしょう。私も全力で支援します」

 交渉は無事にまとまり、私の思惑通りに事が進みそうだ。
 男の手が離れた後にアリアが耳元に顔を寄せてくる。

「……スグル、後で詳しい話を聞く」
「構わん。話す内容は先ほどと大して変わらんがな」
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