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第十二章

91式携帯地対空誘導弾

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 レーダーに高速で接近する物体が映った。

 ミサイル!

 チャフを散布しながら、火炎弾フレアを発射した。

 ミサイルは火炎弾フレアの熱源に騙され、明後日の方向へ逸れて……逸れない!?

 ミサイルは偽の熱源に騙されることなく、僕らの方を真っ直ぐ目指してくる。

 なぜだ!? 火炎弾フレアの熱量が少ないのか?

「北村さん。お守りします!」

 芽依ちゃんが突然、僕の前に出た。

 馬鹿! よせ!

 芽依ちゃんの両肩を捕まえる。

 幸い真下は運河……これなら……

「イナーシャルコントロール二G」

 僕たちは急降下して、運河の水面に突っ込んだ。


 は! 水中に潜ってしまったけど、九九式って耐水仕様だったっけ?

 慌てて、ヘルプを調べる。

 大丈夫、完全防水だった。それにしても……

 水中で芽依ちゃんのコネクタにケーブルを差し込んだ。

「なんてことするんだ! 死ぬ気か!?」
『私は北村さんを……お守りするために……』
「やめてくれ! 僕なんかを守るために、命を投げ出すなんて!」
『なぜ、いけないのです? 私だって……私だって、北村さんを愛しているんです!』

 え……いや……いやそれは……

『私だって……ミールさんに負けないぐらい、北村さんを愛しています』

 ええっと……

「芽依ちゃん。君が好きになったのは、電脳空間サイバースペースの僕だろ。だけど……」
『分かっています。同じ北村さんでも、後から再生された北村さんは別人だという事ぐらい……分かっているんです』
「それなら……」
『私……黙っていた事があります』

 え?

『前の北村さんが香子さんと婚約した時、私は祝福すると同時に、嫉妬していました。そんな自分が凄く嫌で……北村さんが死んだのは、私の嫉妬のせいではないかと……』
「そんな事あるはずないだろう!」
『分かっています。でも、私はずっと辛かったのです。だから、新しい北村さんを再生しても、その人が香子さんとまた婚約したら、私はまた二人に嫉妬してしまう。だけど、生データの北村さんなら、香子さんとは幼なじみでも、私とは縁のない他人。二人がくっついても私が嫉妬することなんかない。そう思っていました。だから、父に生データの北村さんを再生する事をお願いしたのです』
「え? ちょっと待って! どういう事? 電脳空間サイバースペースの僕がカルルと戦うのを嫌がったから、僕が再生されたのでは?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! それは私がついた嘘なのです。北村さんが、カルルさんと戦いたくないと言ったのは事実ですが、そんな事で再生を拒否するほど北村さんは無責任な人ではありません。私は父に、北村さんはカルルさんと戦うことで、凄く悩んでいると嘘の進言をしてしまったのです』

 なんだって!?

『だから、生データの北村さんが再生されたのは私のせいなのです』

 ええっと……

『だから、北村さん。腹が立つなら、私を殴って下さい』
「いや……そんな事はしない」
『私……卑怯ですよね。北村さんが、女に暴力をふるわない人だと知っていてこんな事言うなんて……』
「そんな事は……」
『データを取られる前の私は、引き籠もりの女子高生でした』

 え? いきなり何を言い出すんだ?

『データを取られて、電脳空間サイバースペースで再生されても、私は人と接する事がずっとできなかったのです。そんな私に、香子さんと北村さんが優しく接してくれるようなって、私もだんだん人と話せるようになってきました』
「そんな事があったの?」
『後で分かったのですが、お二人は父に頼まれてそういう事をしていたのです。私のコミュ障を治すために……でも、それが分かってからも、私はいけないと思いながら、北村さんが好きになってしまったのです。北村さんには香子さんがいるというのに……だけど、生データの北村さんなら、私とそういう経緯はない。だから、会っても恋に落ちることはない。そう思っていました』

 芽依ちゃんは、僕の両手を握りしめた。

『だけどダメでした。実際に北村さんの声を聞いて顔を見てしまうと、私……』

 突然の警告音が、芽依ちゃんの言葉を中断させた。

 バイザーにメッセージが表示される。

『警告:三百秒以内に水中から離脱して下さい。それ以上は機体の安全は保障できません』

「完全防水じゃなかったのか?」
『北村さん。九九式が水中で活動できるのは、十分が限界です』
「しかし、今飛び出したらミサイルの餌食だ。あいつはなんで火炎弾フレアに騙されないんだ?」
『あのミサイルが帝国のプリンターで作られたのなら、スティンガーミサイルの類と思われます。それなら、火炎弾フレアで騙せますが、あれがリトル東京から供与された物だとしたら、91式携帯地対空誘導弾の可能性があります』
「それ自衛隊の? しかし、それは僕の時代の兵器だろう。今は二百年後なのに……」
『地球としては、なるべく最新の兵器を地球外に出したくないようです』

 帝国のコンピューターに対戦車ライフルしか入ってなかったのも同じ理由か?

 しかし、厄介だぞ。

 自衛隊の91式地対空誘導弾と言ったら、可視光CCDによる画像認識追尾イメージホーミングを採用している。火炎弾フレアでは騙せない。

 どうするか?
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