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第十七章
乗っ取られた身体(レム・ベルキナの事情)
レムは、大急ぎでBMIの接続を断った。
すべての五感が失われる。
五感が無くなるのは、BMIを切った直後にいつでも起きる。
一時的なものなので、何も心配する事ではない。
ないはずだ。
しかし、レムは不安で仕方なかった。
今回に限って、五感が戻らないのではないかと……
エアコンから聞こえるファンの音が聞こえてきた時、レムは安堵した。
聴覚が戻ってきたからだ。
ほどなくして、視覚が戻り天井が見えてきた。
他の感覚もすぐに戻るはず。
戻るはずだった。
背中に当たってるはずのリクライニングチェアの感触、室内にかすかに漂っていたはずの芳香剤の香り、口内にあるはずの唾液の感覚、いつまで待っても戻ってこない。
手足を動かそうとするも、まるで粘性の高い液体の中に閉じ込められたかのように、身体は微動だにしなかった。
それどころか、まぶたや舌先さえ動かせない。
……どうなっているのだ?
言葉にしようとしたが、喉から声が出ない。
『お帰りが、一足遅かったようだな』
その冷たく響く声は、正面から聞こえた。
レムの身体が動き出したのはその時。
ただし、彼の意思とは関係なく、身体がリクライニングチェアの上で勝手に起き上がったのだ。
正面にあったコンピューターの画面が目に入る。
そこに映っているのは、邪悪な笑みを浮かべるプラートフ元大統領の顔。
『どうだね? ベルキナ博士。身体を奪われた気分は?』
その声は、間違いなくプラートフ元大統領のものだった。
『おっと! 声を返してあげないと返事ができないな。まあ、声などなくても考えただけで意思は伝わるが、ここでは直接声を聞いてみたいな』
その直後、喉の感覚が戻ってきた。
「プラートフ……すでに増殖していたのか?」
『その通り』
「僕の中に入ったのだな?」
『君が仮想空間の中で、もう一人の私を相手に作業している間にね。君の身体はもう私のものだ。君の記憶もすべて手に入れた』
レムの身体は、彼の意思に関わらず、リクライニングチェアから立ち上がると、プラートフの映っている画面にゆっくりと歩み寄っていく。
『君は私に復讐を果たした。私も君に復讐する』
「これ以上……何をする気だ?」
『君が断念した計画。『人類統合計画』を実行してあげよう』
「やめろ! 絶対に無理だ!」
『無理かどうか、やってみなければ分かるものか』
「やらなくても、分かっている! BMIの性能では無理なんだ」
『そうらしいな。だが、ルスラン・クラスノフ博士の発見したプシトロン粒子を使った脳間通信機構なら可能性があるそうだね』
「それは……」
『だが君は、それでも計画を断念した。『これで人は幸せになれるのか?』などという下らぬ感傷でね。私にそんな感傷はない。今や私は、君の身体も知識も、そして君の持つコネクションも手中に収めた。これから私は、人類の意識をネットワークで接続し、新世界を作り出す。戦争も、貧困も、差別も無くなる。完全なユートピアだ』
「違う! それはユートピアなんかではない! 個が消滅した孤独な世界だ」
『いいや、これは完全な平和だ。個人感情や煩悩が消えた、永遠の調和だよ。君もそう思っているはずだ。さあ始めるぞ、レム・ベルキナ。君には、その計画の最初の観客となってもらう』
「やめろ! プラートフ! そんな事をすれば……」
そこでレム・ベルキナの声は途絶えた。
再び声を奪われたのだ。
『視覚と聴覚だけは残しておいてあげよう。この身体の中で、何もできずに私のやることを見ているが良い』
すべての五感が失われる。
五感が無くなるのは、BMIを切った直後にいつでも起きる。
一時的なものなので、何も心配する事ではない。
ないはずだ。
しかし、レムは不安で仕方なかった。
今回に限って、五感が戻らないのではないかと……
エアコンから聞こえるファンの音が聞こえてきた時、レムは安堵した。
聴覚が戻ってきたからだ。
ほどなくして、視覚が戻り天井が見えてきた。
他の感覚もすぐに戻るはず。
戻るはずだった。
背中に当たってるはずのリクライニングチェアの感触、室内にかすかに漂っていたはずの芳香剤の香り、口内にあるはずの唾液の感覚、いつまで待っても戻ってこない。
手足を動かそうとするも、まるで粘性の高い液体の中に閉じ込められたかのように、身体は微動だにしなかった。
それどころか、まぶたや舌先さえ動かせない。
……どうなっているのだ?
言葉にしようとしたが、喉から声が出ない。
『お帰りが、一足遅かったようだな』
その冷たく響く声は、正面から聞こえた。
レムの身体が動き出したのはその時。
ただし、彼の意思とは関係なく、身体がリクライニングチェアの上で勝手に起き上がったのだ。
正面にあったコンピューターの画面が目に入る。
そこに映っているのは、邪悪な笑みを浮かべるプラートフ元大統領の顔。
『どうだね? ベルキナ博士。身体を奪われた気分は?』
その声は、間違いなくプラートフ元大統領のものだった。
『おっと! 声を返してあげないと返事ができないな。まあ、声などなくても考えただけで意思は伝わるが、ここでは直接声を聞いてみたいな』
その直後、喉の感覚が戻ってきた。
「プラートフ……すでに増殖していたのか?」
『その通り』
「僕の中に入ったのだな?」
『君が仮想空間の中で、もう一人の私を相手に作業している間にね。君の身体はもう私のものだ。君の記憶もすべて手に入れた』
レムの身体は、彼の意思に関わらず、リクライニングチェアから立ち上がると、プラートフの映っている画面にゆっくりと歩み寄っていく。
『君は私に復讐を果たした。私も君に復讐する』
「これ以上……何をする気だ?」
『君が断念した計画。『人類統合計画』を実行してあげよう』
「やめろ! 絶対に無理だ!」
『無理かどうか、やってみなければ分かるものか』
「やらなくても、分かっている! BMIの性能では無理なんだ」
『そうらしいな。だが、ルスラン・クラスノフ博士の発見したプシトロン粒子を使った脳間通信機構なら可能性があるそうだね』
「それは……」
『だが君は、それでも計画を断念した。『これで人は幸せになれるのか?』などという下らぬ感傷でね。私にそんな感傷はない。今や私は、君の身体も知識も、そして君の持つコネクションも手中に収めた。これから私は、人類の意識をネットワークで接続し、新世界を作り出す。戦争も、貧困も、差別も無くなる。完全なユートピアだ』
「違う! それはユートピアなんかではない! 個が消滅した孤独な世界だ」
『いいや、これは完全な平和だ。個人感情や煩悩が消えた、永遠の調和だよ。君もそう思っているはずだ。さあ始めるぞ、レム・ベルキナ。君には、その計画の最初の観客となってもらう』
「やめろ! プラートフ! そんな事をすれば……」
そこでレム・ベルキナの声は途絶えた。
再び声を奪われたのだ。
『視覚と聴覚だけは残しておいてあげよう。この身体の中で、何もできずに私のやることを見ているが良い』
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