726 / 893
第十六章

フォーメーションA

しおりを挟む
 長い中央通路を逆V字陣形で駆けぬけていく分身達ミールズが、行程の半ばまで来たとき、傾斜路側からの銃撃が始まった。

 フリントロック銃ではない。

 自動小銃カラシニコフによるものだ。

 だが、分身達ミールズの数は減らない。

 随伴ずいはんしているドローンの映像を見ていると、分身体の胸や腹、太股、顔面に銃弾が命中している様子が映っていた。

 しかし、銃弾が分身体にいくら穴を穿うがっても、ものの数秒で穴は塞がってしまう。

 当然だ。ミールの分身体は憑代を破壊されるか身体の半分以上を一気に破壊しないと消滅しないのだから。

 だが、それは向こうも分かっているはずだ。 

 ならば、何か対策を立てているはず。

 先行させていた地上走行ドローンが、敵陣地に到着したのはその時。

 そこには、土嚢が一・五メートルほどの高さに積み上げられていた。

 ドローンは土嚢を乗り越えたが、そこにいる兵士達はドローンに気が付いていない。

 ドローンの光学迷彩は見破られてはいないようだ。

 土嚢では八人の兵士が、迫り来る分身達ミールズに向けて銃撃を続けている。

 その後ろでは……

 僕は、分身達ミールズを操っているミール本人の方を振り向いた。

「ミール。予想通りだ。フォーメーションAで」
「はーい」

 今まで逆V字陣形で中央通路を駆けていた十二人の分身達ミールズが、縦一列の縦列陣形に変わった。

 しばらくそのまま進んだ後……

「ミール! 分離!」
「はーい」

 縦一列で進んでいた十二人の分身達ミールズは、突然左右六人ずつの二列縦隊にパッと分かれた。

 その直後、二手に分かれた分身達ミールズの間を紅蓮の炎が通り過ぎる。

 火炎放射器だ。

 さっき見たとき、銃撃をしている兵士の後ろで火炎放射器を用意している兵士の姿がドローンの映像に映っていた。

 分身達ミールズに効果のない銃撃を続けていたのは、あくまでもこれを隠すための牽制。

 十分に近づいたところで、分身達ミールズの憑代を焼き払う作戦だったのだろう。

 だが、その戦法は前回 《アクラ》での戦いで知っている。

 だから、敵が火炎放射器を用意していたのが分かった時点で、敵の狙いを絞らせるために分身達ミールズに縦一列陣形を取らせた。

 そして、射手が火炎放射器のトリガーを引く瞬間に、分身達ミールズは左右二手に分かれたのだ。

 最初の火炎を避けられた射手は、次に左右どちらの列を狙うべきか一瞬迷った。

 その一瞬が命取り。

 射手が迷った瞬間に、先頭を駆けていた分身体が矢を放つ。

 矢は、火炎放射器を構えていた射手の喉を貫いた。
 
 ドローンで見ていると、別の兵士が射抜かれた兵士のそばへ行って火炎放射器を取ろうとするが、そのときにはもう手遅れ。

 兵士が火炎放射器を構える前に、分身達ミールズは土嚢で築かれたバリケードに取り付いていた。

 火炎放射器を手にしていた兵士は、槍で胸を貫かれる。

「よし! 僕たちも行くぞ」
「「はい!」」

 僕は芽依ちゃんと橋本晶を引き連れて、分身達ミールズが入って行った通路の左隣にある通路へ入っていく。

 僕たちの後ろからは、テントウムシが付いてきていた。

 このテントウムシには誰も乗っていない。

 しかし、それは敵には分からない。

 テントウムシがいれば、その中にミクがいると敵に思わせる事ができ、こちらに注意を引きつける事ができる。

 もちろん、本物のミクがいるのは中央広場の陣地。

 そこはキラの分身体が守っているし、替え玉アンドロイドもいるので帝国兵が地雷原を突破してきても対処できるはずだ。

 やがて、先行しているドローンが環状通路に到達する。

 そこでドローンを静止させた。

 ドローンの映像に敵はない。

 ミールの陽動は上手くいっているようだ。

「環状通路に敵はいない。突入するぞ」
「「はい!」」

 僕たちは環状通路を右折。

 このまま、傾斜路入り口で分身達ミールズと戦っているカルル・エステス隊の側面を突く。

 ……はずだった。

 右折していくらも進まないうちに、奴と遭遇したのだ。 

 多脚警察車両スパイダーから顔を覗かせているカルル・エステスと……
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...