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第十七章

人道主義

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 攻撃部隊が要塞を攻めている一方、式神搭乗機は建物と建物の狭い隙間を抜けて川の上に出ていた。

 真正面に要塞があるが、そこからの攻撃はない。

 時を同じくして要塞上空に躍り出た観測機に気を取られて、こっちには気がついていないようだな。

 上空を飛び回る観測機には、洩光弾が集中している。

 その間も、観測機からは敵の被害状況のデータがこっちへ送られて来ていた。

『二十三ミリ対空機関砲二門完全破壊。一門損傷使用不能。敵兵三名死傷』

 充分なデータを送った後も、観測機はしばらくの間、敵をからかうように要塞上空を旋回していたが、やがて一発の砲弾が観測機を近接VT信管の範囲内に捕らえた。

 爆炎に包まれ、観測機は落ちていく。

 その隙に近づいた式神搭乗機は、要塞屋上に胴体着陸することに成功した。

『式神の機体離脱を確認』

 式神の憑代となっている人型に切りぬかれた白い紙切れ(素材は単結晶カーボナノチューブ)が、ひらひらと空中を漂いながら離れていく様子が映っていた。

『機体は、予定通り周囲の映像を撮影後、自爆させますがよろしいですか?』
「了解。映像を見て何もなければ、そのまま自爆させてくれ」
『了解』

 憑代の映っている固定カメラの映像を消して、可動カメラに切り替えた。
 最初に映った映像は、明るくなりかけた東の空。

 映像を下に動かして回すと、平らな屋上に対空砲が三門ある事が確認できた。

「鴨居三尉。一門でもいいから、あれを破壊できないか? 無理ならいいが」

 確かに、対空砲は一門でも潰しておいた方がいいな。
 
『前方十五メートルにある対空砲一門だけなら、残りのエネルギーでドローンを前進させて、あれを自爆に巻き込む事ができます』

 
「よろしい。鴨居三尉、やってくれ」
『待って下さい!』

 別のオペレーターの声が響く。

『対空砲には、まだ人がいます』

 見ると、三人ほどの兵士が対空砲のそばで何かの作業をしていた。

 映像を拡大すると、対空砲に砲弾を装填している。

『艦長。敵兵ごと吹き飛ばしてもよろしいですか?』

 おいおい……そんな事をしたら、新米オペレーターがトラウマになるぞ。

「いや、装填作業が終わるのを待て」

 艦長……人道主義者だな。

「その方が、被害を大きくできる」

 そうでもなかったか……

『了解しました。装填作業の終了を確認してから、攻撃します』
「妨害される危険があるので、敵兵が居なくなってからやってくれ」
『了解』

 艦長が僕の方を振り向いた。

「甘いと思われるかもしれませんが、私もあまり人は殺したくないのですよ」

 やはり人道主義者だな。
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