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第五章

男女平等に扱ってください。差別はいけません。

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『電源に接続。充電しています』
 時間をかけすぎた。
 バイザーを見ると、帝国兵はナーモ族のいるところへ百メートルまで迫っている。
 こっちも、あと百メートルぐらいだが、行く手を木々に阻まれてスピードが出せない。
「Pちゃん。ドローンで牽制してくれ。手段は任せる」
『了解です』
 木々の隙間の向こうに、一瞬だけ強烈な光が見えた。
 ミサイルを使ったな。
『ところでご主人様。さっき接敵したようですが、敵が一人も減っていません』
「ああ。あれは……馬だったんだ」
 そのうち一つは、ジャジャ馬だけど……
『馬だったのですか。てっきり、女だから見逃してやったのかと思いました』
 ギク!
「そ……そんなわけ……ないだろう」
 まさか、見えていたんじゃないだろうな……
『ご主人様。一言、言わせてもらいます。女と子供を殺してはいけないというのは、それが非戦闘員の場合です。武器を持って向かってくる以上、男も女もありません。敵は、男女平等に扱って下さい。差別はいけません』
 見ていたな……
『なに言ってるんですか、Pちゃん。そういう優しいところが、カイトさんのいいところじゃないですか』
 ミールいい奴……
『ミールさんこそ、なに言ってるのですか? 小川の中で女が生きているのをドローン映像で見て『キー! あの女……カイトさんに、お姫様抱っこされて許せない』と言って、私にトドメを刺してと言ったのは誰ですか?』
 ……あんまし、いい奴じゃなかった……  
『誰かしら、そんなコワい事言ったのは? ほほほ』
 ……おまえら、コワいよ。 
『まあ、ミールさんに頼まれなくても、ご主人様に危害を加えようとした奴は、生かしておけません。今からでも、殺していいですか?』
「だ……だめ」
『そうですか。ご主人様の命令である以上、私は逆らう事はできません。しかし、あの女を生かしておくと、後悔することになるかもしれませんよ』

 ようやく、木々の間を抜けた。
 火だるまになって地面に転げまわっている二人の兵士の姿が目に入る。それを他の兵士たちが、軍服で叩いて消そうとしていた。
 残念だが、その火はそのぐらいでは消えない。 
 ドローンの小型ミサイルには、ナパーム弾を使っている。
 ナパーム弾に使われているゼリー状の燃料は、身体に付着すると簡単にとれないのだ。
 あまり強力すぎる兵器のデータは入っていないと聞いていたのだが、どうやらこれは対危険生物用に入れてあったらしい。

 やがて、火だるまの兵士は動かなくなった。
「くそ!」
 消火していた兵士が悔しそうに言う。
「魔法使いめ! 酷いことしやがる」
 お前らの方がよっぽど、酷い事してるんだけど……
 茂みをかき分け、僕は奴らの前に出た。
「何者だ?」
 生き残った三人の兵士が一斉に銃を構える。
「言っておくが、君らの仲間を燃やしたのは、魔法使いではない」
「では、お前がやったのか?」
「そうだ」
 三人は一斉に銃を撃った。

『銃撃を受けました。貫通ありません』

「効かないぞ!」
「化け物か?」
「いや、あの鎧のせいだ」
 僕はゆっくりと三人に歩み寄る。
「君たちに、聞きたい事がある」
 僕の問いかけに一人の兵士が答えた。
「なんだ?」
「さっき『魔法使いめ。酷い事をしやがる』と言ったな。では、君たちがナーモ族に対してやった事はどう思ってる? 村に火をつけて、住民を虐殺して、鍾乳洞に隠れていた人達を引きずり出して、拷問にかけていた事は、酷いことではないのか?」
「何を言ってる? 俺達は人間だぞ。汚らわしい獣人と一緒にするな」
「ナーモ族も、知的生命体だ」
「そんな事を言ってるのではない。人間は神によって作られた唯一の知生体だ。他の知生体は悪魔が作った。悪魔の作ったナーモ族を滅ぼし、神の土地を人の手に取り戻す事は神の意志」
「本気で言ってるのか?」
「当たり前だ」
 こいつら……本気マジだ……本気マジで言ってる。
「お前たちは……狂っている」
「なんだと?」
「神が人を作り、それ以外は悪魔が作っただと……そんな事どうやって証明できるというのだ?」
「証明の必要などない。これは常識だ」
 だめだ、こいつら……完全に何かの宗教に洗脳されている。
 自分のやってる事を、微塵にも悪いと思っていない。
 ある意味、こいつらは哀れな犠牲者だと言える。
 しかし、同情なんかできない。
 人間なら、考えれば善悪の判断はつくはず。
 だが、こいつらはそれをすべて神に委ねた。
 自分で判断せず、会ったこともない『神』という存在に善悪の判断を丸投げした。
 こいつらの罪は、自分の考えを放棄したこと。

 罪は、償ってもらう。
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