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第六章 逃走
楼蘭へ
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《リゲタネル》が隠れ場所から飛び上がったのは、爆発予定時刻の十分前。
今度は迷わずワームホールの方へ向かう。
ちょうど十分後に到着できる速度で飛び続ける。
途中のどこかにマーフィは必ずいる。
だが、あたしの推測が正しいなら、奴はすぐには襲ってこない。
奴が襲ってくるのは《リゲタネル》が最も無防備になる瞬間だ。
その瞬間が来るまで奴は現れない。
「慧。レーダーを入れて」
「分かった」
この衛星に降りて以来、逆探知を恐れて今まで使わなかったレーダーを入れた。
時計を見る。
爆発まであと五分。
「敵影今のところなし、あ! ビーコンキャッチ」
「慧、ビーコン発信源の辺りの映像を出して」
正面の映像が拡大される。
間違えない。一ヵ月半前あたしと栗原さんが出てきた場所だ。仮設基地の残骸がまだ残っている。
水タンクや酸素タンクはそのまま。
傾斜路はほとんど吹き飛んでなくなっていた。
しかし今はその方がいい。
《リゲタネル》でワームホールに入るとき、傾斜路はむしろ邪魔になる。
爆発まで後二分を切った。
液化メタンの湖の上空を通り過ぎる。
高度を落としていく。
やがて《リゲタネル》は地表スレスレまで高度を落とした。
爆発まで三十秒。
レーダーには何も反応がない。
マーフィは本当に隠れているのだろうか?
爆発十秒前。
《リゲタネル》減速する。
カウントゼロ。
右舷後方の山脈付近に閃光が走った。
数瞬後に爆音が響く。
そして重力波が消滅した。
時空穿孔機始動!
レーダーに影が現れたのはその時だった。
山脈の後に隠れていたようだ。
だが構ってはいられない。
もうワームホームは開いている。
《リゲタネル》はワームホールに突っ込んでいく。
あたし達は光に包まれた。
特異点を越え。
そしてワームホールを抜けた。
正面に小惑星《楼蘭》の姿が見える。
帰って来たんだ。
「右舷スラスター全開!!」
あたしが叫んだ時には慧はすでに実行していた。この辺りはすでに打ち合わせどおり。
ついであたしは通信機のスイッチを入れ、予め吹き込んでおいたメッセージを全周波数で流す。
「こちらは日本国宇宙省所属工作船 《リゲタネル》です。現在、凶悪なテロリストからの追跡を受けてます。《楼蘭》の皆さん救援をお願いします。テロリストの名前はジョン・マーフィ。彼は一連のワームホール圧壊事件の犯人です。私達はその証拠を掴んだために彼から命を狙われ続けています。どうか救援をお願いします」
マーフィがワームホールから出現したのはまさにその時だった。
ワームホールを抜ける前に奴の放ったレーザーが虚しく虚空へ消えていく。
そしてワームホールから《ファイヤー・バード》本体が出現した。
様子は分からないが、恐らく《ファイヤー。バード》の中は混乱していることだろう。正面にいるはずだった《リゲタネル》がいないのだから。
そう。これがマーフィの意図していたこと。
リゲタネルが最も無防備になる瞬間。ワームホールを抜けた直後を狙うことだったのだ。ワームホールを抜けた直後なら《リゲタネル》にはもうエネルギーがない。
新たなワームホールを開けないばかりか、グレーザー砲も使えない。
さらに《楼蘭》に帰ったことで安心しきっている。
そんな時に背後のワームホールから襲われたらひとたまりもない。
マーフィはそう考えてたのだろう。
ただ、その場合リゲタネルを葬ったとしても彼は逃げることができない。
《ファイヤー・バード》とて一度ワームホールを越えたら、もう一度ワームホールを開くまで時間がかかるはず。あたしはそう思って、マーフィがその作戦をやるはずがないと思っていた。
だが、それが大きな間違え。
《ファイヤー・バード》は《リゲタネル》と違い、時空穿孔機を二回連続で使えるのだ。
《ファイヤー・バード》は《リゲタネル》を葬った後、すぐに背後のワームホールから逃げることができるのだ。
マーフィはそうやって犯罪を隠蔽するつもりだったのだろう。
それを予想したあたしは対策を用意しておいた。ワームホールを抜けた直後に右舷スラスターを全開にして、《リゲタネル》をワームホールの正面から逃がしたのだ。
