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第二章 時空穿孔船
事故現場
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ワームホールの崩壊現場は無数のデブリが漂い、危険な状態になっていた。この調子では二週間はこのワームホールステーションは使い物にならないだろう、
月面の施設はほとんど地下に作られていたのであまり損害がなかったのが不幸中の幸いだ。
で、なんで《リゲタネル》がここにいるかというと、実は水星から戻ったとき月の警察から教授に呼び出しがかかったのだ。
いったい何をやらかしたのかと思ったらそうではない。
崩壊現場の実況検分に立ち会って欲しいとの事だった。ようするに捜査協力要請だ。
どうやらこの教授、ただのエロジジイではなかったようだ。エキゾチック物質研究の権威だったらしい。
それはいいとして心配なのは慧の方だ。
今回圧壊したのは、シスター工業製ではなかった。なんと幾島時空管製、つまり慧の父親の会社のものだったのだ。
幾島時空管も実は欠陥品を作っていたのではないかという無責任な噂が早くもネットに流れ出し、それを見た慧は卒倒しそうになったのだ。
教授が《リゲタネル》に戻ってきたのはそれから十時間後の事だった。
「よお。遅くなったの」
「教授」「先生、どうでした」
教授はVサインを慧に向ける。
「心配ない。幾島の時空管は完璧じゃ。どの破片を調べてもエキゾチック物質は規定量を満たしている」
「よかったあ」
慧は安堵の表情を見せる。
「だが、安心してはおれんぞ。このままでは幾島の評判はガタ落ちじゃ。一刻も早く原因を突き止めなきゃならん」
教授はあたしの方を振り向く。
「お嬢さん。《リゲタネル》はどうなる事になったんじゃ?」
「宇宙省の方では買い取る事に決まりました」
「そうか、で、あんたはいつ《楼蘭》に出発するんじゃ?」
「準備が出来次第、いつでも出発するように命令されました」
「そうか。よし、幾島君。すぐに地球に戻るぞ。必要な装備を積んだら、すぐに《楼蘭》に出発じゃ」
「え!?」
慧は意外そうな顔をする。
あたしも同感だ。
「ちょっと待ってください。教授は圧壊の原因を突き止めるんじゃなかったんですか?」
「その通りじゃ」
「じゃあどうしてあたしの任務に付き合って《楼蘭》に行くんです? 《楼蘭》はあたしと慧だけで行くから、教授はこちらに残って捜査に協力していれば」
「原因を突き止めるためには《楼蘭》に行く必要があるのじゃ」
「はあ?」
「いいか。今回圧壊したワームホールは《楼蘭》と月をつなぐものじゃ。そしてワシの考えでは月側の出入り口をいくら調べても何も出てこん。原因は《楼蘭》側の出入り口にあるはずじゃ」
「何を根拠に?」
「科学者の感じゃ」
「はあ!?」
「感」て、あんた……それこそ科学者のいう事かよ。
「だからワシはなんとしても《楼蘭》に行かねばならん。そして、ワームホールが圧壊した今、《楼蘭》にいく手立てはこの《リゲタネル》しかない。それともなにか? お嬢さんは公務員のクセに、ワシに協力できんというのか? 協力を拒んでワシを船から降ろすつもりか? どうなんじゃ?」
「いえ、捜査に必要だというなら、いくらでも協力しますよ」
個人的にはイヤだけど……
「では、何も問題はないな。幾島君、地球に向けて出発じゃ」
「はい」
慧は操縦席について発進準備にかかる。
「あの教授。一つ覚えておいて欲しい事があるんですが」
「ん? なんじゃ?」
「この船の所有権は宇宙省に移りました。ですから指揮権はあたしにあります」
「なんじゃ? 勝手に仕切るなと言いたいのか?」
「それもありますが、今後あたしの事を、お嬢さんと呼ぶのはやめて下さい」
「じゃあ、なんて呼ぶんじゃ?」
「船長と呼んでください」
「わかった。お嬢船長」
このジジイ!
