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村発展編
48話 リタと会話
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珍しくリタに引っ張られる形で、外に出かけることになった。
飛行車で三日ほどかけて竜の巣へ向かって卵を拝借した後、彼女の行きたいところに向かう途中。
私が運転席で車を飛行運転し、リタは助手席で卵を抱えている。
「……竜と交渉するなんてすごいね」
「知的生物なら交渉の余地はある。私とて不必要な争いは起こさない」
「え?」
「なんだその何かを言いたそうな目は。私は平和主義者だぞ」
ドラゴンは人と同じ、もしくはそれ以上の知性があった。
なので力づくで奪うのではなくて交渉。ようは物々交換で卵を一つもらい受けたのだ。
ちなみに交換物は竜のガラスの彫像なので安い。
「でもガラス程度で交換できるなんてね……竜は宝物が好きって聞いてたから、宝石とか金貨とか。」
「ガラス細工とはいえ、この世界ではあの精巧な造りは無理だ。それに竜は人間の価値ある物が好きなわけではない」
ダイヤとか宝石に比べてガラスの価値が落ちる。それは売値という人間の基準。
竜からすれば知ったことではない。見た目が美しい物が全てだ。
なので自画像ならぬ自彫像を作成して譲り渡した。
ちなみに作成はいつもの立体実物作成機である。
「たしかにあの彫像はすごかったけど……」
「互いに不満なく交換したのだ、問題はない。それよりリタ、お前の行きたい場所は本当にスグル町でいいのか?」
「うん。実はおいしい料理屋ができたって聞いてね」
リタが抱えた卵を観察しながら答える。
スグル町の料理屋ならばいつでも行けるだろうに。
高いが男女ペアで割引でもあるのだろうか。
「スグル町は恐ろしい勢いで人が集まって、建物が建てられているとは聞くな」
「そりゃ王都になるんだもん。色々な物が集まってきて大忙し。人手がいくらあっても足りないよ」
「何でお前は三日も休んでいるんだ」
「だからスグルが急にあと一週間って言うからでしょ!?」
少し頬を赤く染めながら叫ぶリタ。本当にこいつはここにいて大丈夫なのだろうか。
仮にも近衛隊長のくせに。
そんなことを考えているとスグル町の真上に到着した。
「リタ、その料理屋はどこだ? このままそこに降りるぞ」
「また目立ちそうだね……まぁいいや。町の北のほうだよ」
リタのナビゲーションに従って車を地上に降ろす。
近くにいた民衆がざわざわとこちらを見て騒いでいるが、どうでもいいので無視だ。
車のドアを開けて外に出ると、更に周りがうるさくなった。
「お、おい。あれって王女の懐刀のリタ様じゃ……」
「一緒にいる男は誰だ?」
「ば、馬鹿!? お前はここに来てすぐだから知らないのか!? 指を指すな!? あのお方は魔王だ! ゴブリンにされるぞ!?」
何やら私は魔王と呼ばれているらしい。
同じく車から出たリタが隣に来て爆笑している。
「魔王スグルだってさ! どう思う?」
「勝手に魔の王にするな。私は一介の科学者に過ぎない」
「スグルの世界で科学者って別名が魔王だったりしない?」
「そんなわけあるか」
民衆になんと思われようがどうでもいいが。何故魔王などと呼ばれているのか理解に苦しむ。
しかもリタは懐刀と言われているのに。
そもそも王都を攻略してから私は表舞台に出ていない。
なのに魔王などと呼ばれていることが意味不明だ。
「くだらんな。さっさと料理屋とやらに行くぞ」
「ぷっ……わかりました、魔王様」
「おい」
王に対するかのように礼儀よく返答するリタ。
その姿は少し前とは比べ物にならないほど綺麗だった。
どうやら近衛隊長だけあってかなり躾けられたらしい。
リタについていくと大きめの建物に入る。どうやらここが料理屋らしい。
驚いたことに内装は和風である。この世界には刀や着物があるので、あり得ない話ではないが。
店員に座敷の個室へと案内されて、リタと机を挟んで向かい合うように畳に座った。
「興味深い店だな。もし時間があればこの世界の和風文化も調べたのだが」
「スグルの世界と似た文化なんだよね」
「似たなんて言葉では片づけられん、ほぼ同じだ。偶然とは考えづらい」
可能性としては私のように別世界からやってきたものがいる。
タイムマシンを最初に開発したのは私だが、更に未来でこの世界にやってきた者がいれば矛盾しない。
