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第十六章
バックアップデータ
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「リトル東京に行きたいだと? なぜだ?」
僕の問いに、ジジイはニカっと笑って答える。
「この惑星で、美女と美酒にありつくにはリトル東京が一番じゃからな」
「ふざけんな! そんな理由で、連れていけるか!」
「それを決めるのは、おまえじゃないぞ。リトル東京の有力者が決める事じゃ。おまえはただ、リトル東京の大統領だか総理大臣だか市長だか国王だか知らないが、一番偉い人にわしの希望を伝えるだけでよい。そしたら、さっきの事を教えてやる」
「本当にそれだけでいいのか? リトル東京の方で断ってきたらどうする?」
「その時は、諦めるわい」
本当に諦めるのだろうか?
しかし、これはけっして悪い話ではないぞ。
僕はただ、リトル東京側にジジイの希望を伝えるだけでいい。
リトル東京市への入市を決めるかどうかは、向こうが判断するわけだが、判断材料としてジジイがこっちでやった所業も報告してやるのだ。
そうすれば当然、リトル東京がこんな性犯罪者を受け入れるはずがない。
ジジイの希望は、どっちにしても叶わないだろうな。
「芽依ちゃん。リトル東京へは、この事をメールで伝えておいてくれないか」
「メールでいいのですか? 直接通話でなくて」
「メールの方がいいんだ」
「はあ?」
僕は翻訳ディバイスを切った。ジジイには日本語が分からないはず。
「芽依ちゃんも、翻訳ディバイスを切って」
「はい」
芽依ちゃんが翻訳ディバイスを操作したことを確認してから、僕は話し始めた。
「直接通話だと、すぐに結果が分かっちゃうだろ。その結果、リトル東京から受け入れ拒否の返事が来たら、ジジイは途中で話をやめてしまうかもしれない」
「なるほど。メールなら返事がくるまでタイムラグがありますからね。その間に必要な事を聞き出すのですね」
「そうそう。それとジジイの希望だけでなく、奴がここでやった悪事も書いておいてほしい。それを読めば、向こうは受け入れ拒否してくるだろう」
「そうですね。あんな人に来られちゃ大変ですからね」
そう言って、芽依ちゃんはメールを送る作業に入った。
僕は翻訳ディバイスのスイッチを入れて、ジジイの方へ向き直る。
「いいだろう。リトル東京へは、あんたの希望を伝える事になった。ただし、どんな返事が返ってきても恨むなよ」
「恨んだりはせんよ」
「それでは、さっきの話をしてもらおうか」
「レム神が、接続者の意識を眠らせたまま残しているのはなぜか? という事じゃったな。別にこった理由があるわけではない。あれはバックアップデータじゃ」
「バックアップ?」
「人格と言っても、所詮はデータ。データならコピーもできる。レム神はコピーして作った疑似人格を、時間をかけて自らの一部にしていたのじゃ」
「なぜそんな事を?」
「そもそも、最初からそうしていれば良かったのじゃ。レム君は最初、人の脳同士を直結させて融合させていた。最初のうちはそれでも良かったが、精神融合が進んで精神生命体レム神になってからは簡単には行かなくなったのじゃ。人間の精神がレム神と直接接触すると、精神が崩壊してしまうことが相次いだのじゃ」
「だがら、時間をかけてじっくりと対象者をレム神の精神に慣らしていき、それから融合しているとレイラ・ソコロフから聞いたが……」
「レイラ・ソコロフが知っているのは、そこまでじゃ。わしはもっと安全な方法をレム神に提案した」
「その方法というのが、疑似人格を融合するという方法なのか?」
「そうじゃ。融合する人格は、別に接続者の脳内にある人格である必要はない。人格も所詮は情報。コピーして作った疑似人格でもまったく問題はないのじゃ」
「じゃあ、バックアップというのは……?」
「そう。疑似人格の融合が上手く行かなかった時に備えて、接続者の脳内に本来の人格を残しておいたのじゃ。おまえの仲間が、何度も目覚めさせられたのは、疑似人格の融合に何度も失敗して、その度に本来の人格を目覚めさせてからコピーして疑似人格を新たに作っていたからじゃろう」
「じゃあ、人格融合さえ済んでしまえば、接続者を解放してもいいのじゃないのか?」
「確かにそうじゃ。しかし、解放はせんじゃろうな。レム神としては、自分の手駒となる接続者を手放したくはないじゃろう」
そういう事だったのか?
