滅霊の空を想う

ゆずぽん

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強くなる為に

第二の試練 拳闘 源三郎

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 ん? どうなったんだ、僕。
 亮、龍華……様? はどこだ?
 僕は目を開けようとしたが、中々開けない。
 目蓋がとても重い。何かに引っ張られているようだ……。
 僕はやっとの思いで目を開けた。すると、誰かの顔が見えた。どうやら僕を介抱してくれてるみたいだ。だが視界がぼやけて誰か分からない。
 女の人……! もしかして……。

「空……?」

「誰が空だこらぁ!!」

「ぐふぅっ……」

 みぞおちに強烈な一撃をもらった僕は、腹を抑えて悶え苦しんだ。
 この感覚、さっきも食らった気がする。
 すると、髪を掴まれ強引に持ち上げられた。

「いだだだだ……!
 抜けるっ! ダメだこれ皮ごといっちゃう!!」

 僕は髪の根本を必死に抑えた。
 すると目の前にニヤリと牙を見せて笑う龍華の顔が現れた。

「あんた生きてて良かったな!
 まぁ、死んだところであたしには全く関係ないけど」

 そう言ってキャハハと笑うと乱暴に髪の毛を離した。

「いってぇ~。
 はっ!? 俺の髪の毛!!
 はぁ良かった……まだある」

 僕は髪が確かにある事を確認して胸を撫で下ろした。

「生き残れて良かったでござるな輝氏。
 りゅうこたんもこう言ってるでござるが、輝氏が起きるまで付いてるって聞かなかったでごさっっ!!?……る……ぐふっ」

 師匠は話を言い終わる前に龍華の髪の毛による強力な一撃で倒れた。
 すると彼女は頬を膨らませそっぽを向いた。
 なるほど、確かにツンデレ属性なるものが入っているのかも。

「あ、輝氏、ゆっくりしてる暇はないでござるよ……。
 次の修行へGOでござる」

「え? もうですか?
 心身共に疲労困憊なんですが……」

 全身余すとこなく痛い。しかも、心労も相当なもので、正直話すのも辛い。
 するとそんな僕を見た龍華が近づいてきた。そして、髪の毛を巻きつけてきた。

「え? 何する気!?」

 しかし、彼女はニヤリと笑うと僕を軽々と持ち上げ、襖を開けると乱暴に僕を投げ入れ、バシンとしめた。

「いてて……ひどくない?」

 襖の向こうで龍華の笑い声が聞こえる。

 なんて奴だ。ちょっとでもいい奴かもと思った僕が馬鹿だった。

「おう、輝ァ!!
 やっと来たな」

 僕は声をする方を見ると驚愕した、何と部屋の中央に本格的なリングがあったのだ。リングは四方からライトに照らされている。そしてその中央に源さんが腕を組み立っていた。

「な、なんだ……これ……」

 すると、源さんは腕を組んだまま顎でこっちに来いと促した。
 僕はロープを潜り、彼の前に立った。

「随分待たせるじゃねぇか。
 安倍の坊々のとこで何しとったんじゃ?
 丸一日寝とったらしいが」

「丸一日っ!?」

 僕はそんなに気絶していたのか!?
 て事は今何時だ!?
 部屋も薄暗いせいか全く時間の感覚が掴めないでいた。

「わーっはっはっは、よう休んだやろ!?
 わしの修行はキッツイから覚悟せぇよ?」

「……今度は一体何をするんですか?」

 もう既に満身創痍なんですが……。
 すると、何かを投げつけてきた。見るとそれはグローブだった。

「そんなもん決まっとるやろ。
 わしはこれしかできん!」

 そういうと彼は自分の拳を差した。

「ヘッドギアとマウスピースは後ろの椅子に置いてある。
 付けろ」

 僕は言われるがまま全て装着した。

「よっしゃ、じゃあやるかの!」

 源さんはシャツを脱ぎ腕を回した。
 僕は彼が太っているのだとばかり思っていたが、そうではなく胸筋が盛り上がり、まるでプロレスラーの様な体付きだ。

「始めるってなにを?」

「決まっとるやろ……?
 殺し合いや」

「え?」

 その瞬間、顎に鈍痛が走り天地がひっくり返った。どうやら顎を撃ち抜かれた様だ。
 全く見えなかった。早すぎて痛みが大分遅れてやってきた。
 そして僕は平衡感覚を失い尻餅をついた。
 立てない、ふと気を抜くと意識が飛びそうになる。寝落ちしそうな時と感覚が似ている。

