人身事故

津嶋朋靖(つしまともやす)

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 俺はスマホを操作して、ツイッターに書き込んだ。

『電車に轢かれたら死んじゃうだろ。どうやってここに書き込むんだよ?』

 送信すると同時に俺は女に視線を戻した。

「なに?」
「今、その犠牲者とやらに、返事を返したところだ」
「ああそう」

 女がスマホを操作しようとしたので、俺は女の腕を掴み俺の方にスマホを向けさせた。

「何するのよ?」
「おまえが返事を書き込まないか、確認させてもらう」
「はあ? まだ、あたしを疑っているの?」
「当たり前だ。このまま俺がおまえを見張っている。この後で何も書き込みがなければ、おまえが書き込んだ犯人だな」
「あのねえ……ん?」

 女は怪訝な表情を浮かべた。

「あたしへの疑いなら、晴れたようよ」
「なに? どういうことだ?」
「次の返信、来てる」
「なに!?」

 スマホに目をやると、確かに返信があった。

『私がどうやって書き込んだかは、どうでも良いことです。どうせ言ったところで、信じてはもらえないでしょう』

 確かに書き込まれているな。

 その間、この女がスマホを操作している様子はなかった。

 では、この女ではないのか? 本当に幽霊が書き込んでいるのか?

 いや、いや、いや! ありえんだろう!

 ん? 書き込みに続きがあるな。

『そんな事より、私をボケ呼ばわりしたことを謝罪しなさい』

 謝れだと? ふざけんな! 電車を止められて迷惑しているのはこっちだ!

 と、俺が書き込むと……

『電車を止めてしまった事は、申し訳ないと思っていますのでその事は謝ります。ごめんなさい。さあ、私は謝りましたよ。あなたも私に謝罪しなさい』
『謝らなかったらどうする? 化けて出るとでもいうのか?』

 いや待てよ。幽霊がツイッターに書き込んでいるという事態は『化けて出る』という現象には該当しないのか?

 いやいや、騙されるな。こいつは幽霊なんかじゃない。ただの愉快犯だ。

『待てよ。あんたは自分が事故で死んだ死者だと言っているけどな、それを証明するものはあるのかよ?』
『私のアカウント名は本名ですし、プロフィール写真は撮ったばかりのものです』
『で?』
『現時点で、警察は私の身元を特定するにいたっておりません。つまり、現時点でその事を知っているのは本人しかいません。後でこの事件が報道されれば、私が本人だという証明になります』

 本気で言っているのなら、おめでたい奴だ。マスコミが、すべての事故を報道するとでも思っているのか?

 仮にこの事故が報道されても、マスコミは絶対に犠牲者の名前なんか出さないぞ。

 そんなもの出したら、俺みたいな奴が遺族にガンガンクレームを送るからな。
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