668 / 893
第十六章

万能剣

しおりを挟む
 倒れた女性兵士たちの様子を見ると、血は流れていない。

 全員を、峰打みねうちで倒したようだ。

「しかし……鎧の上からでも、峰打ちって効果あるのかな?」

 と、僕が何気なくつぶやいた疑問に、芽依ちゃんが答える。

「橋本さんの刀は、特注品オーダーメイドなのですよ」
特注品オーダーメイド?」
「昨日、イワンの触手を断ち切ったところを見ましたよね?」
「断ち切った瞬間は土煙で見えていなかったが、ヴィイイイン! という機械音が聞こえていた。振動剣という武器かな?」
「そうです。橋本さんの刀は、スイッチ一つで振動剣モードになるのです。他にも、スイッチ一つで高圧電流を流したりもできます」
「高圧電流? スタンガンにもなるという事かな?」
「そうです」

 万能剣か? 他にも、なんか変な機能がついていそうな……

 まあ、それはともかく……

「とにかく、様子を見に行こう。兵士達が目を覚ます前に、縛り上げておかないと」
「はい」


 僕と芽依ちゃんは岩陰から出て、倒れている女性兵士たちのところへ向かった。

 すると、戦闘モードになっているミールの分身たちが僕と芽依ちゃんを追い抜いて行き、そのまま倒れている女性兵士たちに群がる。

 また、損害賠償を取り立てる気か?

 ここしばらく、そういう事はしていなかったのに……

「ミールさん!」

 僕が止める前に、芽依ちゃんが声をかけた。

 十二体の分身が一斉に振り向く。

「なんでしょう? 芽依さん」
「敵兵から、身ぐるみぐのはやめて下さい」
「いやですねぇ、芽依さん。あたしがそんな追い剥ぎみたいな事をするとでも……」

 いや、いつもやっているだろ。

「あたしはただ、彼女たちの武装解除をするだけですから」
「そ……そうでしたか? 失礼いたしました」

 しかし、ミールの略奪行為は、カルカを出てからはなかったと思うが……ロータスで捕まえた帝国兵の財布を抜き取った以外は……芽依ちゃんはなぜ知っているのだ?

「北村さんが、気がつかなかっただけでロータスでもアーテミスでも、ミールさんはやっていましたよ」

 え?

「ロータスでは、戦場で倒れている敵兵の金品をくすねているところを私は見ました」

 マジ!?

「アーテミスでも、盗賊のアジトから金品を運び出していたところも……」

 気がつかなかった。あの時は、他に忙しかったからな……

「それにP0371からも聞いています。カルカに到着する前、ミールさんは敵兵の身ぐるみを剥いでいた事も、北村さんがそれを黙認していた事も……」

 う!

「それを知ったのが温厚な私だったから良かったですが、橋本さんの目の前で、そんな事をしでかしたら大事おおごとですよ」
「そうなの?」
「彼女……曲がったことは嫌いですから……以前から戦場で略奪を行った味方の兵士を、その場で手打ちにする事が何度も……」
「手打ちって? 切っていたのか?」
「いえ。峰打ちですけど……」

 峰打ちでも、鉄の棒で叩かれるのだから、めちゃくちゃ痛いだろうな。

 実際、山頂で峰打ちを食らった敵兵士は、肋骨が折れていたし……

「矢部さんの場合は、峰打ちではなく本当に切られそうになりましたが」
「あいつも略奪をやったの?」
「いいえ。矢部さんの場合は、捕虜にした女性兵士にセクハラを働いた事が原因です」

 つくづく変態だな。

「ミールさん。お手伝いありがとうございます」

 現場に着くと、分身達ミールズと橋本晶が仲良く敵兵士を縛り上げていた。

「私、戦場で敵を打倒すのは得意ですが、その後で武装解除したり縛り上げたりするのは、本当に面倒だなあと……」
「そうでしたか。あたしはそういうの得意ですから」

 得意というより、その後の略奪が楽しいのだろうな。

「それにしても、ミールさん手慣れていますね。財布の中に怪しいものがないか開いて調べるなんて。私だったら、そんな細かいところまでは気がつきませんでした」

 て言うか、それがミールの主目的なのだけど……

「いえいえ、それほどでも」
「ところでミールさん。調べ終わった財布は、もちろん本人に返すのでしょうね? まさか?」
「いえいえ! 着服なんかしませんよ。やだなあ、あたしがそんな事をするような女に見えますか?」

 僕には、見えまくりだが……

 しかし、財布は確かに本人のポケットに戻していた。

 今回はミールも空気を読んで、略奪行為はやめたのかな?

「北村さん。気がつきましたか?」
「何が?」

 僕は芽依ちゃんの方を振り向いた。

「ミールさん。財布を返す前に、中身を抜き取っていましたよ」
「あちゃあ!」

 女性兵士の一人が目を覚ましたのは、その時だった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...