滅霊の空を想う

ゆずぽん

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新たな門出

消えぬ絆

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 すっかり日も落ちた。肌寒くなった夜に少し身震いをした。
 中庭では打ち上げと称してバーベキューが始まり、先ほど争った事が嘘のように盛り上がっていた。
 僕は敵味方全員の集まった人々と言葉を交わした。ちなみに秋山とヒデは、首まで埋められていただけだった。
 いや。あの短時間でどうやって掘ったのか分からないが。うちの寮は超人が揃ってる。
 しかも彼らは未だに埋まっていて、みんなと写真を撮ったりご飯を食べさせてもらったりしていた。誰か出してやれよ。それを受け入れてる二人もどうかと思うが。
 大会の運営側にリンリンの女友達やヒデのサークル仲間など、思ったよりも人が多くかかわっていて驚いた。
 それほど彼らの人望があるって事だ。羨ましく思うが、僕はそれを自ら避けていた事に今日改めて気づかされた。

 清志には、感謝してもしきれない。

 だが、恐らく僕は変わらないだろう。だってもう僕には勿体ない程の友達が出来たから。
 僕は久しぶりに沢山の人と話して疲れてしまい、騒がしい場から離れ、一人静かに空を見上げていた。
 星空が綺麗だ。この寮は少し街中から離れた場所にある。僕は夜空にこんなにも星があったのかと驚いた。
 一つ一つがキラキラと宝石のように輝き、月が眩しいくらいに光を放っていた。
夜空って完全に黒じゃなくて群青なんだな。

 満点の星空から目が離せない。だがふと思った。

 空……今何してんだろ。

「また空さんの事考えてる」

気付いたら横に咲ちゃんが座っていた。

「わぁっ!? 咲ちゃん?
 脅かすなよ」

 僕はびっくりして座ったままビクンと跳ねてしまった。

「焼き鳥、食べます?」

 彼女は僕の目の前に焼き鳥を差し出した。

「あ、うん」

 僕は戸惑いながらもそれを口に頬張った。

「美味いな」

「意外に美味しいですよね!
 ただの冷凍食品なのに。何でですかね。みんなと食べてるからかな?」

 そう言うと彼女は微笑んだ。

「だと思うよ。
 場の雰囲気って大事だからね」

「はい。私もそう思います!」

 それからしばらく二人で黙って夜空を見上げていた。彼女は今何を思ってるんだろう。

「先輩」

 彼女いつの間にか僕を見ていた。

「ん?」

「好きです」

「えぇっ!?」

 わかっていた。前から言われていた事だから。だけど改めて言われるとやはり照れる。

「でも先輩は、私を見ていない。
 いつも誰かを想いながら私と話してますよね」

 僕はずっと彼女と空を重ねていた。我ながら重たいし気持ち悪いと思う。

「そう、かもね」

 彼女は一度目を閉じてゆっくりと目を開け空を見上げた。

「改めて言われると、辛い、ですね。
 でも、私が先輩を好きなように、先輩も空さんが好きなんだなって、話を聞くたび思っちゃうんです。
 だって……だって先輩は、空さんの話をする時、とても優しい笑顔をするから」

 そうなのかな、自分では分からない。だけど、彼女と話していると空だったらって思ってしまう。本当に最低だと思う。

「空は、何て言うか特別なんだ。
 幼馴染みであり、初恋の子で……咲ちゃん見たいに好きになった理由とか、分かんないけど。
 何をしてても空が頭に浮かぶ。
 考えると心が苦しくなるんだ」

