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第十章

三次元の死角

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「アクセレレーション」

 電磁石弾を投げると同時に、加速機能を起動。
 僕はエラの周囲を高速で走り回った。時折ショットガンを撃ちながら……エラからも、ブラズマボールを撃ってくる。
 しかし、その速度は遅く、僕は余裕で避けられた。
 一方で、僕の撃った散弾もエラに届くことなく、エラを取り巻くプラズマの壁を発生させていく。
 前回戦ったとき、僕はとんだ思い違いをしていた。
 エラの周囲に発生したプラズマの壁が、ショットガンの散弾を防いでいたと……
 冷静に考えれば、そんな事があるはずがない。
 高速で飛んでくる金属の固まりを、薄いプラズマの壁で防げるはずがない。
 プラズマの壁は、高周波磁場で弾丸が防がれた結果発生したものだったのだ。

 しかし、これは本当に高周波磁場なのだろうか?

 高速で飛んでくる弾丸を瞬時にプラズマ化するとなると、そうとうのエネルギーが必要だ。磁場の及ぶ範囲も、もっと広範囲になるはず。
 ところが、この現象はエラの周囲五メートルにしか及んでいない。
 なにか、他の未知の現象では……

「学習しない男だな。私に死角などないというのが、まだ分からんのか」

 エラに声をかけられ、思考を中断した。
 エラの周囲は、すっかり輝くプラズマの壁に取り囲まれ、エラ本人の姿がはっきりとは見えない。
 プラズマの壁は、エラの周囲で高速回転していた。
 これは回転する磁場の動きに合わせて、プラズマが動いているからだ。
 ということは、高周波磁場は確かに発生している。
 ただし、その効果はエラから五メートル離れたところでぷっつり切れていた。原因は分からないが……

「確かに、あんたには死角がない」

 僕はマガジンを交換しながら答えた。

「ただし、二次元からはね」
「なに?」

 次の瞬間、プラズマの壁が消滅した。
 その向こうにいたエラは、首から上がズタズタに引き裂かれ、周囲に鮮血を蒔き散らしている。
 そのエラの真上に、ショットガンを構えた芽衣ちゃんが、重力を打ち消して浮かんでいた。

 エラの高周波磁場に死角はない。平面で見る限りは……

 しかし、真上からなら、回転する磁場の中心軸が見える。
 それこそが、エラの死角だったのだ。
 僕がエラの周囲を走り回って銃撃を続けたのは、プラズマの壁を発生させて回転する磁場を可視化するため。
 磁場の動きが見えるようになったら、上空で待機していた芽衣ちゃんが、回転磁場の中心に銃撃するのが、僕達の立てた作戦だった。
 甲板上に芽衣ちゃんが着地すると同時に、エラの遺体は崩れるように倒れた。

「北村さん! やりましたね。作戦成功です」
「ああ。大成功だ」

 後は、青エラを同じ方法でやるだけ。

 分身達ミールズは四人にまで減っていたが、青エラの動きを押さえてくれている。

「北村さん! 避けて!」

 え?

 突然、芽衣ちゃんに身体を押された。

 その芽衣ちゃんのロボットスーツから甲高い金属音が響く。

 視線を移す……しまった! ドローンが戻ってきている。
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