12 / 84
闘い
出会い
しおりを挟む
しばらくすると電車が駅に停車した。
すると空は立ち上がり、手を離した。
「あっくん着いたよ!
ここで降りるよ!」
徐々に熱を失う右手と共に心にも隙間風が吹く。
不意に手を離されると、まるで階段を踏み外した時のような感じでドキッとする事を知った。
僕は重い腰を上げ、電車を後にした。
「あっいた!
おーい!」
そう言うと空は走り出した。見ると黒いスーツを着た茶髪のギャルっぽい女性が手を振っていた。
空は彼女に近づくと笑顔でハイタッチをし話し始めた。僕はその後を続いて彼女達の方へと歩いていった。
「おー君が噂の輝くんだね?」
え……僕のことを知ってるのか。
「あ、はい。何で俺の名前を?」
そう言うと彼女は空の背後からガバッと抱きつくと頭を撫でながら言った。
「あーこの子から良く聞いてたからねー。
噂どうり優しそうな子だな。あたしの好みじゃないけど」
「ちょっと愛ちゃん!?」
空が焦ったように彼女から離れた。
「ごめん、ごめん。
つい言っちゃった」
何て失礼な人なんだ。
僕だって貴女なんか……。
うん……まあ、アリ寄りのアリだな。
しかも優しいは脈の無い男を褒めるときに使う言葉だと、僕の愛読書「恋で花咲く乙女ちゃん」に載っていた。
切なすぎるぜ、俺の初恋。百万部売れてるから間違いない。
「違うのあっくん!
そんなにあっくんの事は言ってないよ?
本当だよ?」
彼女は慌てて僕に詰め寄ってくる。
顔が近い。ほのかに香るシャンプーの香りが僕を天国へと誘う。
しかし「そんなに言ってない」か……ナチュラルにハートをブレイクしてくる彼女の言葉を忘れるように僕は目を瞑り天を仰いだ。
「う、うん。気にしてないよ。
それよりその人、誰なの?」
それを聞いた空は胸を撫で下ろした。
「良かった。
この人は、東堂愛子さん。私が小さい頃からお世話になっているお姉ちゃんみたいな人だよ」
「愛子でーす。ヨロシク!」
そう言うと彼女は軽くウインクをした。
濃いアイライン、ツケマにカラコンと中々のメイクだ。でも素でも綺麗なんだろうなと思う。
「あっども。よろしくお願いします。東堂さん!」
「はははっ、東堂さんなんて辞めてよ!
愛ちゃんって呼んでねっ!
あっ! ちなみに愛子はダメだよ?
彼氏限定の呼び方だから!」
いや、呼ばねぇよ。てか会ったばっかで愛ちゃんは呼べないって。何だろう、僕はこの人に懐かしさを感じる。
「じゃあ、愛子さんで……」
「あ、い、ちゃ、ん、ねっ!」
強めに言われた。目が笑ってない。
「はい。愛ちゃん」
やっと分かった。
この感じ、うちの姉貴にそっくりだ。きっと姉貴とも仲良くなれるだろうが、2人揃った姿を想像したくない。
例えるならアイスに練乳をかけるみたいな。なんかそんなクドイ感じになるとおもう。
「よろしい!」
そういうと彼女は笑った。
「もう、愛ちゃん話しそれちゃったじゃん。
ごめんねあっくん。この人は簡単に言うと霊媒師さんで、私の依頼主なの」
「霊媒師!?
こんな感じの、えっと、人が!?」
「こんなこんな感じってなにかなー?」
やばい目が笑ってない。
「あっ、いえ。
霊媒師って言ったらお爺やんとか、お婆さんとかが、『祟りじゃあ』とか言ってるイメージだったので」
すると彼女達は顔を見合わせると、2人して大笑いし出した。
「あはははっ。あっくん、それ映画の見過ぎだよ!」
「はぁはぁ、ウケる。
今時そんな奴いるーっ?」
笑いすぎではないか。
確かに僕の知識は偏ってはいるが、大体みんなそんな感じで想像してるだろ?
