736 / 893
第十六章

風評被害

しおりを挟む
 ミールは、状況を話し終えた。

 それにしても危ないところだったな。

 カルルが勘違いしてくれたおかげで助かったが……まあ、あいつの勘違いはいつもの事だけど……

「それで、ミール。君は今どこにいる? もう一体のスパイダーが、そっちへ向かっているのだが……」
『あたしとミクちゃんは、カルルが行ったすぐ後に小部屋に隠れました。キラも一緒です』

 イリーナが来る前に隠れられたようだな。

『え? キラ、どうしました? え! カイトさん。今、キラの分身体が、青いスパイダーと遭遇しました』
「どうなった?」
『少々お待ちください……どうやら、戦闘にはなりませんでした。カルルの行った方向を教えたら、あっさりとそっちへ行きましたよ』
「ちなみに、カルルの行った方向って、地雷原じゃないのかい?」
『そうですけど、天井を走って行ったから、地雷にはかからないと思います』

 地雷が仕掛けてある事は、分かっていたようだな。

『それと、傾斜路入り口の帝国軍陣地ですけど、あたしが分身体を自立モードにしている間に、ほぼ壊滅していたようです』
「全員殺したのか?」

 できれば捕虜を確保して、情報を聞き出したかったのだが……

『五人ほど逃げましたが、一人は地雷原の方へ逃げたので助からないでしょう』
「後の四人は?」
『二人は傾斜路へ入り、第七層へ逃げました。そして、残り二人はカイトさんがいる方向へ逃げたので、そろそろそっちへ現れると思います』

 え?

 通路の奥に視線を向けると、二人の帝国軍兵士がとぼとぼと歩いてくるところだった。

 二人の兵士も僕たちの姿に気が付く。

 二人は、とっさに自動小銃カラシニコフを構えた。

 戦意は喪失していないようだな。

 芽依ちゃんが前に進み出る。

「無駄な抵抗はやめて投降しなさい」

 答えは銃弾で返ってきた。

 だが、そんな抵抗は九九式の装甲に火花を散らすぐらいの効果しかない。

 程なくして弾切れになると、二人は銃を捨ててナイフを抜いた。

 ナイフの形状は、円筒形のを持つ先端の尖った諸刃もろはの直剣。

 まだ抵抗する気か。

 やれやれ。銃弾ですら通用しないロボットスーツ相手にナイフなんて……

 ん?

 一人の兵士がヘルメットを外した。

 ブロンドの長い髪がファサっとこぼれる。

 もう一人もヘルメットを外すと、長い栗色の髪があふれ出た。

 女性兵士か。

 二人とも二十歳ぐらいの美女……

 女たちは、ナイフを自分の首筋に当てる。

 自決する気か!

「よせ! 早まるな!」
「こっちへ来ないで!」
「あなたに陵辱されるぐらいなら、死を選ぶわ!」
「いや……そんな事はしないから……」
「嘘よ! カイト・キタムラは、ドスケベの変態だと聞いているわ!」

 おい……

「女性兵士だけ殺さないのは、基地へ連れ帰ってその身体をもてあそんで楽しむためでしょ!」

 とんでもない、風評被害だ。

「隊長。いつもそういう事をされていたのですか?」
「橋本君。君は、僕がそういう事をするような男に見えるというのか?」
「いえ、見えません。ただ、そういう事を言った時の隊長の反応が面白いので」

 悪趣味な……

 しかし、帝国軍の間でそういう噂が広まるのは困ったものだな。

「大丈夫ですよ。そんなのデマですから。北村さんは、女の子に酷い事はしませんから」

 芽依ちゃんが説得するが、彼女たちはナイフを手放さない。

「そんなの信用できないわ」
「スケベじゃないというなら、ヘルメットを取って顔を見せなさいよ。顔を見ればスケベかどうか分かるわ」
「どうしたの? 怖くてヘルメットを取れないの?」
「私たちは、飛び道具なんか持っていないわよ」

 飛び道具なんか持っていない? なるほどね、そういう魂胆か。

 僕は橋本晶の耳元にささやいた。

「芽衣ちゃんから聞いているが、君は刀剣マニアで世界中の刀剣に詳しいそうだね」
「ええ。そうですが、それが何か?」
「それなら、彼女たちの意図は分かったかい?」
「ああ! その事ですか。もちろん分かっています」
「では、落とす自信はあるかな?」
「それなら、お任せください」

 よし。

 僕はヘルメットを外した。

「どうだい? 僕の顔がドスケベの変態に見えるかい?」

 彼女たちは僕の顔を見て、にやっと笑みを浮かべる。

「あらあ! なかなかいい男ね。ドスケベの変態には見えないわ」
「ハンサムだわ。でも、もったいない」

 彼女たちはナイフを僕に向けた。距離にして五メートル。

 ナイフでどうにかできる距離じゃない。

 普通なら……

「もったいないわね。こんなハンサムを殺すなんて」
「あんた、スケベじゃないけど間抜けよ」

 二人は同時に、ナイフのつば元にあるロック解除ボタンを押した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...