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第十六章

一抹の不安(矢部の事情)

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 この惑星にやってきた地球人は、何者かに操られている。

 それが分かって以来、タウリ族は地球人との接触を断ち、本国の指示を待つことにした。

「スーホさん。本国からは何と言ってきたのです?」
「本国から送られてきた指示は『地球人を操っている精神生命体と接触して、惑星への来訪意図を聞き出し、侵略目的なら思いとどまるように説得せよ』という事だった」
「ええ! 説得? 無理! 無理! 無理! レム神が、説得に応じるわけがない。いや、それ以前に来訪意図を聞いたところで『侵略だよ』と正直に言うはずがない」

 矢部の言葉に対し、スーホは苦笑して頷いた。

「分かっているよ。私も本国の奴らも。ようは、探りを入れろという事だ。地球人を操っている精神生命体が何者で、何が目的かを……」
「それで、レム神との接触には、成功したのですか?」

 スーホは頷いてから答えた。

「成功した。レム神に操られている地球人に『君が、この哀れな地球人を操っている精神生命体だという事は分かっている。何が目的で、こんな事をやっているのか答えてもらおう』とね」
「それは直球ですね。で、レム神はなんと?」
「最初は『操られてなどいない』と言って誤魔化そうとした。そこで彼に、プシトロンパルスの観測装置を見せて問いつめてみた。その結果、レム神はようやく自分の存在を認めたのだ」
「存在は認めたのですね。でも、素直に侵略が目的とは言わなかったですよね?」
「当然だ。その後レム神は、《マトリョーシカ》に乗ってきた地球人は、プシトロンパルスを仲間内での通信手段として使っていたのであって、レム神はそれを調整していただけに過ぎない。ただ、余計な誤解を招きたくないからその事は黙っていたと言っていた」
「苦しい言い訳ですね」
「まったくだ。レム神の言っている事はとうてい信用できないので、本国を通じて地球に問い合わせる事にした。《マトリョーシカ》の素性について」
「しかし、地球から監視者任務要員を亜光速船で送るという話は、実際にあったのですか?」
「それは確かな話だ。ただ、地球の船がいつ到着するか。船の名前までは情報が届いていなかった」
「しかし、そんなに早く交代したいのなら、タウリ族のワームホールで連れてくれば良かったのではないかと……」
「監視者はあくまでも、その種族の力のみで任地へ来られる者でなければならない事になっているのだよ。我々が手助けする事はできない」
「そうでしたか」
「地球人もワームホールを使う技術はあるらしいが、出現場所を制御できないようだね。この恒星系に地球人のワームホールが偶然開くのを待つよりも、亜光速船が到着する方が早いと我々は考えていた」
「しかし実際に到着した《マトリョーシカ》は、共同体加盟に反対していた国の船ですよ。結局、地球に問い合わせた結果はどうなったのですか?」
「問い合わせる事はできなかった」
「なぜ?」
「さっきも言ったが、ワームホール制御クリスタルをレム神に奪われてしまったのだよ。地球に問い合わせる前に、ベイス島の基地が地球人から襲撃を受けたのだ」
「襲撃? しかし、タウリ族の科学技術は地球のそれを凌駕するものでしょう?」
「確かに我々の科学技術は地球より優れているが、この惑星に残っていたタウリ族は、私を含めて七名だけ。数ではとうていかなわない。ベイス島の基地から制御クリスタルを強奪すると、レム神はいよいよ本性を現した」
「侵略を始めたという事ですか?」
「そうだ。それ以降、私は潜伏生活を強いられていた。情報収集のために町に出て行く時以外は、南ベイス島のシェルターもしくはこの船に隠れていた。そして、最近になって、私は良い情報と悪い情報を同時に入手したのだ」
「良い情報とは、俺達がやって来たという事ですか?」
「そうだ。後からやって来た地球人が、レム神の侵略阻止の行動に出ている事だ」
「まあ、ブレインレターでやられなければ、俺は今でもそっち側だったのですが……」

 矢部は、ふと一抹の不安を覚えた。

 今からリトル東京に戻ったとして『ごめんごめん。ブレインレターにやられちゃったよ。てへ』で許してもらえるだろうかと……

 古淵ならそれで許されるかもしれないが、自分の場合セクハラ行為でかなりの顰蹙を買っている自覚はあった。

 特に芽依の父が激怒していると聞いていた。

 もし、このままおめおめとリトル東京に帰ったら『まだ接続者という事にして始末してしまえ』という事になってしまうかもしれない
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