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第十七章

飛行艇《あすか》

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 リトル東京は、外海と内海に挟まれた狭い地峡上に築かれた都市。

 外海側と内海側にそれぞれ港がある。

 僕らが着いたのは内海側の港。

 桟橋の前でリムジンは止まった。

 その桟橋に、飛行艇が停泊している。

 機体の側面に、ひらがなで『あすか』と書かれているのを確認。

 これで間違えないな。

 それにしても飛行艇の実物を見るのは初めてだが、かなり大きいな。

 事前に聞いていたスペックだと、全長三十三メートル全幅三十三メートル全高十メートル。

 形状はまさに翼のある船。

 水素エンジン四発のプロペラ機で、さらに機内に小型の核融合炉があり、その電力で水を分解して得た水素を取り込むことができるそうだ。

 それなら、その電力でモーターを回せばいいのでは? と、思ったのだがこの核融合炉の出力はそれほど大きくなく、飛行艇を飛ばせるほどの大電力はないらしい。

 タンクを満タンにできるだけの水素を作り出すのに、数十時間かかるという。

 それはそうと入り口はどこだろう?

 そう思った時、機体の壁面の一部が横にずれて入り口が現れた。

『機動服中隊の方達ですね。どうぞ中へお入りください』

 女性の声でアナウンスが流れる。

「君は誰だ?」

 僕の質問に彼女は答える。

『私はこの飛行艇の制御人工知能AIです。私の事はアスカとお呼び下さい』

 AIだったのか。

 とにかく言われるままに僕達が中に入ると、先に乗り込んでいた者がいた。

「ミク?」「ミクちゃん……」

 飛行艇の与圧キャビンでは、ミクがちょこんとシートに腰掛けている。

「お兄ちゃん、芽依ちゃん、お久しぶり。ねえねえ、あたし少しは大きくなったでしょ」

 え?

「いや……背丈はあまり変わらんが……」
「身長じゃなくて、胸」

 ……

「あ……あえて、コメントは差し控える」
「ブー」
「それより、こんなところで何をしている?」
「はい。これ」

 ミクが差し出した書類を受け取った。

 今回の任務に、ミクを同行させろという森田指令からの命令書だった。

「芽依ちゃん。これは本物かい?」

 芽依ちゃんは、僕から受け取った書類にサッと目を通す。

「本物です」

 本物ならしょうがないが……

「ミク。学校はどうした?」

 リトル東京に着いてから、ミクは中学校に通い始めていたはず。

 もっとも、サイバースペースで十分な知識を身につけたミクが今更学習などする必要はないのだが、学生生活を楽しみたいという事で入学したはず。

「それがさ、学校に行ったら拉致されかけたので、今はアンドロイドを使ったリモート授業受けているの」
 
 拉致?

「ちょっと待て! 僕はそんな話、聞いていないぞ」
「犯人を特定するために、しばらく極秘で捜査することになったんだって。だから、誰にも知らせるなって」
「犯人なんて、どうせ帝国の工作員に決まっているだろう」
「うん。そうだけど、工作員がどこに潜んでいるか分からないでしょ」
「まあ、そうだが……しかし、僕らはこれから帝国領へ行くのだぞ。同行したら危険じゃないか」
「うん。でもさ、リトル東京にいたらまた拉致されるかもしれないし、それならお兄ちゃん達に着いていった方が安全じゃない」

 ううん……まあ確かに、レム神もまさかミクの方から帝国に行くとは思わないだろうし……

レム神「ええい! 小娘はまだ見つからないのか!」
部下達「申し訳ありません。レム様。アンドロイドがあまりにも多くて」
レム神「言い訳はいい! とっとと探し出せ」
ナレーター「部下を怒鳴りつけるレム神の背後で、当のミクがお茶を飲んでくつろいでいるなどとは、レム神は知る由もなかった」

 という状況になりそうだな。

 それでも危険ではあるのだが……

「ミク。くれぐれも危険な事はするなよ」
「大丈夫、大丈夫。あたし、危険な事なんてやった事ないし」

 いや、やっているだろう。

 ボラーゾフの部下に付いて行ったり、空中で魔力切れになって転落したり……

 まあ、密閉された潜水艦の中から出さなければ、そうそう危険な事はないだろう。

 それに今回の任務にミクの式神がいれば、大いに助かるな。

「いいだろう。ところでミク。この飛行艇の機長には、もう会ったのか?」

 あれ? 飛行艇だから機長じゃなくて艇長になるのかな? いやいや、飛行艇と言っても基本飛行機なのだから、機長が正しいのだろう。

「機長? そんな人はいなかったよ」
「機長はいない? ああ! 機長じゃなくて艇長か」

 だが、ミクは首をブンブンと横にふった。

「だからあ、この飛行艇に人なんて乗っていないよ」
「人が乗っていない?」
「あたし、乗り込む前に式神赤目に調べさせたけど、誰もいなかったよ。完全自動操縦なんじゃないの」

 ミクがそう言った直後、僕の背後で扉が開く音が……

 振り向くと操縦室の扉が開いていた。

 そこに立っているのは、艶やかな黒髪をおかっぱ頭にしている二十歳ぐらいの和装美女。

 人はいなかったんじゃないのか?
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