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第十六章

死なない程度のダメージなら、問題ないという事だな?

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 ミールの分身体が特攻をかけた後、ワームホールからは何も出てくる様子はない。

 しかし、ワームホールが閉じる様子もなかった。

 僕は芽依ちゃんの方をふり向く。

「芽依ちゃん。橋本君を連れて《水龍》へ行ってくれ。そこでエネルギーと、弾薬の補給を受けるんだ」
「北村さんは、補給しなくて大丈夫なのですか?」

 エネルギー残量にチラッと視線を走らせた。

 けっして、大丈夫とは言い切れないが……

「僕の方は、まだ大丈夫だ。君たちの補給が終わったら、僕も《水龍》へ向かう」

 二人が《水龍》へ向かうのを見届けてから、僕は《海龍》へと向かった。

 待てよ。下手に《海龍》に近づいたりしたら、またワームホールを閉じられてしまう。

 閉じられる前に、紫雲でワームホールの向こうを偵察してみては……

 プシトロンパルスはダメだったが、電波はワームホールを通れるようだし……

 紫雲一号に指令を送り、ワームホールへ向かわせた。

 しかし、ドローンがワームホールに入るところをイリーナに見られるのはまずいな。

 紫雲二号に指令を送り、イリーナ達のいる司令塔の上に上げてみた。

 撃墜されるかもしれないが、敵が二号機に注目している間に一号機をワームホールに入れられればいい。

 だが、イリーナたちはそれどころではなかったようだ。

「まだ連絡が取れないの!?」

 イリーナが、通信機を操作している部下をヒステリックに怒鳴りつけている。

 どこと連絡を取っているのだ?

「通信機は繋がっているようですが、向こうに誰も応答できる者が……」

 だから『向こう』って、どこだよ!?

「通信機は繋がっている? カ・モ・ミールに、通信機を壊されたわけじゃないのね。でも、時空穿孔機はやられていないかしら?」

 どうやら、ワームホールの向こうと連絡を取ろうとしているようだな。

「とにかく、時空穿孔機が無事なら、早くワームホールを閉じないとロボットスーツ隊が戻って来ちゃうわ! 急いで連絡して!」
「そう言われても……」

 今はワームホールを、閉じられないのか?

 ん?

 不意にミーチャがイリーナの手をふりほどいた。

「あ! 待ちなさい!」

 数歩も行けないうちに、ミーチャは別の兵士に捕まってしまう。

「ヤダ! 放して!」
「大人しくしろ!」

 別の兵士が、ミーチャの腹にパンチを叩き込んだ。

 子供になんて事を……

「うううう」

 涙を流して苦しむミーチャに、イリーナが顔を近づける。

「ミーチャ君。逃げるとこういう目に遭うのよ。だから、大人しくしましょうねえ」
「どうして?」
「ん?」
「どうして、僕の見る先に、ワームホールが現れるの?」

 まずい!

「それはね。ミーチャ君はレム様と……」

 イリーナが話す前に、僕は紫雲のスピーカーのスイッチを入れた。

「やい! イリーナ!」  
 
 僕の方を……つまり紫雲二号の方をイリーナは向いた。

「カイト・キタムラのドローン!? いつの間に?」

 むしろ、なぜ今まで気がつかなかったのか聞きたいところだが……今はそれより……

「おまえ達の誰かの心臓停止が、対人地雷のスイッチだというのは嘘ではないな?」
「ええ。嘘ではないわ。試しに撃ってみる?」
「つまり、死なない程度のダメージなら、問題ないという事だな?」
「え?」

 紫雲二号に指令を送った。

 ミーチャを殴った兵士の腹に、体当たりをするようにと。

「うごうおぉぉ!」

 二号の体当たりを食らった兵士は、司令塔の上で腹を押さえてのたうち回る。

 二号の方も壊れてしまったかと思ったが、センサーのいくつかが死んだだけで意外と大丈夫なようだ。まだ飛べる。

「腹を殴られると、このぐらい痛いという事は知っているか?」

 兵士は、恨みがましい目で僕を睨みつけてきた。

「なんだ! その目は! まだ足りないか!」

 今度は、紫雲二号を兵士の顔面にぶつけた。

 二度、三度、四度と……

 さすがに紫雲二号にもダメージが蓄積して飛行機能を喪失し、司令塔の上に落ちたが、兵士も血塗れになって倒れ、ピクピクとケイレンしている。死んではいないが…… 

 スピーカーは生きているかな? 大丈夫なようだ。

「いいか! 次にミーチャに乱暴を働いた奴は、こいつと同じように心臓が止まらない程度に制裁する。分かったな!」

 顔面蒼白になったイリーナたちは、無言でコクコクと頷く。

 そして、言うまでもない事だが、この騒ぎの隙に紫雲一号はワームホールに突入したのだった。
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