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村発展編
31話 ジュペタの住民たち
しおりを挟むジュペタの住民たちを移住させて一ヵ月が経った。
どうせ問題を起こすだろうと思って、ジュラの町から警備用の人間を借りていたがムダだった。
信じられないことにこいつらは特に騒ぎを起こさなかった。
せっかく何かしたら実験体にする用意をしていたのに。
今日もスグル町で現行犯を探しているのだが見つからない。
「予想外だ。いくつか実験したいことがあったのに。まさか大人しくしているとは」
「そりゃね……彼らへの第一声が、問題を起こせば実験体にするので大丈夫だなんて」
リタがどうでもよさそうに辺りを監視している。
ジュペタの住民たちがやってきた時に、全員を集めて話したことがある。
アリアが人権を保障すると言った後に先の言葉を述べた。
せっかく問題を起こしていいと言ってやったのに。
「スグルの脅しで皆平和」
「脅しではない。真実を告げただけだ」
「あー……だからこそみんな怖がったんだろうね。淡々と事実述べてくる人怖いし」
どうやら私のミスのようだ。
もう少し優しくもしくは言わなければよかった。
せっかく実験体が手に入るはずだったのに。悪さをしていない人間を使うと、民衆がうるさいからこの段階だとよくない。
犯罪に手を染めた人間ならば、懲役と称して何とでもなったものを。
「でも本当すごいよね。町がすぐに作られるなんて」
「科学の力はこの程度ではない」
本来ならば木造建築ではなく、強化プラスチックなどで建物を作りたかった。
資源に余裕がないので難しかったのが残念だ。
火攻めでもされれば大火事になってしまう。
さらに町の中をしばらく歩いていると多少身なりの整った男が、我々の前をふさぐように立つ。
「私はジュペタの町でも有数の資産家にして貴族。貴様らの代わりにこの町を率いてやろう」
「いいぞ、貴様のような存在を待っていた。リタ、こいつを連行しろ」
「なっ!? 無礼者! 私を誰だと!?」
「今から実験体にされる可哀そうな人だよ」
男はリタによって一瞬で縄で後ろ手に縛られ、近くに人形として飾られていた木偶の棒に渡されて連行されていく。
木偶の棒ズは町のそこらに人形のように置かれている。
有事の際に暴徒を鎮圧するための、待機兵士みたいなものだ。
早々に出番が来ると思っていたが、こいつもまともに動いていない。
「しかしあんな馬鹿がいるとはな」
「すごいよね。ある意味尊敬するよ、どう考えたって思い通りになるわけないのに」
「馬鹿という存在は予想できないことを引き起こす。ルルもそうだろう」
「本人に言ったらダメだよそれ」
押しかけ魔法使いことルルは頭が悪い。
魔法以外のことは全く役に立たない。前も部屋の清掃を命じたら、部屋の中が完全に浸水してしまった。
料理を任せれば分厚い肉を炎の魔法で消滅させるという快挙を成し遂げた。
こちらに関しては異物を発生させなかったのでよしとする。
だが彼女はもう魔法を使うだけの装置にしたい。
やることなすこと想像つかないので、彼女のことを考えると頭が痛くなってくる。
「ルルのことはどうでもいい。それよりも私の自販機店はどうなっている?」
「売れてる。今日も三時間待ちだった」
「優先順位権とか並び代行をしてる人もいる始末だよ」
リタが呆れながら呟く。
いつの間にか自動販売機の店が遊園地みたいになっているようだ。
あんな物に三時間も待つとか暇人にも限度があるぞ。
「並び代行はわかる。優先順位権ってどういうこと?」
「アリアは知らないの? 列に十人くらいで並んでおいて、もうすぐ買える順番になると後ろの人にずっと先を譲るんだ。そうすると彼らは進まなくなるから」
「誰かが優先順位権を買ったら、順番を変わって前に進ませると」
何ともセコイ事を本当に実行する奴もいる。
ダフ的な行為かつ悪質と言うことにして捕らえてやろう。
「リタ、その優先順位権を売ってる奴を捕獲しろ」
「えっ。でも違反しているわけじゃないんじゃ……」
「私は優先順位チケットを売るつもりだった。その利益をかすめ取っているのだ」
