滅霊の空を想う

ゆずぽん

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呪いの始まり

力の片鱗

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 号令とともに始まった生き残りをかけた乱戦だが、俺は開始早々、高々と飛び上がった。
 何故かと言うと、俺の近くにいた数名が一斉に俺に襲いかかってきたのだ。
 まあこうなる事は予想していた。
 先程の悪目立ちしたせいで、俺の事を気にくわない奴らもいるだろうし、そう言う奴らは必然的に俺を潰しに来るだろう。
 俺は空中でひらりと一回転すると、一番背の高い男の頭に片足立ちで着地した。

「ふぅ、あぶねぇなぁ」

「こんの……クソガキ!!
 俺の頭から降りやがれ!!」

 その男は、俺の足を掴もうと手を伸ばしてきたが、俺はそいつの頭を蹴り上げ、柵の上へと逃げた。

「てめぇ、降りてきやッ!? ……が……れ」

 その男は威勢よく叫んだが、他の参加者に背後から殴られ倒れた。

「あーあ、よそ見すっから……」

 多人数の乱戦は、人数がある程度減るまで見てるだけに限る。
 こんなとこで体力を使うなんて馬鹿げている。こいつらその後の勝ち抜き戦の事を考えてないのか?
 そして、この行動にはもう一つ意味がある。柵の上から全体を見てみると強い奴はよくわかる。
 強者の周りには必然的にそいつを囲んで円ができる。
 皆、そいつが強すぎて近寄れないかもしくは間合いに入った瞬間やられるからだ。
 俺は信景を探した。もし、ピンチなら助けてやろうと思ったからだ。
 すると、意外にすぐに見つかった。

「おっいたいた。
 へぇー、信景のやつやるなぁ」

 信景は柵を背にして、前方からの敵をむかえうっていた。一見追い詰められているように見えるが、死角が減る分対処しやすく体力の消耗を抑えられる。

 信景は大丈夫そうだな、他の強いやつを見て少しでも戦い方を学んでおこう。

 すると、中央に異様な雰囲気の痩せた男が立っていた。その男はまるで亡霊のように佇んでいた。

「なんだあいつ、気持ち悪いな」

 ずっと見ていると、俺は少しその男に対し違和感を覚えた。誰も彼に対して攻撃していない、それどころか、他のやつからはあいつが見えてないように感じる。
 すると、そいつはゆらりと揺れると近くにいた男の背後に回った。
 しかし、その男は全く気がついていなかった。
すると、痩せた男はニヤリと笑うとその男の首を切り裂いた!

「な!?
 あいつ、殺してるのか!?」

 痩せた男はまたゆらりと揺れると、先ほどと同じように背後に回り首を裂いた。

「おいおい、こんな大衆の面前で殺しなんて!!
 許しちゃおけねぇ」

 俺は次の獲物を見つけ、背後に回ったのを確認すると、柵をひと蹴りし、今切り裂かんとしてる男の顔面に膝蹴りをくらわせた。

「ごぼっ……」

 その男はまるで転がる木の枝のように情けなく吹き飛んだ。

「おい貴様!!
 ここは殺しの場じゃねぇ!!
 剣術の技量を試す場なんだ!!
 これ以上の狼藉は、お天道様が許してもこの宗麟様がだまっちゃいねぇ!!」

 俺はそう言い放つと大見栄を切った。
 すると男はむくりと立ち上がると、自分の口元の血を腕で拭き取った。
 そしてその拭き取った血を見るなり、狂ったように笑い始めた。

「うひゃひゃひゃひゃ……こりゃ傑作!!
 自分が壊れるとは」

 その男はそう言うと、ぎょろっとした目をグリグリと動かして笑った。

「うへぇ……化けもんかよ」

 俺は生理的嫌悪感を覚えた。そいつの黒目はそれぞれが別の方向を向いたり、不規則に動き回ったからだ。まさしく人間離れしている。
 するとそいつは長い舌をだらしなく垂れ下げるとまたゆらりと体を揺らした。

