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第四話『 情 』 - 06 /07

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「恵夢、前に話したろ。その子、リョーコサンとこの子で、彰悟のカノジョちゃん」
「あぁ~なるほどな~そうかそうか~君がそうか~」
「…………」
「…………」
 今回、ありがたくも助け舟を出してくれた綺刀であったが、"彼女"であるという説明は抜いてくれず、それをもって梓颯と彰悟は、もはやその事実に対する抵抗ができない状態となった。
 因みに、"リョーコサン"というのは、梓颯の母親の事だ。
 梓颯は、まだ未成年である事から、彼らが属する、数多の一族で形成された大家族の本家での集まりには縁遠いのだが、梓颯の母や成人している綺刀などは、そういった集まりに出席するようになっている為、梓颯の両親と彼らは、既に面識があるのだった。
 そして、そんな綺刀から梓颯の紹介を受け、ぽんと手を打つようにした恵夢は、再び梓颯に向き直る。
「梓颯君だっけな」
「あ、は、はい! 初めまして、えっと、恵夢さん」
「お、もう名前覚えてくれたのかぁ、ありがとぉからのハジメマシテー。俺はご存じ、班目まだらめ恵夢さんだよ~。――つか、話には聞いてたけど、やっぱリョーコサンに似て君もほんと美人だなぁ。早いうちに番犬がついて良かった良かったぁうんうん」
 “番犬”というのは、恐らく彰悟の事を指しているのだろう。
 また、彼は班目と名乗ったという事は、彼は蛇神へびがみ憑きの人間であるという事だ。
 梓颯は、そんな恵夢の不思議な自己紹介を受けながら、その大きな手でやんわりと頭を撫でられる。
「は、はぁ」
 しかし、優しい声色と優しく撫でてくるその大きな手に安心感を感じるが、それが逆に梓颯を混乱させた。
 梓颯がそこで、この状況をどうしたものかと迷っていると、綺刀が更なる助け舟を出してくれた。
「おら恵夢。弟分の彼女ナンパすんな。お前はこっち」
「えっ、ヤダもう綺刀君ったら、やきもちぃ~?」
「ウゼー」
 綺刀の助け舟により、なんとかその状況を脱することが出来た梓颯は一息つく。
 そして、綺刀の言葉を受けた恵夢はすっと梓颯のもとを離れ、嬉しそうに綺刀の隣に座る。
 そうして改めて向かい合って座ってみても、やはり恵夢の身長が高い事がわかる。
 もちろん先ほどまで一緒だった三人も、背丈、体つき共に梓颯より十分に大きいのだが、禰琥壱、恵夢という特に身長の高い二人に挟まれていると、綺刀が小さく見えるようだった。
「で? 俺に用事って何?」
 慌ただしく始まり、慌ただしく自己紹介をし合った後、やっと落ち着きを取り戻したその部屋で、禰琥壱から淹れたてのアイスコーヒーを受け取った恵夢はそう切り出した。
 それに応じた綺刀は、恵夢にノートパソコンのディスプレイを向ける。
「これ」
「ん?」
「このサイト見て、お前どう思う?」
 綺刀に示されるままに画面と向き合った恵夢は、少しそのサイトを眺めてから言った。
「ん~? ――綺刀、ちょっとコレ弄っていいか」
「あぁ」
 綺刀の許可を得た恵夢は、パソコン上で何やら操作してから再び画面を眺め、微かに眉根を寄せてからつまらなさそうに言った。
「はぁ、なんかこのサイト、無断転載の塊って感じだな。暇潰しに作ったにしてもひでぇ」
「“無断転載”?」
 恵夢の発言に対して思わずそう問い返した梓颯だったが、その場にいた他の三人もまた、どういう事かと表情で恵夢に問うていた。
 恵夢は、一同の疑問に応えるべく、ゆっくりと説明してくれた。
 恵夢の話によれば、まず、"無断転載"というのは、インターネット上に関わらず、この世にある全ての著作物を、著作者の許可なく別の場所へと掲載、または転載する行為などの事を示す言葉であるとの事だった。
 因みにこれは、著作権を侵害したとして違法行為にもあたる為、この事を知らないで無断転載ばかりしていると、著作者に訴えられ、裁判沙汰になるなどという事もあり得なくはないらしい。
 また、誰かが撮影したちょっとした写真でさえ、著作権は発生しているのだそうだ。
 それゆえに、ネット上で見つけた素人の写真だからと言って無断で使用すれば、それも無断転載となるのだ。
 そして、そういった行為によって成り立っているのが、このエンマ様のサイトなのであった。
 また、恵夢がみたところによると、このサイトは、別のオカルトサイトに掲載されている画像を盗用している上、その他のエンマ様に関する説明以外の文章も、別のサイトからのコピーなのだという。