あれ、僕だけなの?
「はぁー笑ったわ。
てか今時そんな言葉遣いの老人いないから。
そんな『ザ・老人』見た事ないよ!」
「うん、確かに。あははは」
僕の常識が非常識だった事が次々明らかになっていく。常識なんて本当はないのかもしれない。
ああ神様、もしいるのであればこの場から僕を跡形もなく消してくれっ!
2人は一頻り笑うと呼吸を整えて僕に向き直った。
「ごめんまた話逸れたね。
愛ちゃんは優秀な霊媒師なんだよ?
普通の霊媒師さんは悪霊になり掛けている人を私たちに丸投げするんだけど、愛ちゃんは最期まで見捨てず頑張ってくれるの」
私たちか、じゃあ他にもこの仕事をしている人がいるのか。
普通の霊媒師はってどう言う事だろう。
「よく分からないけど、悪霊になったら普通の霊媒師は祓えないの?」
「あー祓えるは祓える。
だけど危険度が段違いなんだよ。
しかも悪霊を祓うには技術だけじゃなく、霊能力が高くないと逆に殺されるんだよ」
そう言うと愛ちゃんは苦い顔をした。
しかも殺されるって、そんなにやばいのか。一般人の僕がいて本当に大丈夫なのだろうか。
彼女は続けた。
「んで、鬼神になったらもう祓う事は出来ないの。
なぜなら相手は神だから、祓うと言う次元を超えてるんだ。
そうなったらあたしらはお役御免だね。そんな時この子の出番で訳!」
そう言うと彼女は空の頭をポンポンとした。空の顔が赤い。なんて……可愛いんだ。女神かよ。
「でも私はまだ未熟だから、悪霊で精一杯。
今まで鬼神を切れたのはお婆ちゃんを含めて3人しかいないの」
と言う事は鬼神になったらもう僕らじゃ止められないのか。
「なーに言ってんの!
あんたにも凄い才能があんだから、必ず切れるようになるよ!自信持ちな!
それよりも、どっか移動しない?
ここ、人目が気になるから」
駅のど真ん中でど偉いオカルト話をしている。他の人にはかなり変に見えただろう。
近くにおすすめの喫茶店があると言うことなのでそこに移動する事にした。
扉を開けるとコーヒーの香りが漂ってきた。
秘密基地的なカフェで、僕ら以外はまばらにお客さんがいる。
アンティーク調のインテリアがとても落ち着く場所だった。
「へぇー……おしゃれ」
思わず口に出てしまった。
すると空もおんなじような事を言ってたらしく顔を見合わせ笑い合った。
僕達は一番奥のテーブル席に座った。
「はーやっぱここ落ち着くわ。
あたしのお気に入りなんだよね。ここに来ると嫌な事全部忘れて浸れるんだよ」
「わかるよ愛ちゃん!
そう言うの大事だよね!」
2人は手を握り合いうんうん頷いている。
その時、僕は思った。
親父はこう言う場所を守りたかったのかな?
自分の為に、そして彼女達みたいなその場所を必要としている人の為に。
愛ちゃんはいつもの頂戴と言うと、マスターはカウンターにあるミルにコーヒー豆を入れ挽き始めた。
うん。凄くいいなここ。
って、マスターってあれが?
