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第十七章
喜んで介錯させていただきます
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「ご主人様。起きてください」
Pちゃんの声で起こされたのは深夜の事。
時計を見ると、午前一時になる寸前。
「なんだ、まだ夜じゃないか。もう少し寝かせてくれ」
ん? 毛布をかぶり治そうとしたが、毛布がない。
ベッドから落としたか?
いや、そもそも僕が今横になっているのは、ベッドじゃなくてリクライニングチェア……という事は……
「ご主人様。寝ぼけないでください。ここは家ではありません」
そうだった! 《あすか》のキャビンで仮眠を取っていたんだった。
起きあがって周囲を見回すと、芽依ちゃんはすでに起きていてメガネを拭いていて、橋本晶は日本刀の手入れをしているところ。
ミクも式神用の憑代を、ショルダーホルスターに装填していた。
隊長だけが寝坊しては、示しがつかないな。
「お兄ちゃん、おはよう」「おはようございます、隊長」「北村さん、よく眠れましたか?」
おはようという時間ではないのだが……
「みんな、おはよう。すっかり疲れもとれたよ」
扉が開き、アスカが入ってくる。
「皆様、お疲れさまでした。まもなく当機は着水いたします。シートベルトを締めてお待ちください」
数分後、かなり強いGがかかる。
窓の外は真っ暗闇で何も見えないが、着水したようだ。
ロボットスーツを装着して外へ出てみると、《あすか》から数メートル離れたところに潜水艦が浮上していた。
今まで暗闇に包まれていて見えていなかったが、ロボットスーツの暗視装置を使うと、カルカ軍の《水龍》《海龍》よりも大きな潜水艦がそこにいるのが見える。
これが《はくげい》か。
海上自衛隊にも同名の潜水艦があったが、それよりも大きい。
出発前に聞いていたスペックだと、全長百二十メートルとイ号四百並の大きさを誇り、動力源は核融合炉。
武装は魚雷発射管六門、八十ミリ電磁砲一門、十メガワット自由電子レーザー砲一門、ドローン多数搭載。
内部にはプリンターもあるので、必要なものはたいてい艦内で賄える。
司令塔の上に一人の人物が立っていた。
四十代ぐらいの男性で、リトル東京防衛隊海上部隊の白い制服に身を包んでいる。
僕達が司令塔に降り立つと、男性はビシッ! と敬礼してきた。
僕も慌てて敬礼を返す。
まだ慣れてないんだよね。こういう軍隊風の挨拶。
「《はくげい》にようこそ。私は艦長の長津田二佐です」
二佐なら、階級は僕と同じだな。
「機動服中隊隊長の北村二佐です」
挨拶を済ませると、僕達は《あすか》から荷物を移す作業に入る。
まあ、荷物と行ってもロボットスーツの着脱装置とわずかな私物だけだが……
僕達と入れ替わりに、《あすか》に乗ってリトル東京へ向かう人物が、車椅子の様な物に乗って司令塔から出てきた。
車椅子とは言ったが、車輪は着いていない。
車輪の代わりに四本の機械脚と二本のマニピュレーターがあり、司令塔の梯子を器用に登ってきた。
車椅子も進化しているのだな。
「矢部さん。怪我の方はどうですか?」
車椅子……のような物に乗って現れた矢部は僕の方を向いて力ない笑みを浮かべる。
「隊長。右足をやられましたよ。自爆ドローンが至近距離で爆発しまして」
「そうか。痛みはどうです?」
「鎮痛剤のおかげで痛みはありません。まあ、リトル東京の病院に入院すればすぐに直るでしょう」
「なるほど……ところでその車椅子のような乗り物で、飛行艇に自力で行けますか?」
「ああ、ちょっと無理です。ロボットスーツで運んでいただけますか」
「分かりました」
矢部の車椅子を掴むと、矢部は困惑したような顔をする。
「ああ、隊長じゃなくて……」
ん? 矢部は僕の背後を指さした。
そこにいるのは橋本晶だが……
「隊長ではなくて、晶ちゃんに介護して欲しいのですが……」
矢部がそう言った途端、橋本晶は日本刀を抜く。
「矢部さん。介錯してほしいのですか。そういう事は早く言って下さい。喜んで介錯させていただきます」
「だああ! 介錯じゃなくて介護!」
「なんだ、介護か」
橋本晶は、残念そうな顔で日本刀を鞘に戻す。
「矢部さん。橋本君の性格は、分かっているでしょ。彼女をおちょくるのは危険だから……」
「いやあ、日本刀を抜いた晶ちゃんの姿は、そそるものがあるので……」
変態だな。
「隊長。俺みたいな変態がいなくなって、良かったと思っていませんか?」
まあ、思ってはいるが……
「そ……そんな事は、思ってもいないぞ」
公然と本音を言うわけにいいかないな。
「覚悟していてください。ここには、俺なんかを遙かに凌駕する変態がいるのです」
なに?
