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第十六章

幻覚?

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 いったい、何があったのだ?

「姫。どうかされましたか?」

 僕の質問に、姫はひきつった顔で答える。

「今……わらわの尻を……誰かに、でまわされた」

 なに!? 

 不意に姫は、九九式に身を包んだ芽依ちゃんをにらみつける。

「おまえがやったのか?」
「ち……違います!」
「しかし、妾の近くには、おまえしかいないではないか」

 芽依ちゃんはヘルメットを外して、素顔をさらした。

「私は女です」
同性愛者レズビアンではないのか?」
「違います! 私はノンケです」

 この状況……嫌な既視感デジャビュが……

「おまえでなければ、誰だと……」
「それは……きゃああああ!」

 今度は、芽依ちゃんが悲鳴を上げる。

「芽依ちゃん! どうした?」
「だ……誰かが、私のお尻を……」

 しかし、芽依ちゃんの背後には誰もいない。

「いったいなんだ、この状況は……まるで……」
「まるで、わしが戻ってきたみたいじゃのう」
「そうだ! ジジイが戻ってきたみたい……え?」

 声は僕の背後から……

 振り向く。

「よ!」

 いかん。幻が見えた。

 そうだ幻だ! これは幻なんだ! 幻じゃなきゃやだ!

 ここにあいつがいるはずがない。

「おい! ワシを無視するのか」

 イカン! 幻聴まで聞こえる。

「芽依ちゃん。なんだか僕は、ヒドく疲れているみたいだ。幻覚が見えるのだよ」
「北村さん。私も疲れているみたいです。北村さんの背後に、アーテミスに置き去りにしたはずのルスラン・クラスノフ博士の幻影が見えるのですよ」

 ルスラ……そういえば、そんな名前だったな。あのジジイ……

「こら! 誰が幻影じゃ! いい加減、現実を受け入れろ」

 僕の背後から飛び出したジジイの幻影が、芽依ちゃんの背後に飛びつき胸を揉みだした。

「いやあああ! 変態!」
「ほれほれ! 幻影にこんな事ができるか!」
「いやあ! やめてえ!」
「それにしても、さすが日本の九九式機動服じゃのう。触感を操縦者に伝えることができると聞いていたが、これほどとは……」
「く! センシング・カット」

 芽依ちゃんは触感を遮断するコマンドを叫んだ。

「ん? 急に手応えがなくなったぞ」
「ルスラン・クラスノフ博士。絶対に許しません」

 芽依ちゃんは背中にしがみついているジジイをがそうするが、ひらりと逃げられる。

 もちろん、僕もその様子をただ見ていたわけではなく、逃げ回るジジイに掴みかかるのだが、いつも寸前で避けられてしまう。

 マジに妖怪じゃないのか。このジジイ……

 制御室の上にジジイが飛び乗った時、制御室の扉が開き、アーニャが顔を出した。

「いったいなんの騒ぎ?」
「おお! ここにも美女が!」

 上からジジイが、アーニャにしがみつこうとして飛びかかる。

 だが、アーニャはジジイの腕を掴み、壁に向かって投げ飛ばした。

「ルスラン・クラスノフ博士! どうやってここへ?」
「へへーい! わしを置き去りにしたつもりだったようだが、そうはいかんぞ。わしならとっくに潜水艦に戻って隠れていたわ」
「どうやって?」
「アーニャさんと言ったな。あんたアーテミスで、樽酒を買っておっただろう。あのときワシは店員に金貨を渡して、空の酒樽を用意してもらって、その中に隠れておったのじゃ。そしたらこいつが……」

 ジジイは僕を指さす。

「まんまとひっかかって、ワシの入った酒樽を潜水艦に運び込んでくれたのじゃ」

 なんだってえ!?

 アーニャが僕を睨む。

「北村君! あの時、酒樽をいくつ持って帰ったの?」
「三つですけど……」
「私は二つしか買ってないわよ!」

 んな事今更言ったって……

 不意に小屋の扉が開いた。

「カイトさん、メイさん。なんの騒ぎですか?」

 入り口にいたのはミール。

「おお! ナーモ族の美少女ではないか」

 ジジイがミールの方へ向かっていく。

 ミールの表情が恐怖に歪んだ。

「ひい! おじいさん! なぜここに?」
「お嬢ちゃああん! わしと良いことしよう!」
「いやああああ!」

 悲鳴を上げた後、ミールの姿は突然消滅した。

 木札が小さな音を立てて床に落ちる。

 分身体だったのか。

 飛びつこうとしたミールが突然消えたため、行き場を失ったジジイはそのまま外へ転がり出た。

「お嬢ちゃん。わしと良いことしようよ」
「おい。ジジイ。良いことなら、私としないか」

 ん? エラの声……

「おお! ここにも美女じゃあ!」

 学習しないジジイだな。

「うぎゃあああああ!」

 ジジイの悲鳴が収まった後、外へ出てみると、エラの電撃を食らったジジイがヘリポートの上でノビていた。
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