違和感バリバリだが、なんか……うん。
今はやめておこう。
愛ちゃんはさてと言うと、髪を耳にかけて鞄から紙を出して机の上に置いた。
「じゃあ改めて今回の依頼を話すね。
対象は五歳の女の子なんだけど、彼女は去年の夏このマンションの一室で亡くなった」
そう言うと彼女は紙に載っている写真を指差した。無垢な笑顔で可愛らしい女の子が写っている。
五歳……胸が締め付けられる。
こんなに小さい子が命を落とすなんて、辛すぎる。
「死因は母親のDVだね。
まあそれが直接の死因では無いんだけど、彼女はそれまでご飯もろくに与えられず、毎日殴られてたそうだ。衰弱死だね」
自然に眉間にシワがよる。いつの間にか僕は拳を握り締めていた。
ゆるせない。
空も同じ気持ちなのだろうか、俯き唇を噛み締めている。
「彼女は亡くなった後もまだその部屋に残っている。母親への恨みかは分からないけど、恐らくもう悪霊になってしまってる」
「悪霊に?
まだ五歳なのにですか?」
僕は思わず口を開いた。
だって信じられなかった。そんなに小さい子が悪霊になる程の強い恨みを持つことができるのだろうかと。
「五歳だからだよ。
純粋だからこそ、感情に支配されやすく、感化されやすい年頃なんだよ。
そして子供の悪霊は鬼神になりやすい。
純粋だからこそ悪いものに染まりやすいんだ。だからこそ一刻も早く楽にしてあげないと」
楽にか。優しいがとても残酷な言葉だとかんじた。
「お祓いは言わば説得してあの世に言ってもらう行為なんだ。
だからこそ祓う相手の事を知って、共感してあげないといけない」
共感か。それってとても難しいと思う。
「一つ聞いていいですか?」
「うん。なんでも聞いて?」
「共感出来ない程の悪い霊だった場合はどうするんですか?」
すると、彼女は空を見て目配せをした。すると空はうんと合図し話始めた。
「共感出来ない霊はお祓いができないから、もう斬るしかない。だけど……」
「だけど?」
彼女は言葉に詰まった。
それを見兼ねた愛ちゃんがやれやれといった顔をした。
「空ちゃんはそれでも助けたいんだよね?
まああたしは綺麗事だと思うけどね。そんな奴は消してしまえばいいんだよ。放置すればする程恨みが増すからね」
それを聞いた空が悔しそうな顔をしている。
「亮ちゃんが人を陥れて死に誘い、悪霊になった時、私は斬る事を躊躇したの。
それで失敗して、逆に大怪我を負っちゃったんだ。その時、亮ちゃんを消してあげれたら何年も苦しまなくてよかったのに」
彼女は腕に爪を立て必死に涙を堪えている。
「もし、恨みが増したらどうなるんですか?」
僕は恐る恐る尋ねた。
「一段階以上危険度が増す。
もし、鬼神を仕留め損ねたらどうなるかわからない。
過去に一度あったらしいけど、空ちゃんのお婆ちゃん。紗代子さんが瀕死になりながら倒したらしいよ。
まあ殆どの霊はあたしら霊媒師が対処出来るからそこまでは滅多にいかないけど」
そう言うと愛ちゃんは目を伏せた。
「ちょっとお手洗い」
そう言うと空は走ってトイレへ向かった。
彼女にとっては相当なトラウマになってるんだろう。
そうか、あの時空は亮の説得に失敗して、悪霊に変貌させてしまったのか。
聞いちゃいけない事だったのかな?
「気にすんなよ!
輝くんのせいじゃ無いさ。それよりも、もしかしてキミ、空の事好きなの?」
「え?」
いきなりの事で面食らった僕は、変に動揺してしまった。
「あの子はいい子だけど、この仕事を続けたいのであればやめ時な?
生半可な気持ちであの子に好きなんて言ったら怒るよ」
彼女は強い口調で言った。
「生半可な気持ちじゃありません!」
僕は思わず声を荒げた。
僕の事をまだ何も知らないのに、好きな気持ちまで否定されて黙ってられなかった。
「今の言葉、本当だね?
信じるよ?」
すると、険悪な雰囲気を壊すかのようにマスターが3人分のコーヒーを持ってきた。
彼はコトンとコーヒーを置くと僕の肩を叩き、親指を立てて笑った。
聞かれたのか?