「わかります。私もそうですから」

 彼女の声が震えてる。彼女の頬に一筋光るものが伝った。

「でも、私は諦めません。
 だってあなたは。私のヒーローだから。
 私を絶望の淵から救い出してくれた」

「うん。ありがとう。
 そんなに想われて俺は幸せだ」

今はそれしか言えない。

「人の事ばかり責めますけど、私も何度も振られてますもんね!
 あはっ。ダサいな私」

 彼女は苦しそうに笑った。

「そんな事ないよ。
 一人の人をそこまで好きになれるなんて凄いと思うよ」

「それは、先輩も同じですよね。
 だからこそ、好きなんです」

 心が締め付けられる。咲ちゃんの気持ちがわかってしまうから。

「だから今日は本当に勝ちたかった。
 形だけでもいい。先輩が欲しかったんです。だけど、そんなに上手くいかないですね」

「そう……だったんだ」

いい言葉が出てこない。またしばらく沈黙が続いた。

「先輩」

 先に口を開いたのは咲ちゃんだった。

「何かな?」

「私は諦めませんよ。
 先輩が空さんを諦めないように。
 て言うか復学したら私と同期になるんですから!
 覚悟してくださいね。ずっと離れませんから」

 そう言って彼女は笑った。それはとても悲しそうな笑顔だった。

 彼女はそのまま僕の目を見つめてきた。僕の目の奥底を見据えるようなその視線に目が離せなかった。

 馬鹿な僕でも分かる。彼女はキスをしようとしている。彼女の息遣いが分かる。肩が触れて温もりが伝わる。
 僕は彼女の肩を持ち、体を離そうとした時、スマホが光っている事に気づいた。

 彼女もそれに気付いたのか。パッと離れてお尻を払い立ち上がった。

「わ、私何してんだろ。
 そろそろ戻りますね!
 先輩も早く来てくださいね!」

 そう言ってみんなのもとへ駆けて行った。あのまま彼女を離していたら恐らく傷つけていただろう。僕は少しホッとしていた。

 僕はスマホを見た。その瞬間、僕の心が暖かくなるのを感じた。

 空からだった。

「あっくん見てみて!
 星が綺麗だよ!」

 と言うメッセージと、夜空と共に空が見切れている写真が送られてきた。
 ついでに杯を掲げるおっさんのスタンプ付きだ。
 恐らく自分と一緒に写りたかったんだろうが目から上しか写ってなく心霊写真みたいになっていた。

 ふふっ

 思わず笑ってしまった。彼女のこう言う抜けている所、昔と変わんないなと思う。
 そして離れているけれど、今僕たちは同じ空を見上げている。そんな小さな事だけど、凄く嬉しかった。
 これが好きだ。この一通のメッセージで僕は彼女に会いたくなった。今すぐにでも。

 パシャ

 僕は夜空をスマホに収めた。

「俺も見てるよ!
 綺麗だね!」

 画像を送信した。

 ブーッ

 すぐに返事が来た。

「わー! こっちより綺麗だね!
 今度は一緒に見れたらいいね!」

 一緒にか。それは多分愛ちゃんも含めてだろうなと思ったが、それでも僕の心は踊った。

 顔からは自然と笑みが溢れていた。僕は彼女に返信し、みんなのもとへ戻って行った。

 清志は僕を見つけるなりオネエ走りで寄ってきた。

「あら、アキちゃん!
 サッキーと二人で何やってたのかしら?」

 髭が生え始めたむさ苦しい顔を近づけてきた。

「何もねぇよ」

「あらら。残念。
 アキちゃん、サッキーとあなたは本当に大切な友達よ。だからこそ、二人にはくっついて欲しいと思っているの」

「清志……」

 僕は言葉に詰まった。もし、僕が彼女を完全に拒絶してしまえば僕らの友情が終わってしまうかもしれない。

 やっとできた大切な繋がりなのに。

「空ちゃんの話しも耳にタコができるほど聞いたわ!
 だけど、私が応援しているのはサッキーの方よ」

「わかってるよ。お前ら親友だもんな。
 当然だと思うよ。」

 すると清志は僕を横目で見た。

「意地悪で言ってるわけじゃないの。
 アキちゃんが空ちゃんの事を好きな事も知ってる。だけどね。
 私の親友は空ちゃんじゃ無い、サッキーの方なの。サッキーを応援してあげて、一緒に泣いてあげれるのは私なの」