 本来、画像をサイト上に表示するには、自分で作成した画像や、ネット上にある画像を、一度パソコンの中に保存した後、改めて自分のパソコン内のデータからサイト上に画像を挿入する形で行う。
 またこれは、パソコンでなく、スマートフォンなどでサイトを作る場合も同じなのだが、――いずれにしても、そのエンマ様のサイトは、この手法をとっていないとの事だった。
 エンマ様のサイトがとっていたのは、これ以外の方法であった。
 実は、ネット上に掲載されている画像には、サイトのページと同じように、アドレスというものが付属している為、その画像のアドレスをコピーして、ページ内に組み込むだけでも、他のサイトで掲載されている画像を自分のサイトに表示させる事は出来るのだ。
 そして、エンマ様のサイトがとっている手法がまさにこの手法だ。
 つまり、このエンマ様のサイトは、画像を一度保存する、という段階すらも踏まない粗末な方法で、画像を盗用しているとの事だった。
「――だから、オリジナルなのは、このエンマ様の説明くらいだな。それ以外は全部パクってきたもんばっかだ」
「そうだったのか……」
「ん。――で? このサイトがどうしたんだ? まさかこれが本物の心霊写真か検証しろみたいな事? それだったら俺よりネコ先生の方が信憑性しんぴょうせいが――」
 そして、ざっと説明を終えた恵夢が訝しげにそう言うと、綺刀はその言葉を遮るようにして説明した。
「いや、偽物なのはわかってんだ。――だから、お前を呼んだのは心霊写真についてじゃなくて、このサイトについての、別の視点からの意見を聞きたかったからなんだ」
「“別の視点”?」
「うん。――そのサイトさ、お前が言った通りパクったもんの塊だったとして、作った奴は、何の為に作ったんだと思う?」
「あぁナルホド。そういう事ネ……――ん~、そうだなぁ」
 恵夢はそう言うと、再びサイトを見ながら考え込む。
 梓颯は、そんな彼の真剣な顔つきを見て、先ほど冗談ばかりを言っていた彼とのギャップを感じ、少し驚いた。
 まだ、本当の顔がどちらなのかはまだわからないが、少なくとも彼は、頼られる事が多い人物なのだろう。
 普段ふざけている人間ほど、真剣な時の技術は、計り知れないほど高度であったりする。
 この恵夢も、そういう類の人間なのかもしれない。
 なんとなくだが、これまでの彼の一連の言動をみて梓颯はそう感じ始めていた。
 そんな恵夢は、そうして考えた後、己の見解を述べ始めた。
「まぁ~ざっと見た感じだけど、――本来さ、こういう雑な造りのサイト上に、話題性のありそうなもんとか、ウソくせぇ誇大こだい広告なんかを表示をしてる場合は、なんでもいいからとりあえず収入入る広告とか、スパム踏ませて情報抜き取ってやろうって目的で作ってたりすんだよ。――だから、大体が収入目的か詐欺目的かっつぅことになるんだけど、――このサイトはそのどっちでもない。――一応、ページん中に広告は表示されてるが、これは誰かがクリックしても、このサイト作成者の金にはならないもんだ。いくとしても、このサイトのスペースを貸し出してる企業に金が行くだけだ。――だからこのサイトを見た感じ、作成者が得する要素は、一切見当たらない」
「マジか」
 そんな恵夢の見解に、綺刀は驚きを示した。
 すると、恵夢はそれにひとつ頷き、再び続ける。
「おう、――でも、趣味で作ったとも考えにくいな。――ほら、ブログサイトのくせに、プロフィールにはなんも書かれてねぇし、これ以外の記事もページもない。――しかも、この記事に掲載されてるリンク先も、全部別のサイトに行くようになってる。――だから、例えどっかのオカルト好きが、このエンマ様の話を広めたいが為に作ったにしても粗末すぎる。雑なんだよ全部。――ま、エンマ様の説明だけがオリジナルって事から、このエンマ様に注目を集めたいって目的はあったんだろうが、その目的以外は何も考えないで作ったって感じがするな」
「…………」
 ここまでの恵夢の話を聞き、禰琥壱以外の面々が改めてそのサイトを見つめる。
 そんな中、禰琥壱はというと、いつの間にか移動していたらしく、一同を見渡せる窓際で、夕風にあたりながら煙草をふかしている。
 その表情から察するに、どの情報に対しても驚きは見せていないようだった。
「なぁ、そもそもよ、なんでこんなお粗末なサイトがお前らの中で話題に上がったんだ? 俺からしたら、まずそれが疑問でならねぇよ。――こんなもんで楽しめるような奴、ここにはいねぇだろ」
「あぁ、それは」
 恵夢は、一同を見回しながら首を傾げる。
 すると、そんな恵夢の言葉に対し、綺刀が、今回のエンマ様に関する事や、梓颯たちの事、そして今日ここに至るまでの経緯をざっと説明してくれた。
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