566 / 893
第十四章
悲しい過去
しおりを挟む
ショットグラスに一杯注いで差し出すと、ジジイは早速口を当てた。
「こいつは旨い。ジャパニーズウイスキーの味に似ているな」
まあ、リトル東京で作ったものだからな……
ジジイはそのままチビチビと飲み始めた。
「日本のウイスキーの味を知っているの?」
「うむ。元々、わしはスコッチが好きだったのだが、わしの研究所にジャパニーズウイスキーを手土産に訪ねて来た青年がおってな。その時初めてジャパニーズウイスキーを飲んだのだが、これがまた格別の味でな」
「へえ」
「ちなみにその青年というのがレム・ベルキナじゃ」
なに!?
「マッドサイエンティスト扱いされているわしの研究に興味を持って、はるばる訪ねてきたというのじゃ」
「研究とは、脳間通信機能のことか?」
ジジイは頷いた。
「人間には元々、脳同士で情報をやりとりする能力が備わっているのじゃ。それは決して超能力などというものではない」
それは知っている。
「レム君は当時、日本の大学に留学しておった。そこで田崎優梨子博士の研究室に所属していたのじゃ」
田崎優梨子!? 人の記憶を電子データ化する技術を開発した人だったな。
「レム君はな、人同士の脳を直結する技術を開発しようとしていた。だが、そんな技術を開発せずとも、元々脳にはそういう機能が備わっているというわしの論文を目にして訪ねてきたのじゃ。田崎博士からは止められたそうだが」
「なぜ? マッドサイエンティストだから?」
「いや、実はわしは若い頃の田崎博士に面識があってのう……」
「ああ分かった、分かった。どうせ、セクハラでもしたのだろう」
「な……なぜ分かったのだ?」
わからいでか。
「まあ、それはいいとして」
よくない。
「レム君は、田崎博士が止めるのも聞かずにわしに会いに来た。そして聞いたのじゃ。脳間通信機能なんてものがあるなら、自分の研究は無駄になるのか? と」
「実際どうなの? 無駄なの?」
「そんな事はない。そもそも、脳間通信機能は自分の意志でコントロールできるようなものではない。まあ、訓練すればできるがな」
「訓練すれば、できるものなのか?」
「誰でも、というわけではない。一部の天才なら訓練次第でできるという事だ。しかし、レム君の装置なら、そんな天才でなくても、訓練なしで人の脳同士で直接情報のやりとりができるようになる」
「それはBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)みたいなもの?」
「まあ、そうじゃ。人間の思考をデジタル化して機械に取り込み、それを別の人間の脳に送る装置じゃな」
その装置は完成したのだろうか? いや、聞くまでもないか。実際に戦闘宇宙機やフーファイターがBMIを使っていたわけだから……
ジジイは空になったショットグラスを差し出した。
おかわりか。
ウイスキーを注ぐと、ジジイはチビチビと飲みながら語り出した。
「レム君との最初の出会いはそんなもんじゃったな。それ以降も、レム君とはメールなどで交流が続いた。しばらくして装置が完成し、実物を持って訪ねてきたのじゃ」
実物?
「その装置を使って、わしと脳を直結させようなどと言ってきたのじゃ。最初はわしも断ったのだがな」
「断った? なぜ?」
「そんなことしたら、わしがドスケベだという事がばれてしまうだろう」
「ば……ばれてなかったのか?」
「いや、レム君は、とっくに知っておった」
だろうな。
「で、結局レムと直結したのか?」
ジジイは頷いた。
「直結したよ。そして、知ったのじゃ。レム君の悲しい過去を」
悲しい過去?
「こいつは旨い。ジャパニーズウイスキーの味に似ているな」
まあ、リトル東京で作ったものだからな……
ジジイはそのままチビチビと飲み始めた。
「日本のウイスキーの味を知っているの?」
「うむ。元々、わしはスコッチが好きだったのだが、わしの研究所にジャパニーズウイスキーを手土産に訪ねて来た青年がおってな。その時初めてジャパニーズウイスキーを飲んだのだが、これがまた格別の味でな」
「へえ」
「ちなみにその青年というのがレム・ベルキナじゃ」
なに!?
「マッドサイエンティスト扱いされているわしの研究に興味を持って、はるばる訪ねてきたというのじゃ」
「研究とは、脳間通信機能のことか?」
ジジイは頷いた。
「人間には元々、脳同士で情報をやりとりする能力が備わっているのじゃ。それは決して超能力などというものではない」
それは知っている。
「レム君は当時、日本の大学に留学しておった。そこで田崎優梨子博士の研究室に所属していたのじゃ」
田崎優梨子!? 人の記憶を電子データ化する技術を開発した人だったな。
「レム君はな、人同士の脳を直結する技術を開発しようとしていた。だが、そんな技術を開発せずとも、元々脳にはそういう機能が備わっているというわしの論文を目にして訪ねてきたのじゃ。田崎博士からは止められたそうだが」
「なぜ? マッドサイエンティストだから?」
「いや、実はわしは若い頃の田崎博士に面識があってのう……」
「ああ分かった、分かった。どうせ、セクハラでもしたのだろう」
「な……なぜ分かったのだ?」
わからいでか。
「まあ、それはいいとして」
よくない。
「レム君は、田崎博士が止めるのも聞かずにわしに会いに来た。そして聞いたのじゃ。脳間通信機能なんてものがあるなら、自分の研究は無駄になるのか? と」
「実際どうなの? 無駄なの?」
「そんな事はない。そもそも、脳間通信機能は自分の意志でコントロールできるようなものではない。まあ、訓練すればできるがな」
「訓練すれば、できるものなのか?」
「誰でも、というわけではない。一部の天才なら訓練次第でできるという事だ。しかし、レム君の装置なら、そんな天才でなくても、訓練なしで人の脳同士で直接情報のやりとりができるようになる」
「それはBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)みたいなもの?」
「まあ、そうじゃ。人間の思考をデジタル化して機械に取り込み、それを別の人間の脳に送る装置じゃな」
その装置は完成したのだろうか? いや、聞くまでもないか。実際に戦闘宇宙機やフーファイターがBMIを使っていたわけだから……
ジジイは空になったショットグラスを差し出した。
おかわりか。
ウイスキーを注ぐと、ジジイはチビチビと飲みながら語り出した。
「レム君との最初の出会いはそんなもんじゃったな。それ以降も、レム君とはメールなどで交流が続いた。しばらくして装置が完成し、実物を持って訪ねてきたのじゃ」
実物?
「その装置を使って、わしと脳を直結させようなどと言ってきたのじゃ。最初はわしも断ったのだがな」
「断った? なぜ?」
「そんなことしたら、わしがドスケベだという事がばれてしまうだろう」
「ば……ばれてなかったのか?」
「いや、レム君は、とっくに知っておった」
だろうな。
「で、結局レムと直結したのか?」
ジジイは頷いた。
「直結したよ。そして、知ったのじゃ。レム君の悲しい過去を」
悲しい過去?
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる