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第十六章
偶然だよ
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屍の山を築きながら、僕たちは第三層へと続く傾斜路の前で合流した。
僕らの通り過ぎた後に、捕虜以外に生きている者はいない。
百人近い大虐殺。
三人とも、死んだら地獄行き確定だな。
「二人とも無事か?」
「ええ」「大丈夫です」
身体は無事だけど、メンタル面では結構きついだろう。これだけ殺しては……
「捕虜は?」
「二人ほど峰打ちで倒しました」「すみません。戦いに夢中で、捕虜は……」
橋本晶は、引きずってきた二人の男を床に投げ出した。
男たちは、二人とも意識が無いようだ。
「そうか。僕は五人ほど捕まえた」
僕は後ろを向いて、ワイヤーガンのコマンドを唱える。
「ウインチ スロースタート」
左腕のワイヤーが低速で巻き戻されていく。
やがて、手錠をかけられてワイヤーに繋がれた五人の捕虜たちが、引きずられるようにこっちへ歩いてきた。
先頭の女性兵士が、催涙剤を浴びて真っ赤に腫らした目で涙を流しながら、悔しそうに僕を睨みつけている。
無言だが、その目は『く! 殺せ』と言っているような……ん? なんか芽依ちゃんと橋本晶の視線が冷たいような気が……
「北村さん」「隊長」
「なんだい?」
「「なんで捕虜は、女の子ばかりなのですか?」」
だって、女の子殺したくないもーん。
「あれ? 言われてみれば、みんな女性兵士ばかりだな。まあ、偶然だよ」
「偶然ですか?」「帝国軍の女性兵士の割合は、一~二パーセントぐらいだったかと……」
「偶然だって……」
誰がなんと言っても偶然だよ。
催涙剤を浴びて苦しんでいる帝国軍兵士の中から、男だけ選別して殺していったのも偶然。
女性兵士だけ選んで手錠をかけてワイヤーガンのワイヤーに繋いだのも偶然だよ。
どう見ても偶然だろ。
「リトル東京の喫煙所で、よくカルル・エステスさんが言っていたのですが……」
ん?
「北村さんは、ムッツリスケベだと」
なぬ!? カルルの奴、そんな事を……
「もちろん、私はそんなことはないと思っていましたが、この様子を見ると、どうやらカルル・エステスさんが言っていたことも、あながち……」
「んな事はない!」
「違うのですか?」
「確かに女性兵士だけ殺さなかったが、僕が彼女たちに悪さをするとでも思っているのか?」
その時、さっきから僕を睨みつけていた女性兵士が帝国語で叫んだ。
間をおかずに翻訳ディバイスから、その日本語訳が流れる。
「殺すなら殺せ! おまえ達に、この身を汚されるぐらいなら死を選ぶ!」
橋本晶が彼女を指さす。
「ああ言っていますが、汚しますか?」
「やらねえよ! てか、ジュネーブ条約違反だろ!」
不意に橋本晶がバイザーをパカっと開く。
その顔はニヤニヤ笑っていた。
「冗談ですよ。そんなムキにならないで下さい」
からかわれていたのか。
「そういう反応は、前の隊長と同じで可愛いですね」
年上の男に『可愛い』とか言うな!
ん? 急に彼女が涙を流し始めた。
慌ててバイザーを閉じるが、どうしたんだ? あ!
