44 / 53
村発展編
44話 王都出兵
しおりを挟むあの宴会から二週間が経ち、王都への出兵が決行される日となった。
すでに王都は我々の軍勢が四方を囲んでいる。
敵はろくな抵抗もせずに王都に引きこもっているのだ。なのでほとんど戦いもなくこの状態に持っていけた。
後は王都を攻めて占領すればすべて終わりだ。城塞都市なだけあって正攻法では少々時間はかかりそうではあるが。
だがこのまま攻めるのはよくない。こちらに理性があって正しいと思わせる必要がある。
そのために私とアリアにリタ、そしてアダムだけで王都の正門の前へと歩いてきた。
ようは最後通告である。ここで降伏すれば王の首で許すと言って、慈悲深いように思わせるのだ。
あの無能な王が納得するわけがないので、ただのパフォーマンスにしかならないが。
私は拡声器を手元に転送して、門に向かって呼びかける。
「我々はこの後、王都を攻める! だが悪魔に魂を売った王を引き渡すならば、中止して交渉のテーブルにつく用意がある!」
王都中に響くように最大音量で拡声したが、正門に反応などはない。
予想通りだ。これでこちらは慈悲を与えたが、相手が無視した構図が作れた。
しばらく待った後、さっさと攻め滅ぼすのみである。
「どうせ降伏などしてこないだろうな。アリア、この巨大な壁に囲まれた城塞都市をどう攻めるつもりだ?」
「どこかの壁を魔法で破壊する。いくら強固だろうといつか壊せる」
「なるほど。別に急ぐ必要はないからな」
目の前にそびえたつ壁を見る。レンガ造りなので燃えたりはしないが、魔法を受けてもビクともしないほどではない。
それなりに強い魔法を撃ち続ければいずれは壊れる。
さらに敵は四方を我々に囲まれているので満足に補給できない。
どうしても壁を壊せないならば兵糧攻めに切り替えも可能だ。
「ちなみに私ならばヴィントの一撃で粉砕する」
「スグル基準で物ごと話さないでよ……それに今回は悪魔以外は手を貸さないんでしょ?」
リタが私に含みを持った視線を向ける。
彼女の言う通り、この戦いで私はあまり手を貸さないつもりだ。
強化版木偶の棒ズ――もう木偶の棒かは怪しいが――やケチャップズは与えるがそれくらいだ。
この戦いをもって彼女たちを私から離れさせる。悪魔についてだけは厳しそうなので別だが。
「私がこれ以上出しゃばっても仕方ない。それに木偶の棒ズもかなり強化されているはずだ」
「ああうん……狂うと書いて狂化な気はするけどね……」
リタが何かを思い出しているようで遠い目をしている。
彼女は木偶の棒の指揮官として、新機能などを徹底的に叩き込んだ。
ぜひとも使いこなして欲しい。うまくやればスペック上は悪魔にも対抗できるはず。
「悪魔が何とかなるなら王都は簡単に占領できると思う。敵軍に士気があるとは思えない」
「そうだねぇ……悪魔に魂を売った王だもんね」
アリアが的確な意見を述べる。
国軍の兵士たちも王が悪魔と組んでいることは知っている。
その時点でどんなに正義だと述べても嘘くさくなる。自分たちの正しさが損なわれている上、劣勢な軍の士気など考えるまでもない。
クーデターが起こる可能性も考えていたのだが……どうやら現状は起きていないようだ。
仮に起きていたとしても悪魔に護衛された王を殺すのは難しいが。
「アダムは思う、王都の民衆は悲惨であると」
「……そうだな。無能な王のせいで住んでいる場所が戦場になる」
何となく呟いたであろうアダムに、無難な返事しつつも内心はかなり驚いていた。
……アダムが人を悲惨と言ったことが信じがたい。
彼女は人間の心が読めないアンドロイドだ。命令なども応用が一切聞かない。
例えばアリアを見ていてくれと言えば、彼女が誘拐されても見ているだけだろう。
そんなアダムが民衆を悲惨と表現するとは……以前にアリアが連れ去られた時に私に通信を寄越したこともあった。
どうやら彼女も自己進化しているのだろう。
「兵士たちに住民には被害を加えないように厳命する。後は少しでも早く王を捕らえる」