「うん。それも分かるよ」

 僕は彼に笑顔を向けた。だけどそれはとても乾いていたと思う。

「だけど、私はあなたも応援したい。
 だって親友何ですもの。だからこそあなたたちがどんな決断をしたとしてもね」

 親友……その言葉を久しく言われてなかった。

 亮。

 こみ上げるものを必死に押さえ込んだ。そういうと彼は肩をガシッと組んできた。

「私はあなたの、そしてサッキーの親友って事に変わりはないから」

 危うく涙が溢れそうになった。亮、僕は幸せ者だ。辛い事以外で泣けるのだから。

 すると清志はふふっと笑った。

「いつか良い男紹介しなさいね!」

 そう言って僕の背中をバンと叩いて去って行った。

「っげほっ!げほっ!痛ぇー」

 ジンジンする背中をさすりながら僕はまた空を見上げた。



 打ち上げは遅くまで続いた。清志が帰宅を促さなければきっと明日の朝まで続いてただろう。
 片付けを終え。すっかり静かになった中庭に少し寂しさを覚えた。
 ああ、明日にはもう。僕はこの寮にはいないのか。もっと早く、みんなと打ち解けていれば良かった。
 そうすれば今日出会った彼らとはもっと仲良くなれていただろう。
 酔い潰れ折り重なるように寝ているヒデと清志を見た。あの二人は壁を作って孤立する僕に唯一話しかけてくれた奴らだ。
 約一名は、僕が壁を作ってた事すら気付かなかっただろうが。そんなヒデだからこそ、僕は助けられたのかもしれない。
 うざいほど毎日絡まれて、最初は本当に鬱陶しかったが、今となっては彼の無神経さに助けられていたのだと思う。
 ありがとう。お前らが困ったら、必ず駆けつけるからな。



 雀の鳴き声が聞こえる。今日は早く目が覚めた。顔を洗いに行ったが流石に誰もいない。
 僕は着替えて、残りの荷物を借りたトラックに詰め込んだ。

 挨拶は……いいか。昨日みんな遅くまで騒いでたからな。起こすのは可哀想だ。

 僕はエンジンを掛けた。キュルキュルと音を立てて車が小刻みに揺れた。懐かしい感覚だ。

 さて、出発するか。僕はシートベルトをして前を向いた。

「あら。私もさらわれちゃうの?」

 後ろから声がした。恐る恐るバックミラーを見るとそこには、大きくニヤついた顔が僕を見ていた。

「きゃあああああああ」

 女みたいな悲鳴を上げてしまった。

「ちょ、ちょっと失礼じゃないのぉ!?
私よっ!ドロシーよ!」

「お、お前いつから居たんだよ!」

「えー。朝の四時からぁ?」

 彼は口に人差し指を当ててとぼけたように言った。いや、何で疑問形なんだよ。
 すると寮から誰かがダダダダっと足音を立て走ってきた。そいつはその勢いのままドアガラスにべたんと張り付いた。

「あーぎーらーー。
 俺様にひどごども言わずにいぐなんでぇ水クセェじゃんよぉー」

 ドアガラスがそいつの涙で歪んでよく顔が見えない。恐らくヒデであろうそれは頬擦りをしながら泣き叫んでいる。
 開けてやりたいが開けられない。だってなんか。申し訳ないけど、汚い。