「橋本君。催涙剤の影響が、まだ残っていたんだろ?」
「ふいましぇん。忘れてましゅた」
つくづく、致死性ガスは使わなくてよかった。
通信機から呼び出し音が鳴ったのはその時。
通信相手はミール。
「ミール、どうだった?」
『カイトさん。第二層に分身体を送り込みましたが、何も問題ありません』
第一層と第二層の間には、プシトロンパルスを遮るものはないようだ。
「分かった。第二層はまだ、催涙剤の影響が残っているから、降りてくるのはもう少し待ってくれ」
『はーい』
さてと……
橋本晶の方を振り向いた。
ヘルメットを外そうとしているのを、芽依ちゃんに止められている。
「放しちぇ! 森田しゃん! 目がひたいの!」
「落ち着いて下さい。今、ヘルメットを外したらよけいヒドくなりますよ」
やれやれ……
今から第一層に戻るのも大変だな。
僕は第三層へ続く扉を開く。
傾斜路なら、まだ催涙剤は入り込んでいないだろうと思って、橋本晶を連れて入るつもりだったのだが……
そこにそいつらが待ちかまえていた。
僕らの通り過ぎた後に、捕虜以外に生きている者はいない。
百人近い大虐殺。
三人とも、死んだら地獄行き確定だな。
「二人とも無事か?」
「ええ」「大丈夫です」
身体は無事だけど、メンタル面では結構きついだろう。これだけ殺しては……
「捕虜は?」
「二人ほど峰打ちで倒しました」「すみません。戦いに夢中で、捕虜は……」
橋本晶は、引きずってきた二人の男を床に投げ出した。
男たちは、二人とも意識が無いようだ。
「そうか。僕は五人ほど捕まえた」
僕は後ろを向いて、ワイヤーガンのコマンドを唱える。
「ウインチ スロースタート」
左腕のワイヤーが低速で巻き戻されていく。
やがて、手錠をかけられてワイヤーに繋がれた五人の捕虜たちが、引きずられるようにこっちへ歩いてきた。
先頭の女性兵士が、催涙剤を浴びて真っ赤に腫らした目で涙を流しながら、悔しそうに僕を睨みつけている。
無言だが、その目は『く! 殺せ』と言っているような……ん? なんか芽依ちゃんと橋本晶の視線が冷たいような気が……
「北村さん」「隊長」
「なんだい?」
「「なんで捕虜は、女の子ばかりなのですか?」」
だって、女の子殺したくないもーん。
「あれ? 言われてみれば、みんな女性兵士ばかりだな。まあ、偶然だよ」
「偶然ですか?」「帝国軍の女性兵士の割合は、一~二パーセントぐらいだったかと……」
「偶然だって……」
誰がなんと言っても偶然だよ。
催涙剤を浴びて苦しんでいる帝国軍兵士の中から、男だけ選別して殺していったのも偶然。
女性兵士だけ選んで手錠をかけてワイヤーガンのワイヤーに繋いだのも偶然だよ。
どう見ても偶然だろ。
「リトル東京の喫煙所で、よくカルル・エステスさんが言っていたのですが……」
ん?
「北村さんは、ムッツリスケベだと」
なぬ!? カルルの奴、そんな事を……
「もちろん、私はそんなことはないと思っていましたが、この様子を見ると、どうやらカルル・エステスさんが言っていたことも、あながち……」
「んな事はない!」
「違うのですか?」
「確かに女性兵士だけ殺さなかったが、僕が彼女たちに悪さをするとでも思っているのか?」
その時、さっきから僕を睨みつけていた女性兵士が帝国語で叫んだ。
間をおかずに翻訳ディバイスから、その日本語訳が流れる。
「殺すなら殺せ! おまえ達に、この身を汚されるぐらいなら死を選ぶ!」
橋本晶が彼女を指さす。
「ああ言っていますが、汚しますか?」
「やらねえよ! てか、ジュネーブ条約違反だろ!」
不意に橋本晶がバイザーをパカっと開く。
その顔はニヤニヤ笑っていた。
「冗談ですよ。そんなムキにならないで下さい」
からかわれていたのか。
「そういう反応は、前の隊長と同じで可愛いですね」
年上の男に『可愛い』とか言うな!
ん? 急に彼女が涙を流し始めた。
慌ててバイザーを閉じるが、どうしたんだ? あ!
「橋本君。催涙剤の影響が、まだ残っていたんだろ?」
「ふいましぇん。忘れてましゅた」
つくづく、致死性ガスは使わなくてよかった。
通信機から呼び出し音が鳴ったのはその時。
通信相手はミール。
「ミール、どうだった?」
『カイトさん。第二層に分身体を送り込みましたが、何も問題ありません』
第一層と第二層の間には、プシトロンパルスを遮るものはないようだ。
「分かった。第二層はまだ、催涙剤の影響が残っているから、降りてくるのはもう少し待ってくれ」
『はーい』
さてと……
橋本晶の方を振り向いた。
ヘルメットを外そうとしているのを、芽依ちゃんに止められている。
「放しちぇ! 森田しゃん! 目がひたいの!」
「落ち着いて下さい。今、ヘルメットを外したらよけいヒドくなりますよ」
やれやれ……
今から第一層に戻るのも大変だな。
僕は第三層へ続く扉を開く。
傾斜路なら、まだ催涙剤は入り込んでいないだろうと思って、橋本晶を連れて入るつもりだったのだが……
そこにそいつらが待ちかまえていた。
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