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第一章

あいつなんで俺の写真持っていたと思う?

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「見られなくて良かったよ」
 温かい部屋の中に入るなり、リアルはコートから飛び出してきてそう言った。
「何が?」
 あたしはストーブに手をかざしながらたずねる。
 おお!! ぬくぬく。手がすかっり冷えちゃったわ。
 あれから三十分、あたしは寒い路上で星野さんから猫談義を聞かされていたのだ。
 隣の家のアメリカンショートヘアが可愛いとか、猫にフルモッフされるなら死んでもいいとか。
「さっきの女に俺の姿見られなくて」
「そうね。猫好きのあたしでも、あれはちょっと引くわ」
「そうじゃない。あいつなんで俺の写真持っていたと思う?」
「なんでって? ブログを見た人が探してくれって……あれ?」
「さて、ここで問題。俺を探している人は?」
「内調」
「あたり」
「ええ? じゃあ星野さんが内調のエージェント?」
「そんなわけないだろ」
「じゃあどうして?」
「内調が俺を探すとしたらどうやると思う?」
「ええっと?」
 ネコジャラシとか、またたびとか、カツオブシを持ったエージェントが何百人も町中を草の根分けて探している様子を想像したけど、それはないよね。
「どうすんだろ?」
「最初にネットを使って目撃情報を集めるだろうな。あの女みたいに猫ブログを持ってる人に片っ端から俺の写真を送ったんだろう。ただし、迷い猫だという事にして」
「じゃあ、星野さんは何も知らないで、利用されていたってわけ?」
「そういう事さ」
 ううん、という事はかなりやばい状況なのでは……
 最初、街中に紛れ込んだ猫なんて見つけられるわけないと思っていたけど、こんな方法に出られたんじゃいつか見つかってしまう。
「どうしよう?」
「あの女を味方にできないかな?」
「え?」
「あの女はこの町の猫を知り尽くしている。逆にいうなら、そんな人に『この町に該当する猫はいなかった』と言ってもらえたら、内調はこの町を調査対象から外すかもしれない」
「そっか、でもどうやって?」
「それをこれから考える」



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