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第一章

は? 化け猫?

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「おまえら、そいつから離れろ!!」
 そう叫んだ男子生徒は、うちのクラス二年三組最凶の男と恐れられている石動いするぎ
 「最強」ではなく「最凶」です。
 恐れられている理由は強いからではない。
 嘘をつく、金に汚い、弱い者イジメをするなど性格が悪いので誰も近づきたくないから。
 ただし、本人は「最強の男」と思ってるらしい。
「その猫から離れろ!! 化け猫だぞ!!」
 は? 化け猫?
「星野さん。あいつなに言ってるの?」
「気にしなくていいわ。あのバカ、この猫が喋ったとか言ってるのよ」
 ゲ!!
 あたしはリアルの耳に口を寄せた。
「喋ったの?」
 続いてリアルの口をあたしの耳に寄せる。
「つい。あいつに木の実を投げつけられて」
「なにやってるのよ!! あんたが喋れる事は国家機密なんでしょ」
「面目ない。おい、あいつがこっちへ来るぞ」
 顔を上げると石動がズカズカとこっちへやってくるのが見えた。
 あたしはあわてててリアルを背後に隠す。
「おい、美樹本。おまえ今その猫と何か話していただろう」
 ここはシラを切るしかない。あたしの演技力を持ってすれば造作のない事。
「な……なに言ってるのよ。猫が喋るわけないじゃない。あははは」
「そのリアクション、何か隠しているな」
 あたしの演技を見破るとは、手強い奴。
 ……でもないか。
「なにも隠してなんか」
 その時、星野さんがあたしと石動の間に割って入って来た。
「いい加減にしなよ。こんな可愛い猫ちゃんが化け猫なわけないでしょ」
「化け猫だ!! こいつさっき俺に向かって『いきなり何をする』って叫んだぞ」
 ふいに星野さんは屈み込んで、あたしがだっこしているリアルを覗き込んだ。
「ねえ、リアルちゃん。あなた人間の言葉喋れる?」
「にゃーにゃー」
 星野さんは石動に向き直った。
「『喋れません』て言ってるよ」
 星野さん。猫語がおわかりになるんで?
「てめー!! おちょくってんのか!!」
「そうだけど」
 あっさりと肯定されて石動はリアクションに困ったのか絶句する。
「だいたいね、先に私達をおちょくったのは、あんたの方でしょ」
「俺がいつ?」
「さっきから、猫が喋った猫が喋ったって。猫が喋るわけないでしょ」
「だから喋ったんだって」
「じゃあ証拠見せなさいよ」
「よし」
 石動はあたしの方に向き直った。
「美樹本!! その猫ちょっと貸せ」
 冗談じゃない。
 あたしは知ってる。石動が小学生の時に、学校帰りに猫を苛めていたのを。
 殺したという噂だってある。そんな野蛮人にリアルを渡したら何をされるか。
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