周りの客もニヤニヤしている。
これじゃ公開告白をしたみたいじゃ無いか!
空がいないのが唯一の救いだ。
僕は余りの羞恥プレイに顔を真っ赤に染めた。恥ずかしさのあまり悶え苦しんで死んでしまいそうだ。
僕は現実から逃れるようにコーヒーを口に運んだ。
「あちっ」
火傷した。
愛ちゃんは僕を見てクスクス笑っている。くそぅ。いつか見返してやる。
僕はふうふうとコーヒーを冷まし再度口に運んだ。
「ん?
美味しい……」
思わず溢れた。僕は普段ブラックは苦すぎて避けていたが、普通に飲めるし美味しく感じる。
僕が不思議そうな表情をしているのを見て愛ちゃんは笑った。
「美味しいでしょ?
インスタントと違って嫌らしい苦味がないから、ミルクなしでもいけるでしょ?」
そう言うと彼女もカップを口に運んだ。
その顔に少し見惚れた。少しだけね。
コーヒーの湯気越しに見た彼女は大人の女性という感じでセクシーに見えた。
「はい。美味しいです。
ブラック飲めないんですがこれならいけます」
口の中の程よい苦味と香りを楽しみながら改めて来て良かったと思った。
「ふふっ、お子ちゃま!」
前言撤回、この人舐めくさっとる。
そんな事をしていると空が戻ってきた。
彼女はちょこんと座ると、わぁと言ってコーヒーを一口飲んだ。
「あっちぃ」
彼女も火傷したようだ。
「ははははっ!
あんたらそっくりだねぇ!」
そう言うと愛ちゃんはお腹を抱えて笑った。空は何何と不思議そうな顔をしていた。
戸惑う彼女も可愛い。
僕はコーヒーを飲み干しそう思った。
すると空は立ち上がり、手を離した。
「あっくん着いたよ!
ここで降りるよ!」
徐々に熱を失う右手と共に心にも隙間風が吹く。
不意に手を離されると、まるで階段を踏み外した時のような感じでドキッとする事を知った。
僕は重い腰を上げ、電車を後にした。
「あっいた!
おーい!」
そう言うと空は走り出した。見ると黒いスーツを着た茶髪のギャルっぽい女性が手を振っていた。
空は彼女に近づくと笑顔でハイタッチをし話し始めた。僕はその後を続いて彼女達の方へと歩いていった。
「おー君が噂の輝くんだね?」
え……僕のことを知ってるのか。
「あ、はい。何で俺の名前を?」
そう言うと彼女は空の背後からガバッと抱きつくと頭を撫でながら言った。
「あーこの子から良く聞いてたからねー。
噂どうり優しそうな子だな。あたしの好みじゃないけど」
「ちょっと愛ちゃん!?」
空が焦ったように彼女から離れた。
「ごめん、ごめん。
つい言っちゃった」
何て失礼な人なんだ。
僕だって貴女なんか……。
うん……まあ、アリ寄りのアリだな。
しかも優しいは脈の無い男を褒めるときに使う言葉だと、僕の愛読書「恋で花咲く乙女ちゃん」に載っていた。
切なすぎるぜ、俺の初恋。百万部売れてるから間違いない。
「違うのあっくん!
そんなにあっくんの事は言ってないよ?
本当だよ?」
彼女は慌てて僕に詰め寄ってくる。
顔が近い。ほのかに香るシャンプーの香りが僕を天国へと誘う。
しかし「そんなに言ってない」か……ナチュラルにハートをブレイクしてくる彼女の言葉を忘れるように僕は目を瞑り天を仰いだ。
「う、うん。気にしてないよ。
それよりその人、誰なの?」
それを聞いた空は胸を撫で下ろした。
「良かった。
この人は、東堂愛子さん。私が小さい頃からお世話になっているお姉ちゃんみたいな人だよ」
「愛子でーす。ヨロシク!」
そう言うと彼女は軽くウインクをした。
濃いアイライン、ツケマにカラコンと中々のメイクだ。でも素でも綺麗なんだろうなと思う。
「あっども。よろしくお願いします。東堂さん!」
「はははっ、東堂さんなんて辞めてよ!
