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第十四章

プシトロン2

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 Pちゃんの話は、さらに続いた。

「その後、博士は研究意欲を失い酒浸りの日々を送っていたのですが、レム・ベルキナと出会ってから、再び研究意欲を燃やし、ついにプシトロンの再発見に成功したのです」
「プシトロン? なにそれ?」
「ですから、脳間通信機能を媒介する素粒子ですよ。簡単に言うなら、通信機が電波で情報をやりとりするように、人の脳はプシトロンという素粒子によって情報をやりとりする事ができるのです」

 全然、簡単になっていないような気がするが……

「つまり、人の脳にはプシトロンという素粒子のパルスを送受信する機能がある。そういう事か?」
「おおむね。そんなところです」
「それと、式神との関係は?」
「式神は、本来なら通常物資との相互作用のない粒子などから構成されています。しかし、プシトロンパルスを受けると、一時的に相互作用を持つようになるのです」
「通常物資との相互作用のない粒子? 暗黒物質ダークマターか?」
「ご主人様の時代の人に、分かりやすく説明するならそんなところですね。ダークマターの中には、プシトロンパルスと反応する物質があるのです。ルスラン・クラスノフ博士は、その物質をバイオン粒子と呼んでいました」
「ちょっと待て。バイオン粒子って言ったら、オルゴンエネルギーを研究していたウィル……あれ?」
「ご主人様。ウィルヘルム・ライヒと言いたいのですか?」
「そう! そのなんたらライヒが発見したのでは?」

 ウーで読んだ知識だが……

「正確には、十九世紀おフランスの科学者H・チャールトン・バスチャンによってバイオン粒子は発見されています。ウィルヘルム・ライヒは、それを再発見したのです」

 そういえば、ウーの記事にもそう書いてあったな。読んだのは、高校生の頃だから忘れていた。

「普段、バイオン粒子は通常物質と相互作用する事なく、クラスターとなって漂っているのですが、人の脳から発せられるプシトロンパルスを受け取ると、様々な形状に変化し、通常物質と一時的に相互作用を持つようになります。ミクさんの式神も、ミールさんの分身体もそのようにして生み出されているのです」

 ううむ、そうなっていたのか。

「ただ、これは非常に危険な事です。ミールさんやミクさんのように訓練を受けている人ならともかく、なんの訓練も受けていない人が、強力なプシトロンパルスを発生させると、近くにあるバイオンクラスターが実体化して暴走することがあるのです」

 実際、キラの暴走は酷かったからな。

「とりあえず、人の脳にはプシトロンパルスを送受信する機能があり、それによって他人の脳と通信したり、式神を操ったりできる。そういう事だな?」
「そんなところです」
「では、北島の地下施設でミールの分身体が使えなくなったのは、プシトロンパルスを遮る何かがあるという事か?」
「そうです。通常のバリオン物質ではプシトロンと相互作用がありませんが、非バリオン物質の中にはプシトロンと相互作用のある物質があります。北島の地下施設は、そのような物質に覆われているのです」
「なぜ、そんな事を? あの施設を作ったのはタウリ族だったな。タウリ族がそうしたのか?」
「はい。博士がスーホさんから聞いた話です」

 タウリ族がそんな事をしたという事は、その必要があったからなのだろうな。
 
 とにかく、地下施設ではプシトロンパルスが途切れるわけだから、ミールの分身体は送り込めないわけで……ということは!

「レムは、人工的にプシトロンパルスを発生させる装置でも作っていたのか?」
「そうです。レムはその装置を使い、コンピューターの中にいながら、生きている人間と接続していたのです」
「それじゃあ、地下施設の人達の接続が切れたのは」
「外部のコンピューターから、プシトロンパルスが送り込めなくなったからです。博士によれば十時間以上プシトロンパルスが途切れたら、もう一度ブレインレターを使わないかぎり再接続はできません」

 ということは、この施設を使えば、レムに接続された人達を解放できるということじゃないか! 
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