滅霊の空を想う

ゆずぽん

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芽生え

初陣

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「めちゃめちゃ話それましたけど、依頼の話しましょう?」

 僕は師匠と巻島さんのオタクトークについて行けなくなって遂に切り出した。話をぶった切る中々勇気のいる行動だ。自分を褒め倒してあげたい。

「そうでござるな。いやぁー些か話し込みすぎたでござる」

「ええ、大変有意義な時間でした」

 巻島さんと師匠はとても満足そうだった。

「ふぁ~っ終わった?
 なら続き始めるねー」

 さっきまで寝ていた愛ちゃんが起きた。この人は興味のない事は全く聞かないタイプの人なんだな。
 空も何故かホッとしている。ずっと巻島さんを見ながらヤキモキしていたからな。

「じゃあさっきも言った通り、ターゲットの名前は斎藤貴美子さん、享年八十四歳。
 死因は自然死だけど、恐らく宗麟の能力により呼び戻されたと……。
 んで、私が除霊に行って話を聞いた限りでは、現世に依存する理由は孫を守りたいと言う保護欲ね」

「保護欲ですか?」

「ええ、孫を守りたいと言う感情につけ込まれて黄泉還りしたみたい。
 それと前回の高校の時の女の子もそうだったんだけど、宗麟は成仏できないように何かしらの呪縛を施してるみたいなの。
 だから、あたしのお祓いが効かなかったみたい」

 黄泉還りって、なんだろう。恐らくあの世から帰ってくる事だと思うが。

「ん? 前回の?」

 高校なんて行ってないはずなんだが……。

「ごめんあっくん、言ってなかったね。
 あっくんが大学に戻ってる間に一つ仕事をこなしたの」

 その時の詳細を空から聞いた。

「なるほど、そんな事が……」

「話、続けるね!
 それで、斎藤さんは保護欲が能力に影響してるの。
 それは彼女の周囲十メートルくらいにバリアを張るの。
 そのバリアが硬くって……あたしじゃ手に負えないの。人を襲う際も、バリアで逃げれなくして食らいつく、結構捕まったらやば目の能力なの」

 バリアが破れないと言う事は、捕まったら最後、逃げれないと言うことか……。
 厄介すぎるなそれ。

「拙者もお手伝いしたのでござるが……。
 式神のりゅうこたんでも破れなかったですござるよ」

 りゅうこたん……たんてなんだ?
 時々話に出てくるが、どんな式神なんだろう。
 すると、先ほどまでずっと黙って考えていた空が口を開いた。

「愛ちゃん、バリアを解く瞬間ってないの?」

「それはもう、捕食し終わった後なの。
 だから、絶対に捕まらない事を意識して!
 あともう一つ注意点があるの。それは彼女がもう少しで鬼神になりかけてるって事」

 空が体をびくつかせた。唇が震えているのが分かる。

「鬼神になったら能力が増える。
 そうなったら対象するのが難しくなるの。だからこそ、即仕留める方がいいと思う。
 ていうかおかしいんだよね~」

「何がです?」

「鬼神になる速度でござるよ」

 師匠が答えた。見たこともないから分からないが、そんなに異常な事なのかな?

「通常は何年もかけて、少しずつ魂を食って変貌していくでござるが、最近異常に早いでござるよ」

「はい。これも宗麟様のお力かと。
 あの人はもはや鬼神ではなくそれ以上の何かになっているでしょう」

 言い終わると、巻島さんはコーヒーを一口飲んだ。
 鬼神以上だって……そんなもの勝てるのか?
 みんなの表情にも絶望の色が見える。

「まあそれはこれから考えるとして、取り敢えず今回のターゲットの斎藤さんは浮遊霊みたいに移動する霊なんだけど、必ず現れる所があるの。
 それはお孫さんと住んでた斎藤さんの家よ。今日はそこで張り込みして、出て来た所を即座にたおす。バリアをはられる前にね」

