Dear my...

E.L.L

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36章

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英司が支えてくれている
それに多分本人は気づいていないけど、私のことを名前で呼んだ
英司の心の中のどこかに私がいるんだろうか

あんなに酷いことを言ったあとなのに
私が落ち着くまでは肩を貸してくれて、少し落ち着いたら部屋のベッドまで支えて歩いてくれた
まだリハビリが終わったばかりで力がなくてと申し訳なさそうに言う

部屋の外で話し声がする
きっとさっき言った通り、英司のお母さんを呼んでくれているんだろう
何から何まで…
どうしたらあなたを幸せにできるんだろう

もしかして本当のことを言うべきだった?
でもまだ全快もしていない、夢のある英司に現状を伝えたらきっと英司はまた苦しむ

私は情けなくて、枕が湿ってきたのを感じて布団をぎゅっと握りしめた

少し寝てしまったのか、遠慮がちにドアをノックする音が聞こえた

「結子ちゃん?
入るわよ?」

春子さんの声だ

「はい…」

春子さんがそっと顔を覗かせる

「ごめんなさい…御迷惑を…それに、私…」

「大丈夫よ、大丈夫」

春子さんは近づいてきて、ぽんぽんと優しく背中をたたいた

「顔色は…いいとは言えないけれど…」

「大丈夫です…」

「立てそうなら帰りましょうか」

私はコクリとうなづいた

「英司!
 結子ちゃんに車まで肩を貸してあげて」

「だ、大丈夫です!
私、歩けます!」

慌てて言ったけど春子さんはフフと笑う

「こういう時は助けてもらいましょ」

英司はひょこっとドアから顔を覗かせた

「…あの、大丈夫……ですか?
無理させて…ごめんなさい…」

「え…さ、櫻野さんのせいじゃないです」

櫻野さん、って呼んだ時、春子さんはほんの一瞬だけ悲しそうな顔をした
一瞬だったから、見間違いかもしれないけど

私は櫻野家の人達を苦しめている…
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