「くるっ!!」

 そいつは人影に隠れながら徐々に俺に接近してくる。なるほど、これが一瞬で移動したように見える技っだってことか……これ、使えるな。
 俺はわざと、棒立ちになると男の動向を目で追った。すると、やはり俺の死角である背後に回った。

「芸がないな」

 俺は男が刃を首元に持ってくる前に木刀でみぞおちを突いた。

「うぐっ」

 そして男が怯んだ隙に、振り向き様に刃物を持った腕に一撃を入れた。
 ボキッと言う音と共に得物を落とすと、俺はとどめの一撃を顎に打ち込んだ。
 すると男は、その場で膝をつき、前のめりに倒れた。

「強そうだと思ったのに……」

 俺は内心ガッカリした。強そうに見えたこいつも、蓋を開ければただの気持ち悪いやつだった。
 だが、学んだ事もあった。相手の視界のほんの僅かな隙をつけば、相手からは姿を眩ませられる。これは今後も使えるな。
 それから俺は適当に目についたやつを仕留めながら逃げるを繰り返した。
 そして、気づけば柵の中には俺を含めた数人がお互いに距離を取りながら睨み合っていた。その中にボロボロになった信景の姿もあった。

「今何人だ……。
 ひい、ふぅ、みぃ……あれ? 俺を含めて五人か、あと一人で終わりだな」

 すると、鎧を着た男が相撲取りのような男に一撃を加え、その巨体を吹き飛ばした。
 この時点で、勝ち抜き戦への参加者が決定した。
 高らかに鐘の音が響き、戦いの終了を告げた。

「そこまで、残った四人は中央に立て」

 俺たちは、ゾロゾロと中央に集まった。
 そいつらの顔を順番に見ていくが、信景以外殆どの者がほぼ無傷だった。

「よくやった。
 これより一刻後、勝ち抜き戦を始める!
 それまでしばし休むが良い」

 俺は体を休める為戻ろうとした時、足元に倒れている人から白い球が浮き出てくるのが見えた。

「な、なんだ?」

 すると、それに呼応するようにポツポツと、他の人の体からも球が出てきた。それはどうやら全ての人から出ているのではなく、まばらに浮かび上がっていた。
 
「どうした、宗麟?」

 信景が怪訝な顔をして近づいてくると、声を掛けてきた。

「どうしたもこうしたも……。
 お前にはこれが見えないのか!?」

 すると彼は首を傾げて周りを見渡したが、どうやら見えなかったようだ。大きなため息をつくと、俺の肩をポンポンと二回叩き、先に出て行った。
 浮かび上がって来た球は、ふらふらと風に流されるように漂い、四方に散らばり飛んでいった。

「あれが、人魂か……」

 俺はしゃがむと、足元に転がる人の口に顔を近づけた。
 息をしていない。恐らくもう事切れているのだろう。てことはやっぱり……あれは人魂か。
 俺は近くまだ浮いている球を探し、手に取ってみることにした。
 丁度一寸先に浮いているのを見つけ俺は手を伸ばしそれを掴んだ。
 その時、俺の中に何かが流れ込んできた、それはその魂の人生の走馬灯のようなものだった。
 やっとの思いで解放された俺は、激しい頭痛を感じて、頭を抱えて膝をついた。

「ちょっと宗麟!?
 大丈夫なの?」

 声の方を見ると、うたが心配そうな顔をして駆け寄ってくるのが見えた。

「あ、ああ、大丈夫だ」

 正直この言葉は強がりだった。他人の人生を覗き見た俺は、そいつが感じた辛さや痛みを確かに感じた。
 そしてそいつが思っていたことや、背負っていた物が、まるで土石流のように頭に流れ込んできた。
 苦しみ、憎しみ、後悔、様々な負の感情が、未だに心にこべりつき離れない。

