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第一章

「変質者?」

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「さぶ」
 玄関の扉をひらくと、切り裂くような寒気が襲いかかる。 
 あたしはスエットの上に羽織ったコートの前をピタっと閉じた。
「リアル。苦しくない?」
 コートの中にあたしは声をかけた。
 コートの内側にリアルがしがみついてる。
 もし、内調ならリアルの姿を見られちゃいけないと思ってこういうことをしたのだ。
「平気だよ。それより、玄関は閉めるなよ」
「どうして?」
「いざというとき、すぐに逃げ込めるだろ」
「そっか」
 家の中から暖かい空気が逃げていくが仕方がない。
 襲われるよりマシ。でも、今月の電気代が……いや、今は考えないでおこう。
 昨日まで玄関の前に車が止まっていたが、今はない。
 パパが仕事に出てしまったからだ。
 いま家には、あたしとリアルしかいない。
 やっぱコワいな。
 つい好奇心から様子を見に行こうと出てきちゃったけど、引き返そうかな……
「あいつに聞いてみよう」
 弱気な事を考えていると、コートのすきまからリアルが前足を出して門柱の方を指す。
 門柱の下に一匹の三毛猫がうずくまっていた。
 あの猫、横山さん家のぺぺだわ。
「ぺぺ」
  あたしが声をかけるとぺぺは猛然とこっちへ駆けよってくる。

「にゃーにゃー」
 あたしはしゃがみ込んで、足下で鳴いているぺぺをなでようとした。
 ところがぺぺはあたしの手をさける。
 いつもなら、ねだってくるのに。
「にゃあにゃあ」
 何か言いたそうだけど。
「そんな事してる場合じゃないって」
 コートの隙間からリアルが顔を出す。
「にゃあにゃあ」
「にゃにゃにゃ」
 しばらく二匹の猫が何か話していた。
「リアル。ぺぺはなんて言ってるの?」
「コワい人が来たから、逃げろって言ってる」
「コワい人って?」
「ちょっと待って。にゃにゃあにゃあ」
「にゃにゃにゃ」
「にゃあ。この当たりで有名な変質者だって」
「変質者?」
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