愛ちゃんって呼んでねっ!
あっ! ちなみに愛子はダメだよ?
彼氏限定の呼び方だから!」
いや、呼ばねぇよ。てか会ったばっかで愛ちゃんは呼べないって。何だろう、僕はこの人に懐かしさを感じる。
「じゃあ、愛子さんで……」
「あ、い、ちゃ、ん、ねっ!」
強めに言われた。目が笑ってない。
「はい。愛ちゃん」
やっと分かった。
この感じ、うちの姉貴にそっくりだ。きっと姉貴とも仲良くなれるだろうが、2人揃った姿を想像したくない。
例えるならアイスに練乳をかけるみたいな。なんかそんなクドイ感じになるとおもう。
「よろしい!」
そういうと彼女は笑った。
「もう、愛ちゃん話しそれちゃったじゃん。
ごめんねあっくん。この人は簡単に言うと霊媒師さんで、私の依頼主なの」
「霊媒師!?
こんな感じの、えっと、人が!?」
「こんなこんな感じってなにかなー?」
やばい目が笑ってない。
「あっ、いえ。
霊媒師って言ったらお爺やんとか、お婆さんとかが、『祟りじゃあ』とか言ってるイメージだったので」
すると彼女達は顔を見合わせると、2人して大笑いし出した。
「あはははっ。あっくん、それ映画の見過ぎだよ!」
「はぁはぁ、ウケる。
今時そんな奴いるーっ?」
笑いすぎではないか。
確かに僕の知識は偏ってはいるが、大体みんなそんな感じで想像してるだろ?
あれ、僕だけなの?
「はぁー笑ったわ。
てか今時そんな言葉遣いの老人いないから。
そんな『ザ・老人』見た事ないよ!」
「うん、確かに。あははは」
僕の常識が非常識だった事が次々明らかになっていく。常識なんて本当はないのかもしれない。
ああ神様、もしいるのであればこの場から僕を跡形もなく消してくれっ!
2人は一頻り笑うと呼吸を整えて僕に向き直った。
「ごめんまた話逸れたね。
愛ちゃんは優秀な霊媒師なんだよ?
普通の霊媒師さんは悪霊になり掛けている人を私たちに丸投げするんだけど、愛ちゃんは最期まで見捨てず頑張ってくれるの」
私たちか、じゃあ他にもこの仕事をしている人がいるのか。
普通の霊媒師はってどう言う事だろう。
「よく分からないけど、悪霊になったら普通の霊媒師は祓えないの?」
「あー祓えるは祓える。
だけど危険度が段違いなんだよ。
しかも悪霊を祓うには技術だけじゃなく、霊能力が高くないと逆に殺されるんだよ」
そう言うと愛ちゃんは苦い顔をした。
しかも殺されるって、そんなにやばいのか。一般人の僕がいて本当に大丈夫なのだろうか。
彼女は続けた。
「んで、鬼神になったらもう祓う事は出来ないの。
なぜなら相手は神だから、祓うと言う次元を超えてるんだ。
そうなったらあたしらはお役御免だね。そんな時この子の出番で訳!」
そう言うと彼女は空の頭をポンポンとした。空の顔が赤い。なんて……可愛いんだ。女神かよ。
「でも私はまだ未熟だから、悪霊で精一杯。
今まで鬼神を切れたのはお婆ちゃんを含めて3人しかいないの」
と言う事は鬼神になったらもう僕らじゃ止められないのか。
「なーに言ってんの!
あんたにも凄い才能があんだから、必ず切れるようになるよ!自信持ちな!
それよりも、どっか移動しない?
