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セイレーンいたもん
しおりを挟む暗い船室内は大きく揺れている。先程までの荒れに荒れた気候が影響しているらしい。時折女の歌声のような音が聞こえる。船室内にはカナコ、サトシ、フサエの三人がいた。フサエという老婆はごま塩の乾燥しきった髪にボロボロになった服装でうずくまっていた。フサエが時折ブツブツと呟いているのが状況の不気味さを加速させていた。
カナコは艶のあった黒いミディアムヘアを振り乱しながら叫んだ。美しく整えられていたであろう爪も今は見るも無惨に1部が欠けたりしてしまっている。
「こんな事になったのはあんたのせいよ!」
サトシの服もあちこち破れ、細かい傷や打撲痕は数え切れない。
「お前だって乗り気だったじゃねえかよ」
「元はと言えば、あんたがこうなったのはセイレーンの仕業だから、退治しに行こうって言ったんじゃない!それが何よ!10人いた仲間が今じゃあんたとあたしとこのおばあさんだけよ!」
「村の池の水飲んで腹膨れて死んじまった向かいのガキ、村の裏の山で呼び声を聞いて助けに行って帰って来なかったはす向かいのおっさん、山と反対側の海に泳ぎに行って波に連れてかれちまった村長のガキ、新しい服着て死んじまったお前の婆さん。こんなに続いたらなんかおかしいに決まってんだろ!」
「あんたが頼りになると思ってたから着いてきたのよ!そんな無駄な筋肉ならないほうがマシよ!」
「お前こそ猫被ってただろうが!何がどこまでもお供します、だ!とんだお荷物じゃねえか!」
「何ですって!」
「少なくとも俺は間違った事は言っちゃいねえ。聞けよ、この歌声。セイレーンいただろうが」
「退治できてないじゃなのよ。この歌のせいでやっちゃんもマサシも海に身を投げてしまったのよ!」
不意に歌声が大きくなった。カナコが悲鳴をあげるとサトシが舌打ちした。
「クソ!!」
「私達の村は呪われているのよ!」
その時、船の上にビチャビチャっと音を上げて何かが大量に降ってきた音がする。
フサエが急に立ち上がった。落窪んだ黒目がちな目はどこまでも暗く、深淵のようだった。吸い込まれそうな瞳におびえるまもなく、フサエが叫んだ。
「祟りじゃああああああ」
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