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第五章

帝国兵は、皆殺しだ!

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「ミール。ダサエフに、翼竜を今すぐ見たいと言わせてくれ」
「なるほど。案内させるのですね」
「ああ。熱源が多すぎて、このままじゃ時間がかかりすぎる」
 
『その捕獲した翼竜とやらを、見せてもらってよろしいでしょうか?』
『いいぜ』
 ダサエフは、衛兵の方を向いた。
『お前。ドロノフを案内してやれ』
 ドロノフは、衛兵に案内され、屋敷から出ていく。

 よし、PC画面をドローンカメラに切り替えて……
 屋敷から出てきた赤外線源をマークする。
 赤外線源は、屋敷から数百メートル移動していった。
 不意に動きが止まる。
 エシャーのところへ着いたのか?
「ひ……ひどい……せっかく……逃がしたのに……」
 ミール? どうしたんだろう? 蒼白な顔をしている。
 PC画面を、ドロノフのカメラに切り替えた!

 これは……!!
 
 地獄絵図……?

 大勢のナーモ族が、鎖に繋がれ拷問を受けていた。
 すでに死体となって転がっている者も少なくない。
 生きてはいるが、手足を切り取られ泣き叫んでいる者もいる。
 泣き叫ぶ子供を、兵士が射殺した。

 
 
 胃から、何かがこみ上がってくる。
 僕は席を立つと背後の茂みに駆け込んだ。

 吐いた。

 さっき食べた物と、胃液の混じった物を茂みの中にぶちまけた。

 今、見た光景はなんだ?
 
 現実に起きている事なのか?

 夢じゃないのか?

「ご主人様。大丈夫ですか?」
 Pちゃんが差し出してくれたタオルで口のまわりを拭うと、僕は再びPCに向き直った。
 夢じゃなかった。
 人間は、ここまでひどいことをできるのか?
 
 違う。

 こいつらは人間じゃない。
 人間に、こんなひどいことができるものか!

『ドロノフ。お前もやってかねえか?』
 ドロノフに下卑た声をかけた男は、ナーモ族の女の子を凌辱している最中だった。
 一人だけじゃない。
 キャンプファイヤーのような大きな火を囲んで、何人もの帝国兵がナーモ族の女の子達を凌辱していた。 

「ミール。ドロノフに言わせてくれ。今は仕事中だと」
「あの……これを止めさせるわけには……」
「それは、今から僕がやる。ドロノフは、このまま行かせてくれ」
 ミールは黙って頷く。
 辛そうな顔をしていた。
 このナーモ族の中には、ミールの家族、親族、友達がいるのかもしれない。
 いや、そうじゃなくてもミールはこの村に住んでいたんだ。
 みんな顔見知りなんだろう
 だけど、ここでドロノフの分身を使っても止める事はできない。
 止める方法は、一つしかない。
 
 僕はドローンのコントローラーを取り、一機の自動操縦を解除し手動に切り替えた。
 高度を下げていく。
 地獄絵図の直上にドローンを静止させた。
 さっき、ドロノフに声をかけた男は、遠ざかっていくドロノフに向かって何かを叫んでいる。その男の背後から、延髄に照準を合わせた。
 トリガーボタンを押す。
 消音器サイレンサーによって音を消された銃から放たれた二十二口径の弾丸が、男の延髄を破壊した。
 男は、自分に何が起きたのかも分からないまま倒れる。
 仲間が死んだというのに、他の男たちは気が付かないで残虐行為に勤しんでいた。
 いや、二人ほど気が付いた奴がいた。
『おい、どうした?』
『もう酔いつぶれたか。だらしねえな』
 そう言うと、二人は興味を無くして酒を飲み、地面に横たわっている女の子に手を伸ばす。
 その汚らわしい手が、女の子に触れる前に背後から弾丸を撃ち込んだ。
 どうやら、兵士達はかなり強い酒を飲んでいるようだ。
 仲間が倒れても、気が付かないか、酔いつぶれたと勘違いしてゲラゲラ笑うだけ。
 その男たちに、一人ずつ背後から弾丸を撃ちこんでいく。
 途中で弾が無くなり別のドローンと交代したが、狂乱状態にある男たちは、まだ気が付かない。
 最後の二人が、ようやく異変に気が付いたがもう遅い。
 ミサイルの発射ボタンを、僕はためらうことなく押した。
 二人の男は炎に包まれる。
 苦しさのあまり転げまわっていたが、やがて動かなくなった。

 僕の考えは甘すぎた。
 できれば、帝国兵もなるべく殺さずにエシャーを救出しようと考えていた。
 でも、無理だ。
 今、助けなきゃならないのはエシャーだけじゃない。
 このナーモ族たちも助けるには、帝国兵は皆殺しにするしかない。
 殺さなければ、どこまで追いかけて来る。

 話し合いなど無駄だ。
 
 生きのびたければ、殺すしかない。

 帝国兵は、皆殺しだ!
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