もし、あのまま真っ直ぐ進んでいたら、《リゲタネル》は背後からきたレーザーの直撃を受けて大破していただろう。
今度は迷わずワームホールの方へ向かう。
ちょうど十分後に到着できる速度で飛び続ける。
途中のどこかにマーフィは必ずいる。
だが、あたしの推測が正しいなら、奴はすぐには襲ってこない。
奴が襲ってくるのは《リゲタネル》が最も無防備になる瞬間だ。
その瞬間が来るまで奴は現れない。
「慧。レーダーを入れて」
「分かった」
この衛星に降りて以来、逆探知を恐れて今まで使わなかったレーダーを入れた。
時計を見る。
爆発まであと五分。
「敵影今のところなし、あ! ビーコンキャッチ」
「慧、ビーコン発信源の辺りの映像を出して」
正面の映像が拡大される。
間違えない。一ヵ月半前あたしと栗原さんが出てきた場所だ。仮設基地の残骸がまだ残っている。
水タンクや酸素タンクはそのまま。
傾斜路はほとんど吹き飛んでなくなっていた。
しかし今はその方がいい。
《リゲタネル》でワームホールに入るとき、傾斜路はむしろ邪魔になる。
爆発まで後二分を切った。
液化メタンの湖の上空を通り過ぎる。
高度を落としていく。
やがて《リゲタネル》は地表スレスレまで高度を落とした。
爆発まで三十秒。
レーダーには何も反応がない。
マーフィは本当に隠れているのだろうか?
爆発十秒前。
《リゲタネル》減速する。
カウントゼロ。
右舷後方の山脈付近に閃光が走った。
数瞬後に爆音が響く。
そして重力波が消滅した。
時空穿孔機始動!
レーダーに影が現れたのはその時だった。
山脈の後に隠れていたようだ。
だが構ってはいられない。
もうワームホームは開いている。
《リゲタネル》はワームホールに突っ込んでいく。
あたし達は光に包まれた。
特異点を越え。
そしてワームホールを抜けた。
正面に小惑星《楼蘭》の姿が見える。
帰って来たんだ。
「右舷スラスター全開!!」
あたしが叫んだ時には慧はすでに実行していた。この辺りはすでに打ち合わせどおり。
ついであたしは通信機のスイッチを入れ、予め吹き込んでおいたメッセージを全周波数で流す。
「こちらは日本国宇宙省所属工作船 《リゲタネル》です。現在、凶悪なテロリストからの追跡を受けてます。《楼蘭》の皆さん救援をお願いします。テロリストの名前はジョン・マーフィ。彼は一連のワームホール圧壊事件の犯人です。私達はその証拠を掴んだために彼から命を狙われ続けています。どうか救援をお願いします」
マーフィがワームホールから出現したのはまさにその時だった。
ワームホールを抜ける前に奴の放ったレーザーが虚しく虚空へ消えていく。
そしてワームホールから《ファイヤー・バード》本体が出現した。
様子は分からないが、恐らく《ファイヤー。バード》の中は混乱していることだろう。正面にいるはずだった《リゲタネル》がいないのだから。
そう。これがマーフィの意図していたこと。
リゲタネルが最も無防備になる瞬間。ワームホールを抜けた直後を狙うことだったのだ。ワームホールを抜けた直後なら《リゲタネル》にはもうエネルギーがない。
新たなワームホールを開けないばかりか、グレーザー砲も使えない。
さらに《楼蘭》に帰ったことで安心しきっている。
そんな時に背後のワームホールから襲われたらひとたまりもない。
マーフィはそう考えてたのだろう。
ただ、その場合リゲタネルを葬ったとしても彼は逃げることができない。
《ファイヤー・バード》とて一度ワームホールを越えたら、もう一度ワームホールを開くまで時間がかかるはず。あたしはそう思って、マーフィがその作戦をやるはずがないと思っていた。
だが、それが大きな間違え。
《ファイヤー・バード》は《リゲタネル》と違い、時空穿孔機を二回連続で使えるのだ。
《ファイヤー・バード》は《リゲタネル》を葬った後、すぐに背後のワームホールから逃げることができるのだ。
マーフィはそうやって犯罪を隠蔽するつもりだったのだろう。
それを予想したあたしは対策を用意しておいた。ワームホールを抜けた直後に右舷スラスターを全開にして、《リゲタネル》をワームホールの正面から逃がしたのだ。
もし、あのまま真っ直ぐ進んでいたら、《リゲタネル》は背後からきたレーザーの直撃を受けて大破していただろう。
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