ここ、人目が気になるから」
駅のど真ん中でど偉いオカルト話をしている。他の人にはかなり変に見えただろう。
近くにおすすめの喫茶店があると言うことなのでそこに移動する事にした。
扉を開けるとコーヒーの香りが漂ってきた。
秘密基地的なカフェで、僕ら以外はまばらにお客さんがいる。
アンティーク調のインテリアがとても落ち着く場所だった。
「へぇー……おしゃれ」
思わず口に出てしまった。
すると空もおんなじような事を言ってたらしく顔を見合わせ笑い合った。
僕達は一番奥のテーブル席に座った。
「はーやっぱここ落ち着くわ。
あたしのお気に入りなんだよね。ここに来ると嫌な事全部忘れて浸れるんだよ」
「わかるよ愛ちゃん!
そう言うの大事だよね!」
2人は手を握り合いうんうん頷いている。
その時、僕は思った。
親父はこう言う場所を守りたかったのかな?
自分の為に、そして彼女達みたいなその場所を必要としている人の為に。
愛ちゃんはいつもの頂戴と言うと、マスターはカウンターにあるミルにコーヒー豆を入れ挽き始めた。
うん。凄くいいなここ。
って、マスターってあれが?
違和感バリバリだが、なんか……うん。
今はやめておこう。
愛ちゃんはさてと言うと、髪を耳にかけて鞄から紙を出して机の上に置いた。
「じゃあ改めて今回の依頼を話すね。
対象は五歳の女の子なんだけど、彼女は去年の夏このマンションの一室で亡くなった」
そう言うと彼女は紙に載っている写真を指差した。無垢な笑顔で可愛らしい女の子が写っている。
五歳……胸が締め付けられる。
こんなに小さい子が命を落とすなんて、辛すぎる。
「死因は母親のDVだね。
まあそれが直接の死因では無いんだけど、彼女はそれまでご飯もろくに与えられず、毎日殴られてたそうだ。衰弱死だね」
自然に眉間にシワがよる。いつの間にか僕は拳を握り締めていた。
ゆるせない。
空も同じ気持ちなのだろうか、俯き唇を噛み締めている。
「彼女は亡くなった後もまだその部屋に残っている。母親への恨みかは分からないけど、恐らくもう悪霊になってしまってる」
「悪霊に?
まだ五歳なのにですか?」
僕は思わず口を開いた。
だって信じられなかった。そんなに小さい子が悪霊になる程の強い恨みを持つことができるのだろうかと。
「五歳だからだよ。
純粋だからこそ、感情に支配されやすく、感化されやすい年頃なんだよ。
そして子供の悪霊は鬼神になりやすい。
純粋だからこそ悪いものに染まりやすいんだ。だからこそ一刻も早く楽にしてあげないと」
楽にか。優しいがとても残酷な言葉だとかんじた。
「お祓いは言わば説得してあの世に言ってもらう行為なんだ。
だからこそ祓う相手の事を知って、共感してあげないといけない」
共感か。それってとても難しいと思う。
「一つ聞いていいですか?」
「うん。なんでも聞いて?」
「共感出来ない程の悪い霊だった場合はどうするんですか?」
すると、彼女は空を見て目配せをした。すると空はうんと合図し話始めた。
「共感出来ない霊はお祓いができないから、もう斬るしかない。だけど……」
「だけど?」
彼女は言葉に詰まった。
それを見兼ねた愛ちゃんがやれやれといった顔をした。
「空ちゃんはそれでも助けたいんだよね?