もしくはタイムマシン以外の方法で転移もゼロではない。
歴史でも集団が転移した話を聞く。日本の言葉で言うならば神隠しだ。
タイムマシン自体が磁場の影響を大きく受ける装置なのだ。
ノーフォーク連隊が消滅したなどの話もあるが、磁場などの影響で彼らは別世界に転移した確率はゼロではない。
机や畳、座布団などを観察しているとリタが話しかけてきた。
「ねえスグル。ボクね、スグルには感謝してもしきれないんだ」
「先ほども聞いた。別に感謝する必要はない。それに私もリタにはいい意味で予想を裏切られた」
「えっ?」
目を丸くしているリタを見て、彼女をギルドで雇った時のことを思い出す。
そこまで時間が経ったわけではないが、かなり昔のことのように感じる。
最初は最低限まともだったのと、何やら力を求めていたので雇っただけだ。
「最初は半分数合わせ、消去法で取った人材だ。最低限、村の警備だけできればと思っていた」
「ひどいなぁ……」
「だが今のお前はどうだ? アリアの頼れる友人で近衛隊長だ。私の想像を遥かに上回っている」
そもそもがアリアが王になることが予想外だが、リタについても思ったよりも遥かに必要な人材になった。
もし彼女がいなくなったらアリアは潰れてしまう。
「私は人の顔や名前に興味はない。だが元の世界に戻っても、お前とアリアのことは忘れない」
「……そう。スグルに褒められるなんて初めてかな」
「世辞は嫌いだからな」
リタは笑みこそ浮かべているが普段とは違って暗い。
褒め方がまずかっただろうか。
そんな空気をかき消すように襖が開いて、店員が料理を運んでくる。
一つの大きな皿にコースの料理が全て載っているようだ。
リタの前にも同じ皿が置かれた。
「料理は以上です。後は店員は来ませんのでごゆるりと」
店員はそんなことを言い残して部屋から出ていき、再び私とリタだけの空間が作られる。
高級料亭のような趣だけあって、政治家などが使いそうな店だな。
しかし料理が多い。
私は普段は栄養食などで済ませることも多く胃が細いのだ。
ほぼ間違いなく食べ切れない。
「リタ、私の分の料理をいくらかいらないか?」
「……普通は逆じゃない?」
「私は普通ではないからな」
リタはクスリと笑った後、視線を下に落とした。
何やらさっきから彼女の様子がおかしい気がする。情緒不安定というか。
「体調がすぐれないならば帰るか?」
「……大丈夫。それよりも話したいことがあるんだ」
リタは真剣な表情でこちらを見つめてくる。
心電図などを見てもかなり緊張していることがわかる。
どうやらかなり重要な話のようだ。
「なんだ?」
「…………ボクは、スグルのことが好き」
「私も君のことは好んでいる」
私は役に立つ人間が好きだ。リタもアリアも私に益をもたらしてくれる。
だが返答が気に食わなかったのか、リタは勢いよく首を横に振った。
「なんかそんな風に言われる気がしたよ! そうじゃないんだ! ボクは……えーっと……女として、スグルが好きなんだ……!」
顔を真っ赤にしながらリタが叫ぶ。
……なるほど。いくら私が人の心に興味がなくても流石にわかる。
これは告白というものだろうか。
「私はあと四日で元の世界に帰る。どう返事をしても好ましい結果にはならないだろう」
「……わかってる。ボクの自己満足、言いたかっただけ。それにスグルはアリア以外は眼中にないし」
「そんなことはない。この世界で私の眼中にあるのはアリアとリタだけだ」
「……ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」
リタが目に涙を溜めながら小さく呟き、私は思わずため息をついた。
手元に小包を転送し彼女に手渡す。
「え……これは……?」
「言っただろう、私は世辞が嫌いだ。リタ、お前には感謝している。それは私の最期の贈り物、原子分解銃だ」
「以前にアリアに渡したやつ……」
「あれよりも高性能だ。君の技術に合わせて連射性能や射程距離も上げている」
リタは銃を好んでいた。それは村を寄生人草から取り戻すためではあった。
だが銃自体も嫌いではなかったはず。ならば今後持っていて役に立つはずだ。
彼女は小包をまじまじと見つめた後、急に笑い出した。
「せっかく包装してるのに、開ける前に中身言ったらダメじゃないか! 雰囲気がこう!」
「どうせすぐにわかることだろう」
「あはは……スグルらしいや。……ありがとう、スグルと思って大事にする」
「きっとリタの役に立つはずだ」
リタは泣きながら笑っていた。
私は正しい贈り物をできたのだろうか。
出来れば彼女には泣いてほしくなかったので、失敗だったかもしれない。
飛行車で三日ほどかけて竜の巣へ向かって卵を拝借した後、彼女の行きたいところに向かう途中。
私が運転席で車を飛行運転し、リタは助手席で卵を抱えている。
「……竜と交渉するなんてすごいね」
「知的生物なら交渉の余地はある。私とて不必要な争いは起こさない」
「え?」
「なんだその何かを言いたそうな目は。私は平和主義者だぞ」
ドラゴンは人と同じ、もしくはそれ以上の知性があった。
なので力づくで奪うのではなくて交渉。ようは物々交換で卵を一つもらい受けたのだ。
ちなみに交換物は竜のガラスの彫像なので安い。
「でもガラス程度で交換できるなんてね……竜は宝物が好きって聞いてたから、宝石とか金貨とか。」
「ガラス細工とはいえ、この世界ではあの精巧な造りは無理だ。それに竜は人間の価値ある物が好きなわけではない」
ダイヤとか宝石に比べてガラスの価値が落ちる。それは売値という人間の基準。
竜からすれば知ったことではない。見た目が美しい物が全てだ。
なので自画像ならぬ自彫像を作成して譲り渡した。
ちなみに作成はいつもの立体実物作成機である。
「たしかにあの彫像はすごかったけど……」
「互いに不満なく交換したのだ、問題はない。それよりリタ、お前の行きたい場所は本当にスグル町でいいのか?」
「うん。実はおいしい料理屋ができたって聞いてね」
リタが抱えた卵を観察しながら答える。
スグル町の料理屋ならばいつでも行けるだろうに。
高いが男女ペアで割引でもあるのだろうか。
「スグル町は恐ろしい勢いで人が集まって、建物が建てられているとは聞くな」
「そりゃ王都になるんだもん。色々な物が集まってきて大忙し。人手がいくらあっても足りないよ」
「何でお前は三日も休んでいるんだ」
「だからスグルが急にあと一週間って言うからでしょ!?」
少し頬を赤く染めながら叫ぶリタ。本当にこいつはここにいて大丈夫なのだろうか。
仮にも近衛隊長のくせに。
そんなことを考えているとスグル町の真上に到着した。
「リタ、その料理屋はどこだ? このままそこに降りるぞ」
「また目立ちそうだね……まぁいいや。町の北のほうだよ」
リタのナビゲーションに従って車を地上に降ろす。
近くにいた民衆がざわざわとこちらを見て騒いでいるが、どうでもいいので無視だ。
車のドアを開けて外に出ると、更に周りがうるさくなった。
「お、おい。あれって王女の懐刀のリタ様じゃ……」
「一緒にいる男は誰だ?」
「ば、馬鹿!? お前はここに来てすぐだから知らないのか!? 指を指すな!? あのお方は魔王だ! ゴブリンにされるぞ!?」
何やら私は魔王と呼ばれているらしい。
同じく車から出たリタが隣に来て爆笑している。
「魔王スグルだってさ! どう思う?」
「勝手に魔の王にするな。私は一介の科学者に過ぎない」
「スグルの世界で科学者って別名が魔王だったりしない?」
「そんなわけあるか」
民衆になんと思われようがどうでもいいが。何故魔王などと呼ばれているのか理解に苦しむ。
しかもリタは懐刀と言われているのに。
そもそも王都を攻略してから私は表舞台に出ていない。
なのに魔王などと呼ばれていることが意味不明だ。
「くだらんな。さっさと料理屋とやらに行くぞ」
「ぷっ……わかりました、魔王様」
「おい」
王に対するかのように礼儀よく返答するリタ。
その姿は少し前とは比べ物にならないほど綺麗だった。
どうやら近衛隊長だけあってかなり躾けられたらしい。
リタについていくと大きめの建物に入る。どうやらここが料理屋らしい。
驚いたことに内装は和風である。この世界には刀や着物があるので、あり得ない話ではないが。
店員に座敷の個室へと案内されて、リタと机を挟んで向かい合うように畳に座った。
「興味深い店だな。もし時間があればこの世界の和風文化も調べたのだが」
「スグルの世界と似た文化なんだよね」
「似たなんて言葉では片づけられん、ほぼ同じだ。偶然とは考えづらい」
可能性としては私のように別世界からやってきたものがいる。
タイムマシンを最初に開発したのは私だが、更に未来でこの世界にやってきた者がいれば矛盾しない。
もしくはタイムマシン以外の方法で転移もゼロではない。
歴史でも集団が転移した話を聞く。日本の言葉で言うならば神隠しだ。