「はぁもうヒデちゃんたら」

 清志はため息をつくと、助手席にドスドスと移動して車から降りた。

「あんた何やってんのもう」

そう言って引き剥がした。さっきはヒデの涙でよく見えなかったが。いつのまにか昨日関わったみんなが来ていた。だか、咲ちゃんが居なかった。

 僕は窓を開けた。すると昨日同じチームだったメンバーが寄ってきた。

「真田っ! わしは悲しいぞ。
 やっと仲良くなれたのにのう。
 だが、男の別れに涙など不要だ」

 秋山は腕組みをして胸を張っていたが。その目からは滝のように涙が流れていた。

「真田先輩、元気でね!
 咲先輩は私に任せてください!」

 そう言ってリンリンは悪戯に笑った。

「さ、真田……さん。うっ。うううっ」

 テッドは泣き過ぎてよくわからなくなっていた。みんな、昨日会ったばかりなのにそこまで……なんで……。
 僕は胸が一杯になった。

「誘っても居ないのにゾロゾロ来ちゃって。
 私とアキちゃんだけの感動の別れにしようと思ったのにぃ」

 露骨に残念がる清志にヒデは縋り付いて泣いている。ダメだ。今何か話したら泣いてしまう。
 清志は僕の反応が無いのを気にしてチラッと見てきた。

「サヨナラは言わないわっ!
 必ず会いに行くからっ。覚悟しなさい」

 清志の目に涙が浮かんでいる。

「ああ、親友だからな。
 清志、ヒデ」

「あぎらーーー!」

 ヒデはより一層大声で泣き出した。

 清志も目頭を押さえている。初めて見た。彼が涙を流すの。

「じゃっ行くわ!!」

「元気でね。アキちゃん!」

 彼の両頬に黒い線が伝っている。暗闇だったら不気味だったろう。

 僕は慣れた手つきで窓のレバーを回し、窓を閉めようとした。しかし、誰かが僕を呼んだ気がして手を止めた。

「……ぱーい。先輩!!
 待って、待ってください!」

 それは咲ちゃんだった。女子寮の方から走ってきたみたいだった。
 彼女はたどり着くと車に手をつき息を整えている。そしてよしっと気合を入れると僕を見た。

「先輩。写真撮りましょう!」

 彼女の目は真っ赤だ。さっきまで泣いていたのだろう。

「うん。いいよ。撮ろう!」

「先輩。スマホ出してください!」

「え?
 自分ので撮った方が……」

 戸惑う僕のスマホを半ば無理やり取って、カメラを起動させた。

「あれ?
 何で暗証番号知ってんの!?」

「細かい事は気にしない!」

 細かい事!?
 そうなのか……最近の若い子怖いよ。

「じゃあ先輩笑ってください!」

 そう言うと彼女は窓から僕の顔をぐいっと出して頬をくっ付けた。シャンプーのいい香りがした。これは、僕が前に匂いが好きだって言ってたやつだ。もしかして僕の為に変えてくれてたのか。
 僕は思わずドキッとしてしまい顔が引きつった。

 カシャッ

 顔を作る前に撮られてしまった。

「はい先輩!
 絶対消さないでくださいね!
 次あったら確認します……から」

 彼女は笑顔で話していたが、途中から涙が頬を伝った。

「うん。消さないよ」

「あ、ダメダメ顔見ないで!
 やだもう。だから会いたくなかったんだよ」

 そう言って清志の後ろに隠れた。

「咲ちゃん。ありがとう。
 じゃあみんな今度は本当に行くね!」

 僕は窓を閉め軽く手を振り前を向いた。これ以上ここに居たら出発できなくなる。

 車を走らせ、ミラーを見た。みんなが手を振ってくれている。家族以外でこんな繋がりが出来るなんて思ってもいなかった。

 友達っていいな。またいつか、みんなで会おう。そう心に誓いアクセルを踏んだ。



 車が見えなくなり、みんなゾロゾロと帰り始めていた。涙で顔をぐちゃぐちゃにした咲を清志は慰めていた。

「サッキー大丈夫なの?」

 すると彼女は清志を見て涙を拭い笑った。

「大丈夫。ありがとうドロシー!」

 清志はホッとしたのか顔が緩んだ。

「そう言えばサッキー。何でアキちゃんのスマホで撮ったの?
 あなたのスマホで撮ればいつでも見えるじゃ無い?」

 彼女はそれを聞くとふふふと笑った。

「あれはね! 浮気防止だよ!
 あの画像を空さんが見てくれれば諦めるかもしれないじゃ無い?」

自信満々に応える彼女を見て、清志はため息をついた。

「あんた、悪魔ね。
 でも……凄く分かるわぁー!!!」

 そう言って二人はハイタッチした。

 その頃僕は車で謎の悪寒に襲われていた。

「ッ!?
 風邪、引いたかも。」

 僕はこの悪寒の正体を知る由もなかった。
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