「まあ、それはともかく、船長。あんたは今回の圧壊をどう思ってるんじゃ?」
「どうって?」
「ワシの見たところ、これは事故でも自然現象でもない。明らかに犯罪じゃ」
「という事はテロ?」
「もちろんそうだが、犯人はなんのためにこのワームホールを破壊したのかじゃ? 数多くの中から、なぜ《楼蘭》へつながるワームホールが狙われたのか?」
「《楼蘭》と月の間の交通を、妨害するためではないかしら?」
「つまり、《楼蘭》からこっちへ、あるいはこっちから《楼蘭》へ行こうとしている誰かを妨害したかったとは考えられんか?」
それって、つまり。
「あたしが、妨害されているという事ですか?」
「その可能性もあるということじゃ」
「でも、なんのために」
「それはワシには分からん」
「なあんだ」
「仕方あるまい。ワシは船長の目的を知らんのだからな」
「あ!」
そうだった。あたしはまだ、この二人にロシアとの共同調査の事を話していなかった。
「それとも話せるのか? 任務の内容を」
「それは、まだ話せません」
「そうじゃろうな。となると向こうに行って、原因を調べるしかないな」
「教授。さっきは『感』とか言ってたけど、ひょっとして原因に何か心当たりがあるんじゃないですか?」
「実はそうなんじゃが、今は言えん」
月面の施設はほとんど地下に作られていたのであまり損害がなかったのが不幸中の幸いだ。
で、なんで《リゲタネル》がここにいるかというと、実は水星から戻ったとき月の警察から教授に呼び出しがかかったのだ。
いったい何をやらかしたのかと思ったらそうではない。
崩壊現場の実況検分に立ち会って欲しいとの事だった。ようするに捜査協力要請だ。
どうやらこの教授、ただのエロジジイではなかったようだ。エキゾチック物質研究の権威だったらしい。
それはいいとして心配なのは慧の方だ。
今回圧壊したのは、シスター工業製ではなかった。なんと幾島時空管製、つまり慧の父親の会社のものだったのだ。
幾島時空管も実は欠陥品を作っていたのではないかという無責任な噂が早くもネットに流れ出し、それを見た慧は卒倒しそうになったのだ。
教授が《リゲタネル》に戻ってきたのはそれから十時間後の事だった。
「よお。遅くなったの」
「教授」「先生、どうでした」
教授はVサインを慧に向ける。
「心配ない。幾島の時空管は完璧じゃ。どの破片を調べてもエキゾチック物質は規定量を満たしている」
「よかったあ」
慧は安堵の表情を見せる。
「だが、安心してはおれんぞ。このままでは幾島の評判はガタ落ちじゃ。一刻も早く原因を突き止めなきゃならん」
教授はあたしの方を振り向く。
「お嬢さん。《リゲタネル》はどうなる事になったんじゃ?」
「宇宙省の方では買い取る事に決まりました」
「そうか、で、あんたはいつ《楼蘭》に出発するんじゃ?」
「準備が出来次第、いつでも出発するように命令されました」
「そうか。よし、幾島君。すぐに地球に戻るぞ。必要な装備を積んだら、すぐに《楼蘭》に出発じゃ」
「え!?」
慧は意外そうな顔をする。
あたしも同感だ。
「ちょっと待ってください。教授は圧壊の原因を突き止めるんじゃなかったんですか?」
「その通りじゃ」
「じゃあどうしてあたしの任務に付き合って《楼蘭》に行くんです? 《楼蘭》はあたしと慧だけで行くから、教授はこちらに残って捜査に協力していれば」
「原因を突き止めるためには《楼蘭》に行く必要があるのじゃ」
「はあ?」
「いいか。今回圧壊したワームホールは《楼蘭》と月をつなぐものじゃ。そしてワシの考えでは月側の出入り口をいくら調べても何も出てこん。原因は《楼蘭》側の出入り口にあるはずじゃ」
「何を根拠に?」
「科学者の感じゃ」
「はあ!?」
「感」て、あんた……それこそ科学者のいう事かよ。
「だからワシはなんとしても《楼蘭》に行かねばならん。そして、ワームホールが圧壊した今、《楼蘭》にいく手立てはこの《リゲタネル》しかない。それともなにか? お嬢さんは公務員のクセに、ワシに協力できんというのか? 協力を拒んでワシを船から降ろすつもりか? どうなんじゃ?」
「いえ、捜査に必要だというなら、いくらでも協力しますよ」
個人的にはイヤだけど……
「では、何も問題はないな。幾島君、地球に向けて出発じゃ」
「はい」
慧は操縦席について発進準備にかかる。
「あの教授。一つ覚えておいて欲しい事があるんですが」
「ん? なんじゃ?」
「この船の所有権は宇宙省に移りました。ですから指揮権はあたしにあります」
「なんじゃ? 勝手に仕切るなと言いたいのか?」
「それもありますが、今後あたしの事を、お嬢さんと呼ぶのはやめて下さい」
「じゃあ、なんて呼ぶんじゃ?」
「船長と呼んでください」
「わかった。お嬢船長」
このジジイ!
「まあ、それはともかく、船長。あんたは今回の圧壊をどう思ってるんじゃ?」
「どうって?」
「ワシの見たところ、これは事故でも自然現象でもない。明らかに犯罪じゃ」
「という事はテロ?」
「もちろんそうだが、犯人はなんのためにこのワームホールを破壊したのかじゃ? 数多くの中から、なぜ《楼蘭》へつながるワームホールが狙われたのか?」
「《楼蘭》と月の間の交通を、妨害するためではないかしら?」
「つまり、《楼蘭》からこっちへ、あるいはこっちから《楼蘭》へ行こうとしている誰かを妨害したかったとは考えられんか?」
それって、つまり。
「あたしが、妨害されているという事ですか?」
「その可能性もあるということじゃ」
「でも、なんのために」
「それはワシには分からん」
「なあんだ」
「仕方あるまい。ワシは船長の目的を知らんのだからな」
「あ!」
そうだった。あたしはまだ、この二人にロシアとの共同調査の事を話していなかった。
「それとも話せるのか? 任務の内容を」
「それは、まだ話せません」
「そうじゃろうな。となると向こうに行って、原因を調べるしかないな」
「教授。さっきは『感』とか言ってたけど、ひょっとして原因に何か心当たりがあるんじゃないですか?」
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