「北村さん」
芽依ちゃんに呼びかけられ、振り向いた。
「リトル東京から、返信が届いたのですが」
ちょっと早いけどまあいいか。聞きたい事は聞き出したし……
「リトル東京からはなんと? まあ、受け入れ拒否だと思うが……」
「それが……ルスラン・クラスノフ博士を、丁重にお連れしろと……」
「ぬわにいいいい!?」
僕の問いに、ジジイはニカっと笑って答える。
「この惑星で、美女と美酒にありつくにはリトル東京が一番じゃからな」
「ふざけんな! そんな理由で、連れていけるか!」
「それを決めるのは、おまえじゃないぞ。リトル東京の有力者が決める事じゃ。おまえはただ、リトル東京の大統領だか総理大臣だか市長だか国王だか知らないが、一番偉い人にわしの希望を伝えるだけでよい。そしたら、さっきの事を教えてやる」
「本当にそれだけでいいのか? リトル東京の方で断ってきたらどうする?」
「その時は、諦めるわい」
本当に諦めるのだろうか?
しかし、これはけっして悪い話ではないぞ。
僕はただ、リトル東京側にジジイの希望を伝えるだけでいい。
リトル東京市への入市を決めるかどうかは、向こうが判断するわけだが、判断材料としてジジイがこっちでやった所業も報告してやるのだ。
そうすれば当然、リトル東京がこんな性犯罪者を受け入れるはずがない。
ジジイの希望は、どっちにしても叶わないだろうな。
「芽依ちゃん。リトル東京へは、この事をメールで伝えておいてくれないか」
「メールでいいのですか? 直接通話でなくて」
「メールの方がいいんだ」
「はあ?」
僕は翻訳ディバイスを切った。ジジイには日本語が分からないはず。
「芽依ちゃんも、翻訳ディバイスを切って」
「はい」
芽依ちゃんが翻訳ディバイスを操作したことを確認してから、僕は話し始めた。
「直接通話だと、すぐに結果が分かっちゃうだろ。その結果、リトル東京から受け入れ拒否の返事が来たら、ジジイは途中で話をやめてしまうかもしれない」
「なるほど。メールなら返事がくるまでタイムラグがありますからね。その間に必要な事を聞き出すのですね」
「そうそう。それとジジイの希望だけでなく、奴がここでやった悪事も書いておいてほしい。それを読めば、向こうは受け入れ拒否してくるだろう」
「そうですね。あんな人に来られちゃ大変ですからね」
そう言って、芽依ちゃんはメールを送る作業に入った。
僕は翻訳ディバイスのスイッチを入れて、ジジイの方へ向き直る。
「いいだろう。リトル東京へは、あんたの希望を伝える事になった。ただし、どんな返事が返ってきても恨むなよ」
「恨んだりはせんよ」
「それでは、さっきの話をしてもらおうか」
「レム神が、接続者の意識を眠らせたまま残しているのはなぜか? という事じゃったな。別にこった理由があるわけではない。あれはバックアップデータじゃ」
「バックアップ?」
「人格と言っても、所詮はデータ。データならコピーもできる。レム神はコピーして作った疑似人格を、時間をかけて自らの一部にしていたのじゃ」
「なぜそんな事を?」
「そもそも、最初からそうしていれば良かったのじゃ。レム君は最初、人の脳同士を直結させて融合させていた。最初のうちはそれでも良かったが、精神融合が進んで精神生命体レム神になってからは簡単には行かなくなったのじゃ。人間の精神がレム神と直接接触すると、精神が崩壊してしまうことが相次いだのじゃ」
「だがら、時間をかけてじっくりと対象者をレム神の精神に慣らしていき、それから融合しているとレイラ・ソコロフから聞いたが……」
「レイラ・ソコロフが知っているのは、そこまでじゃ。わしはもっと安全な方法をレム神に提案した」
「その方法というのが、疑似人格を融合するという方法なのか?」
「そうじゃ。融合する人格は、別に接続者の脳内にある人格である必要はない。人格も所詮は情報。コピーして作った疑似人格でもまったく問題はないのじゃ」
「じゃあ、バックアップというのは……?」
「そう。疑似人格の融合が上手く行かなかった時に備えて、接続者の脳内に本来の人格を残しておいたのじゃ。おまえの仲間が、何度も目覚めさせられたのは、疑似人格の融合に何度も失敗して、その度に本来の人格を目覚めさせてからコピーして疑似人格を新たに作っていたからじゃろう」
「じゃあ、人格融合さえ済んでしまえば、接続者を解放してもいいのじゃないのか?」
「確かにそうじゃ。しかし、解放はせんじゃろうな。レム神としては、自分の手駒となる接続者を手放したくはないじゃろう」
そういう事だったのか?
「北村さん」
芽依ちゃんに呼びかけられ、振り向いた。
「リトル東京から、返信が届いたのですが」
ちょっと早いけどまあいいか。聞きたい事は聞き出したし……
「リトル東京からはなんと? まあ、受け入れ拒否だと思うが……」
「それが……ルスラン・クラスノフ博士を、丁重にお連れしろと……」
「ぬわにいいいい!?」
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