「悪いうた、肩貸してくれ」

「うん、わかった」

 そして俺はうたに連れられ、近くの団子屋で回復を待つことにした。

「おばちゃん!
 お水とお団子ください!
 あっ、あと冷やした手拭いも」

 うたは店の奥にいる店主にそう告げると、俺の顔を見つめ額に手を当てた。

「熱はないね。
 寧ろ冷たい……ねぇどうしちゃったの?」

 彼女は心配そうな面持ちで尋ねてきた。

「球を……掴んだら……。
 感情やら思い出やらが入り込んできて……。
 っああ!! 自分でも何言ってるかわかんねぇ」

 俺は手のひらで額の横を叩いた。まだ心が浮ついていて夢の中にいるような感覚だった。
 俺は取り敢えず、心配させまいと精一杯の笑顔を作り彼女を見た。
 しかし彼女は何やら神妙な面持ちで、何やら考えているようだった。

「どうしたんだ?」

 彼女は少し間を開け俺を見た。

「それは死人の魂だよ。
 しかもそれを掴めるなんて……」

「何か不味かったのか?」

「ううん。それどころかいい事かも!
 その能力は霊詠み(たまよみ)と言って、昔から……」

 その時、鐘が大きく鳴り響いた。集合の合図だろう。
 俺はまだ立ち上がり、うたを見た。

「悪いうた。
 もう行かねぇと!
 話はまた後で聞かせてくれや」

 俺はそう言い背を向け走りだろうとした時、うたは俺の腕を掴んだ。

「うわっとと、なんだよ」

 俺は不意に止められたことに驚きつつも振り返り彼女を見た。

「信ちゃんの事なんだけど……。
 気をつけて……あの子……なんか変なの」

「変って……何がだ?」

 すると彼女は、困ったような悲しいような曖昧な表情を浮かべ吃った。

「あの、何か分からないけど……」

「わかった、直接聞いてみるから。
 今は急がねぇと!」

 そう言って彼女の手を解くと会場へ走った。
 会場に近づくと、あれだけいた倒れた人々は跡形もなくなっていた。
 そして、その中央にはすでに信景が来ていた。
 二人の前には、相撲の行司のような出立の男が椅子に腰掛けて目を瞑っていた。
 どうやらあの男が、この試合を取り仕切るらしい。
 俺は柵の中央に小走りで行くと、信景の横に立った。そして、遅れるようにもう一人の参加者、鎧武者がゆっくりと俺の隣に並んだ。

「悪い、遅くなった」

 俺は小声で信景に話しかけたが、彼は前を向いたまま反応しなかった。目は鋭く、いつもの気弱な信景はもうそこにはいなかった。
 不思議に思い声をかけようとした時、座っていた行司のような男が立ち上がり高らかに叫んだ。

「今より、勝ち抜き戦を行う!!」

「えっ!?」

 まだ全員揃ってないのに始めるのか?

「おい、一人たりねぇぞ?」

 俺は行司の男に言った。

「案ずるな、そいつは棄権した。
 試合中、立てないほど打ちのめされてとても大会には出れないと本人から申し出があったのだ」

 打ちのめされて……それはおかしくないか?
 俺は確かに試合後皆の姿を見た。俺の記憶では信景以外ほぼ無傷だったはず。
 俺は抗議しようと手を上げる直前、信景が口を開いた。

「そんなことより早く始めましょう。
 時間の無駄です」

 確かにそうだが、こいつら何も感じないのか?

「よろしい。
 ではこれより勝ち抜き戦を始める。
 対戦相手はこちらで決めさせてもらった。
 第一回戦は、宗麟対光月」

 光月? この鎧武者の事か?
 顔は面具を付けており見えない、大分小柄だが、見に纏う独特の雰囲気がとても不気味だった。

「両名はここに残り、他の者は柵の外にでよ!」

 そう言われると信景はくるりと背を向け柵から出て行った。
 やっぱどこかおかしい……普段はあんなに冷たい男ではないのだが、やはりうたの警告は正しかったのだろうか。

「両者向き合って!」

 俺は鎧武者の方へ体を向け、木刀を構えた。しかし、そいつは棒立ちのまま俺を睨むだけだった。

「おいおい舐めてんのか……」

 俺は構えるまでもないってか……。
 カンに触る野郎だ。

「では…………はじめっ!!」

 
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