まああたしは綺麗事だと思うけどね。そんな奴は消してしまえばいいんだよ。放置すればする程恨みが増すからね」
それを聞いた空が悔しそうな顔をしている。
「亮ちゃんが人を陥れて死に誘い、悪霊になった時、私は斬る事を躊躇したの。
それで失敗して、逆に大怪我を負っちゃったんだ。その時、亮ちゃんを消してあげれたら何年も苦しまなくてよかったのに」
彼女は腕に爪を立て必死に涙を堪えている。
「もし、恨みが増したらどうなるんですか?」
僕は恐る恐る尋ねた。
「一段階以上危険度が増す。
もし、鬼神を仕留め損ねたらどうなるかわからない。
過去に一度あったらしいけど、空ちゃんのお婆ちゃん。紗代子さんが瀕死になりながら倒したらしいよ。
まあ殆どの霊はあたしら霊媒師が対処出来るからそこまでは滅多にいかないけど」
そう言うと愛ちゃんは目を伏せた。
「ちょっとお手洗い」
そう言うと空は走ってトイレへ向かった。
彼女にとっては相当なトラウマになってるんだろう。
そうか、あの時空は亮の説得に失敗して、悪霊に変貌させてしまったのか。
聞いちゃいけない事だったのかな?
「気にすんなよ!
輝くんのせいじゃ無いさ。それよりも、もしかしてキミ、空の事好きなの?」
「え?」
いきなりの事で面食らった僕は、変に動揺してしまった。
「あの子はいい子だけど、この仕事を続けたいのであればやめ時な?
生半可な気持ちであの子に好きなんて言ったら怒るよ」
彼女は強い口調で言った。
「生半可な気持ちじゃありません!」
僕は思わず声を荒げた。
僕の事をまだ何も知らないのに、好きな気持ちまで否定されて黙ってられなかった。
「今の言葉、本当だね?
信じるよ?」
すると、険悪な雰囲気を壊すかのようにマスターが3人分のコーヒーを持ってきた。
彼はコトンとコーヒーを置くと僕の肩を叩き、親指を立てて笑った。
聞かれたのか?
周りの客もニヤニヤしている。
これじゃ公開告白をしたみたいじゃ無いか!
空がいないのが唯一の救いだ。
僕は余りの羞恥プレイに顔を真っ赤に染めた。恥ずかしさのあまり悶え苦しんで死んでしまいそうだ。
僕は現実から逃れるようにコーヒーを口に運んだ。
「あちっ」
火傷した。
愛ちゃんは僕を見てクスクス笑っている。くそぅ。いつか見返してやる。
僕はふうふうとコーヒーを冷まし再度口に運んだ。
「ん?
美味しい……」
思わず溢れた。僕は普段ブラックは苦すぎて避けていたが、普通に飲めるし美味しく感じる。
僕が不思議そうな表情をしているのを見て愛ちゃんは笑った。
「美味しいでしょ?
インスタントと違って嫌らしい苦味がないから、ミルクなしでもいけるでしょ?」
そう言うと彼女もカップを口に運んだ。
その顔に少し見惚れた。少しだけね。
コーヒーの湯気越しに見た彼女は大人の女性という感じでセクシーに見えた。
「はい。美味しいです。
ブラック飲めないんですがこれならいけます」
口の中の程よい苦味と香りを楽しみながら改めて来て良かったと思った。
「ふふっ、お子ちゃま!」
前言撤回、この人舐めくさっとる。
そんな事をしていると空が戻ってきた。
彼女はちょこんと座ると、わぁと言ってコーヒーを一口飲んだ。
「あっちぃ」
彼女も火傷したようだ。
「ははははっ!
あんたらそっくりだねぇ!」
そう言うと愛ちゃんはお腹を抱えて笑った。空は何何と不思議そうな顔をしていた。
戸惑う彼女も可愛い。
僕はコーヒーを飲み干しそう思った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/22:『たんじょうび』の章を追加。2026/1/29の朝頃より公開開始予定。
2026/1/21:『てがた』の章を追加。2026/1/28の朝頃より公開開始予定。
2026/1/20:『ものおと』の章を追加。2026/1/27の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/19:『みずのおと』の章を追加。2026/1/26の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/18:『あまなつ』の章を追加。2026/1/25の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/17:『えれべーたー』の章を追加。2026/1/24の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/16:『せきゆすとーぶ』の章を追加。2026/1/23の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる