秘密兵器猫壱号

津嶋朋靖(つしまともやす)

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第二章

糸魚川君のスマホ

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「ちょっと待ってて」
 糸魚川君は植え込みに手を突っ込んだ。
 何やってるんだろう?
 程なくして、糸魚川くんはビニール袋に入ったスマホを取り出した。
「こいつを持ち歩いてると、居場所がバレてしまうからここに置いてきたんだ」
 糸魚川君は画面を見て顔をしかめる。
「やっぱりな。親父からの着信が溜まってる」
「お父さんから?」
「言い忘れたけど、内調の室長なんだよ。僕の親父は」
「ええ? ねえ、大丈夫なの? あたしなんかのために内調を裏切ったりして」
「気にしなくていいよ。養成所から逃げ出すことは以前から考えていたんだ」
「なんで?」
「君は知らないだろうけど、工作員養成所というのは、この世の地獄さ」
「ああ、そういえば前に、石動のイジメをナマヌルイと言ってたわね」
「そう。僕が任務をわざと引き伸ばしていないかとリアルが言ってたけど図星だよ。今回の任務の合間に、僕は逃げ出す準備を進めていたんだ」
「でも……」
「僕のことなら心配ない。その気になれば、富士の樹海に隠れてでも生き延びられるさ」
「でも、お父さんが心配するよ」
「あんな親父、心配なんかしているものか」
「ダメだよ。お父さんをそんな風に言っちゃ。電話ぐらい出てあげたら」
「いや……でも出たら僕がここにいることがわかってしまうし」
 不意にリアルがあたしの肩に飛び乗った。
「公衆電話からかければいいだろ」
「公衆電話? いや、それだって居場所がばれることに代わりないし……」
「逆探知にされる前に逃げればいいだろ」
「しかし、この辺に公衆電話なんてあるの?」
「俺が知ってる。案内するよ」
 リアルはあたしの肩から飛び降りる。
「じゃあ、俺達電話してくるから、その間にグッキーを回収してくれ」
「その前に」
 糸魚川君はスマホをあたしに差し出した。
「預かっていて欲しい」
「どうして?」
「スマホの電源が入ったままなんだ。このままこれを持って移動したり、電源を切ったりすると、僕が戻ってきた事がバレてしまう」
 スマホを受け取ると、リアルに先導されて糸魚川くんは街角に消えていく。
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