「それがいいだろうな。いくら上が命令しても暴走する兵士は出る」
統率された兵士でも住民に乱暴を振るう者は現れる。
ましてやこんな義勇軍では暴走する兵士がいないわけがない。
何なら指揮の頭である貴族でも滅茶苦茶する者が出そうだ。
戦場が王都という狭い場所で幸いだった。この狭い戦場ならばある程度は目を届かせることができる。
もし国全体で散らばって戦っていたら悲惨なことになっていたな。
「ケチャップズに指示をしておけ。暴虐を振るう者は容赦するなと」
「そのつもり。後は貴族たちに改めて自制ある行動を命じる……気休めだけど」
アリアが少し眉をひそめながら呟く。
彼女にとっては王都の住民が被害にあうのは嫌なのだろう。だが戦争なのだから誰も傷つかないのは無理だ。
彼女を慰めようとすると王都の中から轟音が響く。
音源の方に目を向けると何と正門が開きだしているのが見えた。
開いた門には馬に騎乗した将軍とおぼしき者が、随伴した数人の兵士と共にいた。
「我ら王都護衛団は救国の乙女たちに降伏する!」
騎乗した男が大きな声で叫ぶ。なんとあの無意味な最後通告が有効だったのか。
信じられん。あの王が降伏を許すなどとは思えないが。
というよりつまらん。ここまで来たならば戦うべきだろうが。
罠の可能性もあるが、アリアは彼らの前へと歩いていく。
それを見て将軍らしき人物は馬から降りて頭を下げた。
「私はこの軍の筆頭である。王都は私たちに完全降伏するのですか?」
「……いえ、降伏するのは王都の周辺を守っている者たち。私が率いる軍です。王城にいる近衛騎士団や王は戦うでしょう」
「なるほど。貴様の独断で自分の率いる軍は降伏すると」
「その通りです。虫のいい話ではあることは承知しています。ですが悪魔に魂を売った王にもはや仕えることはできない」
将軍は頭を下げたまま真摯にアリアに願う。
心音や精神波を見てもこいつは嘘をついていない。あの王は実際無能以下の存在だ、ついていけない者も当然出てくるだろう。
私としてはこいつらの扱いはどうでもいいのでアリアに一任する。
彼女はしばらく考え込んだ後。
「わかりました。では王都の門を全て開き、貴方達の軍は捕縛させていただきます」
「……寛大な処置に感謝いたします」
アリアの命令に将軍は礼を述べた。
信用ならない者は使わないという判断は間違っていない。
まぁ彼女の率いる義勇軍自体に信用出来る者などほぼいないのだが。
それでもこの土壇場で裏切る者をすぐに登用するのはな。
「王の居場所や、近衛騎士団の戦力など分かる情報は全て開示してもらいます。有益な物ならば貴方達の今後の処遇も変わります。ケチャップズの人、お願いします」
アリアの声に応じてどこからともなく黒装束の者が現れる。
そいつは将軍を連れてここから離れていった。周りの目のない場所で事情聴取みたいなことを行うのだろう。
正直な話、あまり大した情報は得られないと思っている。
まぁ敵の兵力が減ったのはいい話だ。
「後は王城に突入して王を捕らえるだけか。随分と楽な作業だな」
「……悪魔が三十って、伝説通りなら国がいくつも滅ぶんだけどなぁ。一体でも魔法使いが束になっても叶わないのに」
「伝説は盛られるものだからな。しかし城を攻めるだけならば義勇軍を使う必要はないのでは?」
「うん。出来れば私たちの手持ち戦力だけで終わらせたい」
アリアの言葉に頷く。そこらの有象無象に手柄を与えると面倒だ。
それに彼女の軍だけで王を倒せば箔もつく。
これも全ては王が無能すぎるおかげだ。諸外国に牽制するために、国境に大量の軍を常に置く必要がある。
そのため内部のクーデターにまともな戦力を割けない。
もしまともな国ならば血みどろの内戦になっていただろう。
「全軍待機。まずは私の軍だけで王城を偵察する」
アリアが伝令に指示を通達させて、私たちは正門から王都へと入っていった。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる