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第十三章

余計な荷物

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 とは言っても、あの人が大人しく落とされるわけ、ないだろうけどね。

 ほら、通信に割り込んできた。

『こら! おまえら、何を勝手な事を! フライング・トラクターを絶対に手放すなよ』
『そんな事言ったって矢納さん。このままでは俺たち全滅ですよ。矢納さんとエラさんが死んでも、俺と古淵君だけでも生き残っていた方がいいでしょ』
『馬鹿野郎! 矢部! おまえと古淵は死んでもいいが、俺は助けろ』

 そんな態度じゃ、誰も助けてくれないって……

「矢部さん。古淵さん。どうします? そろそろミサイルを撃ちたいので、余計な荷物を手放すか、手放さないか決めてくれませんか?」
『こら! 北村! 俺を『余計な荷物』呼ばわりするな!』

 だって余計な荷物じゃん。

『待って下さい、隊長。余計な荷物を手放しますから、ミサイルはもう少し待って下さい』
『こら! 古淵! てめえまで俺を……ここで手放したら俺が死ぬんだぞ。俺が死んでもいいのか!?』
『いいですよ』

 古淵はあっさりと肯定した。まあ、するだろうね。

『いいですよね? ねえ、矢部さん』
『そうだね。古淵君。何も問題ないよね』
『お……おまえら……』
『気に入らない事があるとすぐに暴言吐くし、暴力ふるうし、最低の人だったな』
『どうでもいい自慢話をしてマウント取りたがって、本当にウザかったし、自分のミスをすぐ人のせいにするし……』

 うんうん、分かるぞ。その気持ち。

『というわけで、今から余計な荷物を捨てます』
『遠慮なくミサイルを撃って下さい』
『やめろ! おまえら……もう少しで自動修復が終わる。それまで……』

 矢部も古淵も聞く耳は持たなかった。

『せえの』『ぽい』

 そのまま余計な荷物は落下していく。

 もう少しで川面に叩きつけられる……と思ったその時、不意に余計な荷物フライング・トラクラーの落下が停止する。

 ギリギリで自動修復が間に合ったのか?

 いや、違う。フライング・トラクターの十メートル上にフーファイターが浮いている。それの発生させる重力場で、落下を食い止めたようだ。

 しかし、フーファイターが作れる重力場は一度に一カ所だけ。同時に複数は発生させられない。

 つまり、フライング・トラクターを支えている限り、フーファイターにはミサイルから防御する手段がないわけだ。

 今ならただの標的。

『ささ、隊長』『遠慮なくミサイルを……』

 矢部と古淵の言葉に甘え、僕は九十一式地対空誘導弾を発射した。

 ミサイルはフライング・トラクター目指して真っ直ぐ飛んでいく。

 その時、フライング・トラクターの窓が開いてエラが腕を突き出してきた。

 プラズマボールで迎撃する気か?

 しかし、九十一式は偽の熱源では騙せない……いや、違う。

 エラは大量のプラズマボールを高密度で放ってきた。ミサイルとフライング・トラクターの軸線上に……

 エラの意図は、偽の熱源ではない。プラズマボールを使ってフライング・トラクターの姿を隠すこと……

 今、ミサイルの位置からは、フライング・トラクターの姿がプラズマボールに隠されて確認できない。姿を確認できなければ、画像認識追尾イメージホーミングも役に立たない。

 ミサイルはフライング・トラクターの側を空しく通り過ぎていった。

 続いてもう一発撃ったが、それもエラのプラズマボールに阻まれてしまう。

 通信機から矢納さんの笑い声が聞こえてきた。

『あひゃひゃひゃ! 北村。どうやら弾切れのようだな。フーファイターの修理が終わったら、また遊んでやるぜ。今後こそアバヨ!』

 フーファイターはフライング・トラクターを重力場で下げたまま、《アクラ》に向かって飛び去っていく。

 残念だが、九十九式の性能では追いつけない。

 となると、当面僕たちが戦う相手は……
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