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第十七章

青年と老人3

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 恐怖に震える老人の姿を見て、青年は落ち着きを取り戻した。

「今日は、あなたの妄想の根元を調べに来た」
「違う……妄想なんかではない……妄想なんかではない……」

 小声で呟く老人の言葉を無視して、青年は話を続けた。

「そうそう。言い忘れた事が。僕が今からあなたに対して使う装置は、田崎教授の開発した装置の強化版です」
「強化版?」
「ええ。強化版というより、元の装置にある安全機構を外したような装置です。だから、より多くの記憶を抽出できる。ただ、困ったことにその装置を使うと、被験者が廃人になってしまうのですよ」
「廃人だと? 具体的にどうなるというのだ?」
「痴呆老人のようになりますね」
「よせ! 貴様に、なんの権利があってそんな事を」

 青年は一枚の書類を老人に突きつけた。

「政府の許可なら出ております」
「まて! 廃人になると分かっていて、生きている人間に使うと言うのか? 非道いと思わないのか?」
「はあ? あなたの命令で、大勢の生きている民間人に、ミサイルや自爆ドローンがドカドカと撃ち込まれたのですよ。これは非道いことではないのですか?」
「それは……」
「自分は他人に対して非道い事をしておいて、自分は非道い事をされるのは嫌だとでも言うのですか?」
「う……それは……嫌に決まっているだろう! 他人がどうなろうと知ったことか! 私さえよければいいのだ!」
「なるほど。だが、そんな事が許されるとでも思っているのですか? 仏教に因果応報という教えがあります。悪いことをしたら、それは自分に返ってくるのですよ」
「そのぐらい知っている。しかし、こんな事なら死んだ方がマシだ」
「では、この場で舌でも噛んで死にますか? 止めませんよ」
「う……」
「できないでしょうね。なぜなら、あなたは臆病者チキンだから」
「違う! 私は臆病者チキンではない!」
「いいえ。ブレイン・スキャナーなど使わなくても分かります。あなたは臆病者チキンだ。自分が臆病者チキンである事を隠したくて、今まで強がってきた。そのために大勢の人を殺した。戦争も起こした。すべては、あんたが臆病者チキンである事を隠すため」
「違う! 違う! 違う! 私は臆病者チキンではない!」
「では、それを確認させてもらいましょう」
「なに?」

 青年は、後ろを振り向いて言った。

「やってくれ」

 青年がそう言うと、屈強な男達が入ってきて老人を押さえつけた。

「やめろ! 離せ!」

 老人は抵抗するが、まったく歯が立たない。

 やがて運び込まれてきた機械に、老人は縛り付けられる。

 青年は、悪魔のような笑顔を老人に向けた。

「さあ、これがあなたのしでかした事に対する罰です。存分に受けて下さい」
「罰だと? 私は、もうこの牢獄で十分に罰を受けたぞ」
「十分? 何を勘違いしているのです? あなたのつまらない妄想で、どれだけ多くの人が傷つき死んでいったと思っているのですか?」
「それは……」
「あなたが受けるべき罰は、この程度では、まったく足りませんね。続きの罰は、地獄で受けて下さい」

 そして、青年は機械を作動させた。
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