Pちゃんの声で起こされたのは深夜の事。
時計を見ると、午前一時になる寸前。
「なんだ、まだ夜じゃないか。もう少し寝かせてくれ」
ん? 毛布をかぶり治そうとしたが、毛布がない。
ベッドから落としたか?
いや、そもそも僕が今横になっているのは、ベッドじゃなくてリクライニングチェア……という事は……
「ご主人様。寝ぼけないでください。ここは家ではありません」
そうだった! 《あすか》のキャビンで仮眠を取っていたんだった。
起きあがって周囲を見回すと、芽依ちゃんはすでに起きていてメガネを拭いていて、橋本晶は日本刀の手入れをしているところ。
ミクも式神用の憑代を、ショルダーホルスターに装填していた。
隊長だけが寝坊しては、示しがつかないな。
「お兄ちゃん、おはよう」「おはようございます、隊長」「北村さん、よく眠れましたか?」
おはようという時間ではないのだが……
「みんな、おはよう。すっかり疲れもとれたよ」
扉が開き、アスカが入ってくる。
「皆様、お疲れさまでした。まもなく当機は着水いたします。シートベルトを締めてお待ちください」
数分後、かなり強いGがかかる。
窓の外は真っ暗闇で何も見えないが、着水したようだ。
ロボットスーツを装着して外へ出てみると、《あすか》から数メートル離れたところに潜水艦が浮上していた。
今まで暗闇に包まれていて見えていなかったが、ロボットスーツの暗視装置を使うと、カルカ軍の《水龍》《海龍》よりも大きな潜水艦がそこにいるのが見える。
これが《はくげい》か。
海上自衛隊にも同名の潜水艦があったが、それよりも大きい。
出発前に聞いていたスペックだと、全長百二十メートルとイ号四百並の大きさを誇り、動力源は核融合炉。
武装は魚雷発射管六門、八十ミリ電磁砲一門、十メガワット自由電子レーザー砲一門、ドローン多数搭載。
内部にはプリンターもあるので、必要なものはたいてい艦内で賄える。
司令塔の上に一人の人物が立っていた。
四十代ぐらいの男性で、リトル東京防衛隊海上部隊の白い制服に身を包んでいる。
僕達が司令塔に降り立つと、男性はビシッ! と敬礼してきた。
僕も慌てて敬礼を返す。
まだ慣れてないんだよね。こういう軍隊風の挨拶。
「《はくげい》にようこそ。私は艦長の長津田二佐です」
二佐なら、階級は僕と同じだな。
「機動服中隊隊長の北村二佐です」
挨拶を済ませると、僕達は《あすか》から荷物を移す作業に入る。
まあ、荷物と行ってもロボットスーツの着脱装置とわずかな私物だけだが……
僕達と入れ替わりに、《あすか》に乗ってリトル東京へ向かう人物が、車椅子の様な物に乗って司令塔から出てきた。
車椅子とは言ったが、車輪は着いていない。
車輪の代わりに四本の機械脚と二本のマニピュレーターがあり、司令塔の梯子を器用に登ってきた。
車椅子も進化しているのだな。
「矢部さん。怪我の方はどうですか?」
車椅子……のような物に乗って現れた矢部は僕の方を向いて力ない笑みを浮かべる。
「隊長。右足をやられましたよ。自爆ドローンが至近距離で爆発しまして」
「そうか。痛みはどうです?」
「鎮痛剤のおかげで痛みはありません。まあ、リトル東京の病院に入院すればすぐに直るでしょう」
「なるほど……ところでその車椅子のような乗り物で、飛行艇に自力で行けますか?」
「ああ、ちょっと無理です。ロボットスーツで運んでいただけますか」
「分かりました」
矢部の車椅子を掴むと、矢部は困惑したような顔をする。
「ああ、隊長じゃなくて……」
ん? 矢部は僕の背後を指さした。
そこにいるのは橋本晶だが……
「隊長ではなくて、晶ちゃんに介護して欲しいのですが……」
矢部がそう言った途端、橋本晶は日本刀を抜く。
「矢部さん。介錯してほしいのですか。そういう事は早く言って下さい。喜んで介錯させていただきます」
「だああ! 介錯じゃなくて介護!」
「なんだ、介護か」
橋本晶は、残念そうな顔で日本刀を鞘に戻す。
「矢部さん。橋本君の性格は、分かっているでしょ。彼女をおちょくるのは危険だから……」
「いやあ、日本刀を抜いた晶ちゃんの姿は、そそるものがあるので……」
変態だな。
「隊長。俺みたいな変態がいなくなって、良かったと思っていませんか?」
まあ、思ってはいるが……
「そ……そんな事は、思ってもいないぞ」
公然と本音を言うわけにいいかないな。
「覚悟していてください。ここには、俺なんかを遙かに凌駕する変態がいるのです」
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