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第十二章

ロータスの酒場

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 あの男、この前の戦いで、僕と芽衣ちゃんが隠れた船の船長!

 なぜ、ここに? いや、いて当然だ。あの時、芽依ちゃんがあいつの船の漕ぎ手を全部逃がしたのだから。

 集音マイクを奴らに向けてみた。

 軍人と奴隷商人のやり取りが聞こえてくる。

『高い! もっと安くしろ』
『帝国軍の旦那。あんたらが奴隷を買い上げてくれたのは有難いのですがね。そのおかげで、奴隷は品薄なのですよ。これっぽっちじゃねえ』

 どうやら、調達は難航しているようだな。

『いくらならいい?』
『このぐらいで』
『足元を見たな』
『まあまあ、帝国軍の旦那。ここだけの話ですが、安くして差し上げられない事もないのですよ』
『どういう事だ?』
『旦那の口から、帝国軍の上の人に話をつけてもらいたい事があるのですが……ここでは、ちょっと話しにくくて……どうです。そこの酒場で一杯やりながら話を付けませんか? 良い酒がありますぜ』
『うむ』

 船長は奴隷商人と一緒に、酒場に入って行く。

「よし。僕達も、あの店に入ろう」
「ご主人様。まさかと思いますが、飲むおつもりですか?」

 Pちゃんが疑わしい視線を僕に向ける。

「Pちゃん、何言っているんだよ。ここで少しぐらいは飲まないと、怪しまれるだろう」
「本当に少しですね?」
「当然だろ」
「では、ご主人様の言う『少し』というは、エチルアルコール分子で何モルに相当するか、小数点以下八桁まで言って下さい。その量を越えそうになったら、私がストップをかけます」

 ええっと……清酒一CCあたりのエタノールの量は? エタノールの分子は炭素二つに水素五つのエチル基に水酸基が結合して……は!

「そんな細かい事まで計算して酒を飲めるか!」
「飲めないのですね。では、飲まないで下さい」
「いや……清酒三百CCと考えてくれないか」
「ご主人様。世間一般の常識から考えて、清酒三百CCは『少し』ではありません」
「僕にとっては少しだ。てか、こんな事どうでもいいだろう。早く店に入らないと、奴らの会話を聞き逃してしまうじゃないか」
「仕方ないですね。本当に、少しだけですよ。ミールさん。弱い酒を選んでくださいね」
「大丈夫です。Pちゃん。あたしだって、カイトさんには健康でいて欲しいですから」

 まったく、二人とも余計な心配を……僕はそんな大酒飲みじゃないぞ。

 店内は、昼だというのに薄暗い。各テーブルではランタンが灯っている。外の光を取り入れないのは、雰囲気作りか? あるいは外部から覗かれないためか?

 船長達のいるテーブルの隣のテーブルに僕たちはついた。

 ミールが注文をしている間に、僕は集音機を船長らに向ける。

『いつになったら、話を始めるのだ?』

 どうやら、まだ話は始まっていなかったようだ。

『まあまあ、もうちっと待って下さい。お! ちょうど来ました』

 店に初老の女が二人の若い男を伴って入ってきた。

 三人ともナーモ族だ。

『町長。こちらです』

 どうやら、あの女性がロータスの町長らしい。なんでそんな大物が?
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