タイムマシン自体が磁場の影響を大きく受ける装置なのだ。
ノーフォーク連隊が消滅したなどの話もあるが、磁場などの影響で彼らは別世界に転移した確率はゼロではない。
机や畳、座布団などを観察しているとリタが話しかけてきた。
「ねえスグル。ボクね、スグルには感謝してもしきれないんだ」
「先ほども聞いた。別に感謝する必要はない。それに私もリタにはいい意味で予想を裏切られた」
「えっ?」
目を丸くしているリタを見て、彼女をギルドで雇った時のことを思い出す。
そこまで時間が経ったわけではないが、かなり昔のことのように感じる。
最初は最低限まともだったのと、何やら力を求めていたので雇っただけだ。
「最初は半分数合わせ、消去法で取った人材だ。最低限、村の警備だけできればと思っていた」
「ひどいなぁ……」
「だが今のお前はどうだ? アリアの頼れる友人で近衛隊長だ。私の想像を遥かに上回っている」
そもそもがアリアが王になることが予想外だが、リタについても思ったよりも遥かに必要な人材になった。
もし彼女がいなくなったらアリアは潰れてしまう。
「私は人の顔や名前に興味はない。だが元の世界に戻っても、お前とアリアのことは忘れない」
「……そう。スグルに褒められるなんて初めてかな」
「世辞は嫌いだからな」
リタは笑みこそ浮かべているが普段とは違って暗い。
褒め方がまずかっただろうか。
そんな空気をかき消すように襖が開いて、店員が料理を運んでくる。
一つの大きな皿にコースの料理が全て載っているようだ。
リタの前にも同じ皿が置かれた。
「料理は以上です。後は店員は来ませんのでごゆるりと」
店員はそんなことを言い残して部屋から出ていき、再び私とリタだけの空間が作られる。
高級料亭のような趣だけあって、政治家などが使いそうな店だな。
しかし料理が多い。
私は普段は栄養食などで済ませることも多く胃が細いのだ。
ほぼ間違いなく食べ切れない。
「リタ、私の分の料理をいくらかいらないか?」
「……普通は逆じゃない?」
「私は普通ではないからな」
リタはクスリと笑った後、視線を下に落とした。
何やらさっきから彼女の様子がおかしい気がする。情緒不安定というか。
「体調がすぐれないならば帰るか?」
「……大丈夫。それよりも話したいことがあるんだ」
リタは真剣な表情でこちらを見つめてくる。
心電図などを見てもかなり緊張していることがわかる。
どうやらかなり重要な話のようだ。
「なんだ?」
「…………ボクは、スグルのことが好き」
「私も君のことは好んでいる」
私は役に立つ人間が好きだ。リタもアリアも私に益をもたらしてくれる。
だが返答が気に食わなかったのか、リタは勢いよく首を横に振った。
「なんかそんな風に言われる気がしたよ! そうじゃないんだ! ボクは……えーっと……女として、スグルが好きなんだ……!」
顔を真っ赤にしながらリタが叫ぶ。
……なるほど。いくら私が人の心に興味がなくても流石にわかる。
これは告白というものだろうか。
「私はあと四日で元の世界に帰る。どう返事をしても好ましい結果にはならないだろう」
「……わかってる。ボクの自己満足、言いたかっただけ。それにスグルはアリア以外は眼中にないし」
「そんなことはない。この世界で私の眼中にあるのはアリアとリタだけだ」
「……ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」
リタが目に涙を溜めながら小さく呟き、私は思わずため息をついた。
手元に小包を転送し彼女に手渡す。
「え……これは……?」
「言っただろう、私は世辞が嫌いだ。リタ、お前には感謝している。それは私の最期の贈り物、原子分解銃だ」
「以前にアリアに渡したやつ……」
「あれよりも高性能だ。君の技術に合わせて連射性能や射程距離も上げている」
リタは銃を好んでいた。それは村を寄生人草から取り戻すためではあった。
だが銃自体も嫌いではなかったはず。ならば今後持っていて役に立つはずだ。
彼女は小包をまじまじと見つめた後、急に笑い出した。
「せっかく包装してるのに、開ける前に中身言ったらダメじゃないか! 雰囲気がこう!」
「どうせすぐにわかることだろう」
「あはは……スグルらしいや。……ありがとう、スグルと思って大事にする」
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