 みんなはそれぞれの顔を見て頷いた。

「ああっと、言い忘れてたけど、今回は輝くんに活躍してもらうよ?」

 愛ちゃんは僕に向かいウインクした。

「え? 俺ですか?」

「そうだよ。
 詳しくは現場で説明するから。
 それじゃあ行こうか」

 そう言って愛ちゃんと巻島さんは立ち上がり、脱兎の如く出口へと走って行った。

「あっ、ちょっと……」

 僕が彼女達を追いかけようとした時、目の前に手が出て来た。どうやら師匠が止めたらしい。

「何すか師匠!
 早く追わないと俺らが払う羽目に……」

「馬鹿ちんがぁ!!」
 
 ぺちっ

「え?」

 あれぇ……何か……殴られた。

「日本男児たるもの、女性に奢るのは当たり前でござろうが!!
 この馬鹿弟子がっ!!」

 師匠は再度拳を振り上げ、殴りかかって来た。

 僕はヒョイっと身をかわした。師匠は前のめりに倒れた。

「あ、愛の鉄拳を避けるとは……。
 ヒーローの変身中に攻撃するのと同じぐらい重い罪なりよ輝氏ぃ」

「いや、だって痛くはないけど、殴られるのは何か嫌なんで……」

「そう言う問題じゃないでござるよ。
 拙者の鉄拳を受け、涙ながらに改心し、さらに師弟愛が強まる重要イベントでござろう?」

 師匠は僕の足に縋り付いて来た。イベントってなんだよ。そんなフラグ立てた覚えはない。

「いや、そう言うのいいんで」

 めちゃめちゃかっこいい事言ってるけど、愛ちゃんに良いように利用されてるだけですからね?
 まあ、言わないけど。

 結局僕と師匠で半分ずつ出す羽目になった。一円単位で割られたのは少し引いた。



 斎藤さんが現れると言う、家の前に到着した。僕達は身を隠し、彼女が現れるのを待っていた。

「私、少々ドキドキしてまいりました。
 あまりのスリルに興奮を禁じ得ません」

 あれ? 巻島さんついて来たんだ……。全然気づかなかった。
 みんなも同じ事を思ったらしく、彼女を見て驚愕している。

「ま、巻島さん。家のお仕事はどうしたんです?
 というかなんでついて来てるんですかーっ!」

 空がすごく慌てている。よっぽど巻島さんがトラウマのようだ。

「大丈夫です。
 私がいなくたって……変わりはいるもの……」

「いないですよ!!
 家で働いてるの貴女だけですよ?」

「空様、私を甘く見るのも大概にしゃがれでございます」

 しゃがれでございます? 敬語か馬鹿にしてるのかどっちなんだこの人。
 すると、巻島さんはサッと顔を僕の方に向けて来た。

「違いますよ真田様。
 敬語で馬鹿にしているのです」

 あれ、やっぱ心読んでるよねこの人。怖すぎるだろ!?

「やっぱ馬鹿にしてるんですね?
 巻島さん主人をなんだと思ってるんですか?」

「御言葉ながら空様、私、敬意を払って馬鹿にしているのであります。
 決してこの人をいじると面白いだとか、自尊心が満たされるとかそんな事は思っておりません」

 ガッツリ思ってるよねこの人。空が頭を抱えてしゃがみ込んだ。
 お前……苦労してるんだな……。
 愛ちゃんは始終爆笑していた。この人、前から思ってたが相当ゲラだな。
 
 キーンッ

 いきなり耳鳴りがした。頭に直接響いてくるような気持ち悪い悪寒が全身を駆け巡った。
 気づくと、藍ちゃんも師匠も空も既に戦闘態勢になっていた。いつの間にか霊衣を纏った空は刀に手をかけ身構えていた。

 やべっ、僕も早く準備しなきゃ……。

 僕は精神を集中させ、霊力を両手に集中させた。すると、ボワッと言う音と共に両手に炎が燃え上がった。

「……綺麗」

 空がぼそっと呟いた。

「輝くん。空ちゃん。
 時間がないからよく聞いて、簡単に説明するから」

 僕と空は頷いた。

「まず、空ちゃんが首を跳ねる、そしたら光の球が現れるから輝くんがそれを掴む。そしてそれをあたしが除霊する、オッケー?」

「わかったよ。愛ちゃん」

「あれ、師匠は?」

 僕は師匠を見た。するとスマホでアニメを見ていた。

「拙者でござるか?
 今回は手を出さないでござる。
 輝くんの初陣に手を出すのは野暮でござるよ」

 なるほど……

「よっしゃ! いっちょ師匠にいいとこ見せるか!!」

 僕は腕を回し、体をほぐした。

「来たよ!!」

 空が身構えながら言った。見ると小さいお婆ちゃんが一人、薄く光を纏いながらポツンとたたずんでいる。

「なんか、あの人を攻撃するの気が引けますね」

「何言ってんの?
 あの人はもう何人も殺してるんだ!
 見た目に騙されないで全力でやりな。じゃないとあんたが殺されるよ?」

 愛ちゃんの口調は強かった。それほどに危険だと言う事だろう。僕は改めて身を引き締めた。

「よし、じゃああたしが合図したら、空ちゃんの後に続いて輝くんも出て!
 そしたらあたしも続くから!」

 僕達は頷き、目標を見据えた。
 どれぐらい経っただろう……凄く長く感じる。自分の呼吸すら聞こえて来そうなくらい静かだ。

「いまよ!」

 その一声とともに空が飛び出し、走り出した。なんて反応速度なんだ……。間近で見て初めて空の凄さを実感する。
 そして、僕も空を追いかけるように飛び出した。前を走る空はもう敵の目前まで迫っていた。
 彼女は刀を握る手に力を込め、刀を抜こうとしたその瞬間だった……。

 僕に目掛け、空の体が飛んでくるのが見えた。
 何が起こったのかわからないが、僕は彼女の体を受け止めた。だが反動は殺せず、空と一緒に後方に吹っ飛ばされた。

「きゃあっ」

「いってぇっ!!」

 僕は盛大に空の下敷きになり、背中を思いっきり強打した。
 空はそれに気づきすぐに体を退かした。

「ごめん!
 あっくん大丈夫?」

「ああ、全然」

 大丈夫では無かったが、それよりも空を抱きしめられて嬉しかったなんて言えない。

「それより、どうしたんだ?
 なんで吹っ飛ばされた?」

「分からないの、何かに刀を掴まれて投げ飛ばされたみたい」

 刀を掴まれるだって? 物凄い剣速なんだぞ、ましてや不意をついたんだ。そんな事出来るものなのか?
 僕らは体制を立て直し、敵を見た。すると、そこには斎藤さんと共に白いスーツの男が一人立っていた。

「誰だ……あいつは」

「分からない……けど……」

 彼女が言わんとすることは分かる。
 あいつは……とてつも無くやばい!!
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