メイドロイドPちゃん

津嶋朋靖(つしまともやす)

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「今度は大丈夫だよ」

 夫が再びPちゃんを連れて研究室から出てきたのは、それから一週間後のことだった。

 そんな夫を妻はギロッと睨む。

「どう大丈夫だと言うの?」
「やはり、高性能のロボットに掃除ロボットの補助をさせるという考えが間違っていた。そこで今度はPちゃんを、整理整頓ロボに作り直したんだ。例えばこれ」

 夫は二冊のマンガ本を取り出す。

「こっちのマンガ本は読み終わった本、こっちは読んでいる途中」

 夫は二冊のマンガ本を床に落とす。

「Pちゃん。このマンガ本を片付けて」
「はい。ご主人様」

 Pちゃんは読み終わったマンガ本を本棚に入れて、読みかけのマンガ本をテーブルの上に置いた。

「このように、僕にとって最適の状態に整理してくれる」
「こういう風に片付けるように、あなたが予め指示したのではないの?」
「そうではない」

 夫は頭に着けていたバンダナのような装置を外した。

「これはBMI(ブレイン マシン インターフェース  脳とコンピュータなどとのインタフェースをとる機器等の総称)だ。この装置でPちゃんは、僕の思考を読み取ってマンガ本を片付けてくれた」

 夫は妻の頭にBMIを装着した。

「何事にも実験が必要だ。そこで、今夜、君はこれを付けたまま寝てくれ」
「寝ているだけでいいの?」
「寝てる方がいいんだ。起きていると雑多な思考に邪魔されてうまく行かない。睡眠中の君がレム睡眠に入ると、Pちゃんは稼働する。君は夢の中でPちゃんに指示を出して、整理整頓をさせるんだ。成功したら、翌朝、目を覚ましたときには家の中はすっかり……」

 綺麗になっていた。

 家中を占領していたガラクタはすっかり姿を消し、フローリングの床は、ピカピカに磨き上げられ、畳や絨毯の上も隅々まで掃除機が掛けられていた。

 可燃物と不燃物に分けられたゴミは、袋に詰めて玄関に置いてあった。その横のダンボールには、古着やペットボトルなどリサイクル品が入っている。食器や衣類、本などはすべて彼女の思い通りの食器棚や箪笥、本棚などの家具に、きちんと分類整理されて収納されていた。

「あの人の発明も、たまには役に立つのね」

 ほんの少し感動を覚えた直後、リビングの扉が開き、五歳になる娘が泣きながら飛び込んでくる。

「ママ!! パパがどこにも、いないよぉ!!」
「どうしたの?」

 娘を抱き止めて事情を聞いた。

「今朝は一緒にペスを散歩に連れて行こうって約束したのに。パパったら、どこにもいないの! お部屋にも、おトイレにも、お庭にも」

 娘はどうやら、家中探し回ったらしい。

「まったく。こんな可愛い娘をほったらかして、どこへ行ったんだか……。あの粗大ご……!?」

 その時、妻の脳裏に嫌な予感がよぎった。

「ま……まさか?」

 チャイムが鳴ったのはその時……

 インターホンの画面には清掃局職員の男が映っていた。

『奥さん。困りますよ。こんな事をされては』
「あの、なんの事でしょうか?」
『回収依頼があるから来てみれば……我々はヒマ人じゃないのですよ』
「ですから、なんの事ですか?」
『とぼけるのですか? 旦那さんと何があったか知りませんがね、粗大ごみに出す事ないでしょ!』

 男の背後には、紐でぐるぐる巻きに縛られた夫を、他の職員が助けている様子が映っていた。

 完
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