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第十七章

あ! 抜けているから敵に捕まったのか。

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「カルル・エステスが、帝国軍に捕まった!?」

 僕が素っ頓狂な声を上げたのは、地下百メートルにある防衛隊第二作戦会議室でのこと。

 ここへ来て分かったことは、カルルは三週間前に密命を帯びてリトル東京を出て、帝国の都市ニャガンに潜入していたらしい。

 その事を僕に伝えたのは、還暦を過ぎた白髪の男性。

 森田指令……つまり芽依ちゃんのお父さんだ。

 それにしても、三週間前からカルルがリトル東京にいなかったと言うが……

「指令。僕は三週間の間に、カルルと何度か電話で話をしていますが……」

 まさか、潜入先から電話をしていたとは思えない。

「それは偽装工作だ」
「偽装? どうやって?」
「簡単なことだ。今まで君がカルルと思って電話をしていた相手は、コンピューター内にあるカルル・エステスのコピー人格だよ」

 あ! 全然疑っていなかった。

「しかし、三週間前の夜に、僕はカルルと店で飲んでいましたが……」

 記憶を無くすほど飲んだのは、その時だったし……

「カルルもそうとう飲んでいましたので、その直後にそんな大切な任務に……」
「その心配はない。あの時は、酔いつぶれるのも計算のうちだった」
「というと?」
「リトル東京内には、わざと泳がせている帝国のスパイがいる。奴らにカルル・エステスが、リトル東京にいると思わせるための工作だよ」

 泳がせているスパイ!? まあ、予想はしていたが本当にいたんだな。

「君は覚えていないかもしれないが、カルルはあの時急性アルコール中毒で病院に運ばれた。という事になっている」
「いや……それは後で、本人から電話で聞きましたが……」
「そうだったか。まあ、それも偽装工作の一つだよ」

 たしか電話では『いやあ、あの後は大変でな。救急車で病院に運ばれて一週間も入院したぜ』とか言っていたが、あれはコピー人格だったのか。

「あの日カルルは、君と飲んで酔いつぶれたフリをしてから救急車で運ばれて入院したように偽装して、カルル本人の身柄は病院の裏口から抜け出して潜水艦 《はくげい》に乗り込んで帝国に向かう事になっていた」
「酔いつぶれたのは、演技だったのですか?」
「いや、演技ですますつもりが、本当に酔いつぶれてしまった」

 あらま。

「だから、病院からは意識のない状態で部下達に運び出されて港へ向かった。彼が目を覚ましたのは、翌日潜水艦の中。その後も、ニャガン沖に着くまで二日酔いで苦しんでいたらしい」

 カルルらしいな……
 
「しかし、そこまで偽装して、カルルに何をさせたかったのです?」
「帝国領内に、プシトロンパルス観測装置を設置するためだ」
「え? しかし、観測装置ならすでに……」
「リトル東京とカルカには設置してある。だが、プシトロンパルスの発信元を突き止めるには、それだけでは不十分だ」

 そうなのか?

「君も知っての通り、プシトロンパルスを観測するには、近くに接続者がいる必要がある」

 それは知っている。

 確か、接続者から半径二十メートル以内に観測装置があれば、その接続者が送受信しているパルスを特定できるという事だったと聞いていたが……

「リトル東京とカルカで捕らえてある接続者の近くで観測を行っていたが、それだけでは発信源の特定は難しいとの事だ。そこで、接続者が多数いる帝国内に、密かに観測拠点を設けて、発信源を特定しようという事になった」
「その任務をカルルに……しかし、なぜカルルを選んだのです?」
「帝国に潜入しても、怪しまれない人材が必要だった。カルルなら打ってつけだ」

 まあ、それは言える。

 あいつなら翻訳機なしで帝国語が話せるし、容姿も帝国人に近い。

 変装するにしても簡単なもので済む。 

 僕が潜入するとなると、翻訳機が必要だし、変装のためにホロマスクも必要になるな。

 だが、カルルに潜入工作なんかさせて大丈夫だったのか?

 あいつ、どっか抜けているし……あ! 抜けているから敵に捕まったのか。
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