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第四章

ちょっと一杯

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「おおお! これは?」
 エシャーの籠に入っていたのは、見たこともない果物や野菜、クッキーのような焼菓子。クッキーのような、と言ったが、普通のクッキーよりかなり大きい。
 高尾山のお土産物屋で見かけた、大判せんべいぐらいある。
 それと、徳利のような形状の壺があった。
 壺にはコルクのような栓がしてある。
 中に入っていたのは、琥珀色の透き通った液体。
 Pちゃんに成分分析してもらったところ、主成分はエタノール……つまり酒だった。
 度数は十五。日本酒やワインと同じくらい。
 という事は、蒸留酒ではないな。
 栓を抜くと、芳醇な香りが漂ってくる。
 ちょっと、味見。
 うん! いける!
 ちょっと一杯……いや、昼間から酒なんて……
 でも、仕事があるわけじゃなし、車の運転もしばらくはする必要がないし……

 シャトルの不時着地を出発してから、ずっと運転し通しだった。
 当初は三百キロ走ったら、二日休むペースのはずだったのだが、出発前にシャトルに予備の水素燃料が残っているのをPちゃんが見つけていた。
 それでも、最初はそれには手を付けないつもりだったが、カルルと出会ってから状況が変わった。
 僕の命を狙っている奴がいる。ならば、少しでも早く遠くへ逃げた方がいいということになり、予備の水素燃料が無くなるまで、夜通し走り続けたのだ。
 塩湖を出て、荒野をしばらく走り続け、ようやく隠れるのによさそうな森が見えてきたのは昨日の事。その時には、水素はほとんど残っていなかった。
 ドローンを飛ばしてみたところ、すぐ近くに小さな川があるのが見つかり、そこで水素を補給することにした。
 そんなわけで、昨日からずっとここにいる。
 ここで、川の水を電気分解して水素を取り出しているわけだが、タンクが満タンになるのは明日の昼ごろになる。
 それまでは、ゆっくりできる。
 というわけで、もう一杯。
「ご主人様」
 ん?
「お野菜、冷蔵庫にしまっておきました。今夜は、御馳走作ってあげますね」
「そ……そうか。楽しみだなあ……」
「ご主人様。私の料理の腕を、疑っていませんか?」
 ギク! だってなあ、カロリーメイトにドームカバーを被せて出すような奴の料理に、どう期待しろと……いかん! こいつには、感情があったんだ。傷つけないようにしないと……
「そ……そんな事はないぞ……」
「いいです。料理の腕は、実戦で証明してみせますから。海原○山も、満足する料理を作ってあげますわ」
 いや……それはハードル高すぎだろ……
「それとですね。エシャーさんから聞いたのですが、ナーモ族の人がレッドドラゴンの肝臓を欲しがっていたそうですけど、まだ残っていますか?」
「肝臓?」
 そういえば、レッドドラゴンの身体を解体した時、肝臓らしき臓器と、心臓らしき臓器を切り取ってフリーザーバッグに小分けして冷凍庫にしまっておいたな。
 まだ食べてないけど……
「まだ、手を付けてなかったよ」
「その人は、すぐに持ってきてくれたら高く買い取ると言っているそうですけど、どうします?」
「高くって? ナーモ族は、貨幣を持ってるの?」
「金貨や銀貨、銅貨が流通しています」
 だとすると、もっと酒が買える。
「ナーモ族の村って近いの?」
「ここから、十キロぐらいだそうです」
「よし行こう」
 充電は、一度中断することにした。
 荷物を片付けて、出発準備が整ったのは三十分後。
 エシャーが、道案内してくれると言って車の前に待機している。
 さっき、少し酒を飲んだが、まあこのぐらいなら大丈夫だろ。
 ここは地球じゃないし、道路交通法はない。
 僕は運転席に着いてスタートボタンを押した。
 メインモニターに『システム起動中』と表示される。
 突然、車内に警報アラームが鳴り響いた。
 どうしたんだ?
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