リタはしぶしぶといった体で、自動販売機の店へと向かっていった。
優先順位は立派な商売になる。それをかすめ取る奴は実験体だ。
「スグル、今回はいいけどやりすぎダメ」
アリアが淡々と述べてくる。
私からすれば全くやりすぎていないのだが。本来ならば百人単位で捕獲したいところだ。
彼女に反論しようとすると悲鳴が聞こえてきた。
「や、やめろ! 俺達はただ時間のない人のために並んでいただけだ!」
「はいはーい。犯罪者はみんな自分は悪くないって言うんだよ。安心しないでいいよ、君たちはきっと恐ろしい目に合うから」
「ちょっ!? 待てよ!? 俺は白い服着た偉そうな奴から、いい儲け話があるって聞いただけだ!」
アリアが私のほうを睨んでくるが無視する。
これで実験体が十人ほど手に入った。
流石に私にも最低限の心はあるので、元に戻れない実験はやらないことにするが。
「スグル、それはダメ」
「気にするな。王たるもの、清濁併せ飲むことも必要だ」
「スグルは汚濁しかない」
アリアの責めるような視線を受け流す。
当然だ、清いとまともに研究などできない。
日本でも医学の道を切り開いたのは、当時禁忌とされていた人体解剖だ。
「そういえば元から村に住んでいた連中はどうした?」
「話をごまかした……皆はこの町の豪華な家を割り振った。今は町の役人として働いてる……私に対してすごくよそよそしくなった」
アリアは少し寂しそうに話してくる。
どうやらまだ生きていたようだ。完全に頭の中になかった。
「……私が本当に王になったら、みんな離れていきそうで怖い」
さらに声のトーンが落ちていく。
どうやらアリアでもこたえることはあるらしい。彼女にそういった感情はないと思っていた。
何故ならば私はそんなことは思わない。
「大丈夫だ。私の元に五年といた者はいない、近寄ってくるのは技術狙いか金狙いばかり。それでも特に問題は起きないし、一人は大切な者もいた」
「……もしかして慰めてる?」
「事実を述べたまでだ」
私に寄ってくる人間はほぼ全員が俗物だった。
辟易してもはや面会すらしなくなっていった。なので私の時代で信用できる存在はいない。
出会って間もないリタやアリアが、今では一番信用できる人間なのだから。
「ありがとう。スグルは傍にいてくれる?」
「私はそのうち離れると言っただろう」
私の言葉を聞いたアリアの表情が一瞬だけ悲しげに見えた。
だが今は無表情なので気のせいだ。
「……なるべく長くいて欲しい」
「まだやることはそれなりにある」
鉱山を手に入れてタイムマシンを修理し、悪魔やドラゴンの捕獲や調査。
ついでに魔法の分析もだ。これらを終えてから元の世界に帰りたい。
そんなことを考えているとリタが戻ってきた。
彼女は十人を後ろでに縛ったロープを持って、全員を連行してこちらにやってくる。
「あぁ! こいつです! この男が俺達に言ってきたんです!」
「スグル!? 本当に何やってるの!?」
「やれやれ。お前はこんな薄汚い奴らの言葉を信じるのか? 嘘に決まってるだろう」
私の言葉を聞いたリタは、当然のごとく彼らの言葉を嘘と判断。
そのまま連行していって……。
「間違いなくスグルがやったでしょ。アリア、彼らをどうしようか」
「今回は解放してあげて。でも次にやったらもう許さない」
「ひいっ!? も、もうしません!」
リタが彼らの後ろ手の縄を切って解放する。
アリアの言葉に男たちは恐怖して散り散りに逃げて行った。
「何故だ」
「「自分の胸に聞いてみて」」
おかしい。私も彼女らに信用されていると思っていたのだが。
腕を組んで考えているとアリアが呟く。
「スグルのことは信用してる。だからこそ」
「そうだね。信用してるからこそだね」
ふむ。どうやら彼女らの中では私の評価は低いようだ。
少しくらいプレゼントでご機嫌を取るべきだろうか。
実験体は惜しかったが王都にこの町に攻める動きがあると、諜報部隊ケチャップから聞いている。
近いうちに楽しい漁ができそうなので今回は諦めよう。
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