「おら、立てや」

 彼はそう言うと僕の髪の毛を掴み無理やり立たされた。そして僕のみぞおちに拳を叩き込んだ。

「っぅう!!」

 息が出来ない。

「なん……で」

 すると彼は鋭い目で睨みつけた。

「言い忘れとったわ。
 わしに一発でも食らわしてみろ、そしたらおめぇの勝ちで修行終わったる」

 意識が朦朧として視界が歪み、源さんが三人に見える。
 彼は僕の髪の毛を離すと、僕はよろつきロープに持たれ掛かった。
 すると、源さんが構え素早く距離を詰めるとジャブを放った。
 僕は何とかガードを上げるが、全く役に立たなかった。ガードの上からでも恐ろしいほどの衝撃がビリビリと腕をつたった。

「ほらほら死ぬぞ?」

 彼はこんなにラッシュを仕掛けているのに全く息が上がっていない。
 すると彼はラッシュをやめ、右手を少し引くと、僕の腹部目掛けてブローを放った。

 これなら対応できる!!

 僕は腹部に力を入れ、体を右に移動させヒットポイントを少しずらした。
 源さんに習った防御術だ。
 しかし彼は、ヒット直前で拳を止めた。

「え? ……っうぐ!?」

 その瞬間、無防備になった右脇腹に強烈な一撃を入れられた。
 僕はふらつき横腹を抑えてながら膝をついた。

 これが世界チャンピオンの実力……。
 次元が違う。早すぎて自分が何をやられているかも分からない。

「ふぅ……弱ぇなぁ輝ァ。
 これじゃ勝負にすらなんねぇ。
 こりゃあ今日は無理じゃな、休んで回復しろ」

 そう言うと彼は逆コーナーの椅子にドスンと座り腕を組んだ。
 僕は動けず、その場に倒れ込んだ。
 辛い……こんなものはただの拷問だ。

「回復したら、今日は飯食って寝ろ。
 それと、ちゃんとわしとの闘いを復習しとけ」

 そう言うと彼はグローブを外し、立ち上がりロープを潜って部屋を出て行った。
 取り残された僕は、まだ動けずにいた。

「くそ……手も足元出なかった」

 僕はマットに突っ伏し、大きなため息をついた。
 すると、襖が開き誰が入ってきた。足音が多数聞こえる。恐らく師匠の式神だろう。
 てけてけと近寄ってくると、僕の体を持ち上げた。

「え……?
 どこへ……」

 だがもう抵抗する力も残っていなかった。なされるがまま僕は連れて行かれた。
 式神達はしばらく走ると、ある部屋の前に止まった。すると、式神達は目を見合わせ僕を部屋の中に放り込んだ。
 僕の体はもう、受け身を取る力すら残っておらず、だらしなく転がりうつ伏せに止まった。

「あぁー……いてぇ……」

「きゃあ!?
 先輩!? 何!?
 どうしたんですかぁ!?」

 この声は、咲ちゃんか……。
 もう返事する力すら残っていない。

「誰にやられたんですか?
 ボロ雑巾みたいじゃないですか!?」

 ボロ雑巾……ひどくない?

「まっててください。
 いま、回復させます」

 そう言うと彼女は両手を背中に置いた。すると、その部分がぽっと暖かくなった。
 その熱が全身へと広がり、何故かものすごい安心感に包まれた。
 そして、全身の痛みが徐々に安らいでいくのがわかった。

「もうすぐ完治します。
 そしたら……私の膝で寝かせてあげます」

 なんか後半言っていたが、気持ち良すぎてどうでも良くなっていた。
 すると、もう一人誰かが近づいて来た。

「はい、もう終わり!
 あんま甘やかしちゃダメだよ。
 輝くん、起きなっ!!」

 そう言うとその人は、僕の髪の毛を掴み無理やり立ち上がらせた。

「いてててててて、なんで!?
 なんでみんな俺の髪の毛引っ張んの!?」

 僕の髪の毛になんか恨みでもあんのか!?
 僕はそいつの顔を見た。それはとてもよく知ってる顔だった。

「愛ちゃん……?」

「やめてください!
 愛さん!! まだ終わってないんです!!」

 すると、愛ちゃんは髪の毛を乱暴に離すと僕の顔に向かいビシッと指差した。

「終わってんだろぅが!?
 肌艶までよくなってんぞこいつ!?」

 僕は思わずほっぺを触った。

「あ、本当だ。
 生まれてこの方感じたこともないほど艶々だわ」

 すると、咲ちゃんは一歩前に力強く出て言った。

「いいえ、まだです!!
 この治療は私の膝枕で完結するんです!!
 そして、仕上げは……その……き、きす……」

 彼女は頬を赤らめ、もじもじしている。
 すると愛ちゃんは大きなため息を付いた。

「はぁ……これだからガキは……」

 あ、やばい……空気が変わった。
 咲ちゃんは下を向き、拳を握って震えている。

「……おい、年増……私がガキだって?」

 彼女はゆっくりと顔を上げた。その顔は普段の天真爛漫な彼女とは想像もつかないほど眉間にシワが寄っていた。

「あ? 誰が年増だこのクソガキ。
 私に意見なんざ十年はぇんだよ」

 愛ちゃんも負けじと、睨み返している。
 
「てめぇやんのに十年もいらねぇんだよ。
 秒であの世送ってやんよ」

 二人はオデコを押し付けあい睨み合っている。
 僕は二人の覇気に気圧され、情けないことにただ突っ立っているしか出来なかった。
 すると、愛ちゃんは物凄い音を立てて両手に雷を纏った。
 それに反応して咲ちゃんも霊衣を纏い構えたが、彼女は何かに気づいた様で、目をまん丸にして構えを解いた。

「あ、あの……その技は……。
 もしかして、花園女子校の殺戮マシーン。感電殺しの愛子さん……ですか?」

「……?
 ……そうだけど?」

 そうなの!?
 殺戮マシーン……感電殺し?
 申し訳ないがくそださい……。

 愛ちゃんも構えを解くと、少し困惑している。

「やっぱり!!
 私、貴女に憧れてたんです!!
 老若男女、やくざ、警察、関係なしに地獄に叩き落とし、無敵の名を欲しいままにした伝説のスケバン!!
 でも男が出来て……」

「あー、あー、わかったわかった!
 だ、だから、その話はまた後で……ね?」

 愛ちゃんは話を無理やり話を遮ると、咲ちゃんの肩に両手を置いて何か言っている。
 だが、小声すぎて僕には聞こえなかった。
 てか、これって愛ちゃんの弱味だよな?
 これは知っておく必要があるな。後で咲ちゃんに聞いておこう。

「はい、わかりました!
 先輩! 特訓開始です!!」

「え!? いきなりなんなの?
 てか、脈絡全くないんだけど!!」

 しかし、僕の声は彼女に届いていなかった。何かとても嬉しそうなんだが、愛ちゃんに一体何を吹き込まれたんだ?

「輝くん。
 今から得物を持った相手との実践を身につけてもらうよ?」

「まあこうなるよね……今までの流れ的に」

 すると、咲ちゃんは頭に鉢巻を巻くと、薙刀を構えた。

「先輩、この鉢巻を取れたらあなたの勝ちです。
 でも、手加減はしませんよ?
 何処からでもきてください」

 何処からでもだって?
 そんな隙、何処にあるんだ?

 対峙してみてわかるが、何処に攻撃を仕掛けても勝てるイメージが浮かばない。
 空はこんな相手と戦ってたのか……。

 僕は覚悟を決め、両手に力を込めてありったけの霊力を集中させた。
 その瞬間、まるで弾ける様に僕の全身が燃え上がった。
 蒼く激しい炎は、まるで渦を巻く様に僕を包み、天井まで届くと壁を添う様に燃え広がった。

「わぁっ……何だ……これ……」

 僕は全身を見回した。
 全身火達磨になっているが、自分の意思で炎を抑えられない。
 どんどんと体外に溢れ出ていく様だった。

 咲ちゃんと愛ちゃんは顔を腕で守りながら、口と目を大きく開けて、まるで化け物でも見たかの様に驚きと恐怖を顔に滲ませていた。
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