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第十四章

悲しい過去

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 ショットグラスに一杯注いで差し出すと、ジジイは早速口を当てた。

「こいつは旨い。ジャパニーズウイスキーの味に似ているな」

 まあ、リトル東京で作ったものだからな……

 ジジイはそのままチビチビと飲み始めた。

「日本のウイスキーの味を知っているの?」
「うむ。元々、わしはスコッチが好きだったのだが、わしの研究所にジャパニーズウイスキーを手土産に訪ねて来た青年がおってな。その時初めてジャパニーズウイスキーを飲んだのだが、これがまた格別の味でな」
「へえ」
「ちなみにその青年というのがレム・ベルキナじゃ」

 なに!?

「マッドサイエンティスト扱いされているわしの研究に興味を持って、はるばる訪ねてきたというのじゃ」
「研究とは、脳間通信機能のことか?」

 ジジイは頷いた。

「人間には元々、脳同士で情報をやりとりする能力が備わっているのじゃ。それは決して超能力などというものではない」

 それは知っている。

「レム君は当時、日本の大学に留学しておった。そこで田崎たざき優梨子ゆりこ博士の研究室に所属していたのじゃ」

 田崎優梨子!? 人の記憶を電子データ化する技術を開発した人だったな。

「レム君はな、人同士の脳を直結する技術を開発しようとしていた。だが、そんな技術を開発せずとも、元々脳にはそういう機能が備わっているというわしの論文を目にして訪ねてきたのじゃ。田崎博士からは止められたそうだが」
「なぜ? マッドサイエンティストだから?」
「いや、実はわしは若い頃の田崎博士に面識があってのう……」
「ああ分かった、分かった。どうせ、セクハラでもしたのだろう」
「な……なぜ分かったのだ?」

 わからいでか。

「まあ、それはいいとして」

 よくない。

「レム君は、田崎博士が止めるのも聞かずにわしに会いに来た。そして聞いたのじゃ。脳間通信機能なんてものがあるなら、自分の研究は無駄になるのか? と」
「実際どうなの? 無駄なの?」
「そんな事はない。そもそも、脳間通信機能は自分の意志でコントロールできるようなものではない。まあ、訓練すればできるがな」
「訓練すれば、できるものなのか?」
「誰でも、というわけではない。一部の天才なら訓練次第でできるという事だ。しかし、レム君の装置なら、そんな天才でなくても、訓練なしで人の脳同士で直接情報のやりとりができるようになる」
「それはBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)みたいなもの?」
「まあ、そうじゃ。人間の思考をデジタル化して機械に取り込み、それを別の人間の脳に送る装置じゃな」

 その装置は完成したのだろうか? いや、聞くまでもないか。実際に戦闘宇宙機やフーファイターがBMIを使っていたわけだから……

 ジジイは空になったショットグラスを差し出した。

 おかわりか。

 ウイスキーを注ぐと、ジジイはチビチビと飲みながら語り出した。

「レム君との最初の出会いはそんなもんじゃったな。それ以降も、レム君とはメールなどで交流が続いた。しばらくして装置が完成し、実物を持って訪ねてきたのじゃ」

 実物?

「その装置を使って、わしと脳を直結させようなどと言ってきたのじゃ。最初はわしも断ったのだがな」
「断った? なぜ?」
「そんなことしたら、わしがドスケベだという事がばれてしまうだろう」
「ば……ばれてなかったのか?」
「いや、レム君は、とっくに知っておった」

 だろうな。

「で、結局レムと直結したのか?」

 ジジイは頷いた。

「直結したよ。そして、知ったのじゃ。レム君の悲しい過去を」

 悲しい過去?
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