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第十六章

解放

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 テントウムシについて説明をしている途中、ヘリから降りて来た人物を見て、ミクは怪訝けげんな顔をする。

「ミーチャ? あんた《海龍》でお留守番しているのじゃなかったの?」

 実際には、降りてきたのはミーチャではない。そもそも人間ですらない。

「ミク。この子はミーチャじゃないよ」
「え?」
「テントウムシだけでは不安なので、念のために、アンドロイドのミクも連れて来た」
「え!? だって、これはミーチャ……アンドロイドのあたしをミーチャに変装させたの?」
「ああ」
「ダメだよ。ミーチャは男の子だよ。あたしの隠しきれない巨乳で、すぐに変装だとばれるよ」
「え? 巨乳? どこ? どこ?」

 巨乳どころか、膨らみも識別できないが……

「ぶう! これから巨乳になる予定なの」
「とにかく、それは心配ない。見破らせるのが目的なのだから」
「そっか、わざとバレバレの変装をして、こっちが本物のあたしじゃないか? とレムに思わせるのね」

 そういう事だ。

「カイトさん」

 ミールに呼ばれて振り向くと、椅子に縛られて猿ぐつわをされている小淵の姿が目に入った。

 分身体ではなく、本物の方だ。

「あの人が、目を覚ましました」

 僕は小淵の近くまで歩み寄る。

「小淵さん。こんな目に遭わせてすまない。猿ぐつわを噛ませたのは、君が舌を噛んで自決する恐れがあると考えたからだ。だから、猿ぐつわを外す前に話を聞いて欲しい」

 猿ぐつわを噛まされたまま小淵は頷く。

「これから僕が言う事は、君を通じて話を聞いているはずのレム神に対して言いたいことだが、レム神は話を聞いているかい?」

 小淵が頷くのを確認してから、僕は話した。

「小淵はこれから解放する。だから、自決はさせないでくれ」

 しばらくして、小淵は再び頷く。

 それを確認してから、僕は猿ぐつわを外した。

「質問はあるかい?」
「いろいろと。まず中の人が聞いています。なぜ、僕を逃がすのか? と」
「今朝も言ったが、こちらには捕虜を抱える余裕がない。だからと言って殺すわけにもいかない。それに、レム神との接続が絶てないかぎり、君を自決させるかもしれないからな」
「中の人が言っています。捕虜になったとしても、僕を自決させる事はないと」
「それは信用できない。それと、あれを見てくれ」

 僕の指さす先に、ロボットスーツの着脱装置があった。

「あの中で君の九九式が修理中だ。修理が終わったら、装着してマルガリータ姫と部下たちを連れ帰ってほしい。ああ、念のためワイヤーガンは外してある」
「いいのですか? 九九式を装着した途端に、僕があなたたちを攻撃するかもしれませんよ」
「君は、この状況下でそんな事をするのかい?」
「いえ。僕は勝ち目のない戦いはしません。北村さんと森田さん、そしてファースト・エラさんがいる状況で、僕の勝ち目は万に一つもないでしょう」

 当然だな。

「しかし、隙を見てミクさんを拉致するかもしれませんよ」

 あ! その危険を忘れていた。

「ワ……ワザワザそんな事を言うという事は、そんな事もする気は最初からないのだろう」
「する気がないというより、成功するとは思えないのです。あなたの事だから、何か対策を立てているのでしょうね」
「もちろんだ。どんな対策かは言えないけどね」

 実は、何も考えていなかったなんて言えないけど……

「ところで、捕虜を連れて帰る件ですが……」

 不意に小淵は周囲を見回した。

「マルガリータ姫はどこですか?」
「小屋の中で休んでいるが」
「では、姫には聞こえていないですね。姫の部下たちは連れ帰りますが、姫は置き去りにしたいと中の人が言っているのですが」
「おい! マルガリータ姫は、そっちの最高司令官だろ」
「無能な司令官は、最大の敵ですので」

 まあ、気持ちは分かるが……

「連れ帰ってくれ。ここにいられても迷惑だ」
「しかし……」
「連れ帰ってくれない場合、今の話を本人に聞かせてから、自力で帰ってもらう事になるが」
「それは困りますね」

 十分後、銀色の九九式を纏った小淵は、マルガリータ姫を抱えて飛び立っていった。

 その様子を見ながら、アーニャが言う。

「うまく騙せたかしら?」
「どうでしょうね? まあ、向こうを混乱させるくらいはできたでしょう」

 実を言うとミールが『あの人が、目を覚ましました』と言う前から、小淵は目を覚ましていたのだ。

 どの時点からかというと、アーニャがウインクをした時点。

 小淵が目を覚ましたら、それに気が付いた者が合図を送って、しばらくの間は小淵が目覚めた事に気が付かないふりをして、小淵を通じてレム神に偽情報を聞かせようと打ち合わせてあったのだ。
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