『僕が解く夏目先生の怪❖春怪の解式』【BL・怪異×現代系/完結済/《月ノ歌聲》シリーズ】

🍶醇壱🔹JUNICHI🍶

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🍀本章🍀 完全版

最終章『 新たな怪 』

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  かくして僕は、その春、無事に先生の心の解を紐解く事が出来たのだった。
 
 
―僕が解く夏目先生の怪-春怪の解式❖最終章『新たな解』―


 因みに、あの旅館から東京へと戻った後、僕はあの付喪神へもしっかりと報告に行った。
 ただ、――先生の心を紐解く事ができました――と礼を言ったところ、報告の仕方がよろしくないと叱られてしまった。
 その後、何度目かのやり直しを経て、渋々――先生と一緒になれました――と言ったところで合格する事が出来た。
 先生も彼も、本当に僕で遊ぶのが好きらしい。
 そして僕がむくれると、先生も彼もより楽しそうにしては、可愛らしいなどと言うので、僕の心は乱されっぱなしなのだった。
 だが、こうして先生と恋人としても傍にいられるようになったのは、他でもないあの付喪神のおかげだった。
 春は恋の季節などと言うが、その季節に咲く桜も、そんな桜に宿る彼もまた、恋のお世話が好きなのかもしれない。
 もしそうなのだとすれば彼らもまた、物好きなものだ。
(凄く感謝はしてるけど……)
 僕はひとつそう思い、前を歩いている先生の後ろ姿を見る。
 未だに、先生と気持ちが通じ合ったという事に対しては夢心地だ。
 だがもしも夢ならば、この夢をずっと見続けてやろうと、今は思う。
 以前は酷く臆病だったが、今はそう思えるようになった。
 これも、自分の気持ちと正直に向き合えたからこそなのかもしれない。
 僕がそんな事を考えながらこの幸せを痛感していると、前を歩いていた先生がふと立ち止まって言った。
「雨か」
 僕がそんな先生の言葉につられ空を見上げると、今もまだ晴れ渡る空から、はたはたと幾滴もの雫が降り注ぎ始めていた。
「本当だ。狐夫婦の結婚式ですね」
 僕がそう言うと、先生も空を見上げながら言った。
「そうだね。羨ましいなぁ」
 僕はそんな先生の言葉に苦笑して言った。
「羨ましいって……先生、前に自由なのが一番だから、俺には結婚は合わないって言ってたじゃないですか。嘘は駄目ですよ」 
「はは、よく覚えてるね」
 忘れるはずもない。
 これはゼミの授業中、先生が女生徒に質問をされた時に答えていた内容だ。
 僕はその先生の言葉を聞き、密かに安堵したのを今でもよく覚えている。
 先生の年齢で結婚をするつもりがなければ、僕の片想いが終わる可能性も低くなる。
 そんな下心から、僕はそんな先生の言葉に安堵していたのだった。
 そして、そんな先生は空から僕に視線を移し、微笑んで言った。
「でも、嘘じゃないよ。――君にはね」
 僕は一瞬、周囲の音がすべて消えてしまったかのような感覚を覚えた。
 そして、思わず尋ねた。
「……ど、どういう事ですか」
「ふふ、どういう事だろうね。――でもきっと君なら分かるよ。俺の恋の時みたいに、紐解いてごらん」
「えぇ……っ」
 この春、僕は死にもの狂いで先生の心をひとつ紐解いたというのに、また新たな先生の“解”を紐解かなければならないらしい。
 今度の解は、果たしていつ解けるのだろうか。
 まったくもって見当がつかない。
 僕はそこで不満げな表情を作り言った。
「先生、なんだか最近、僕に意地悪になりましたね」
「そうかな」
「そうですよ」
「そうか……じゃあ、あれだね」
「……? なんですか?」
 僕が問うと、先生はゆっくりとこちらに歩み寄って来て言った。
「好きな子ほど意地悪したくなる」
「………………ずるいですよ」
 僕はそんな先生の言葉にどきりとしてしまった事に納得できないままにそう言った。
 だが先生はといえば、楽しそうに笑うだけだった。
 そうして満足そうにした先生は、狐夫婦を祝う晴天と雨天か混ざり合う空の下、僕の手を引いて歩き出した。

 そうして僕は、新たな季節を先生と共に歩み始め、忘れられない春の物語の幕を閉じた――。 








 
 
 

===後書===
 
 
 

この度は、本作をご覧頂き誠に有難うございました。
もし、お楽しみ頂けましたようでございましたら幸いでございます。


そして、余談ではございますが
執筆活動におきましては、皆様のお気に入りやご感想などが活動の励みになります。
もしお気に召して頂けましたら、是非宜しくお願いいたします。

また、ご感想に関しましては
お気軽に匿名で感想を送信できる「ご感想アンケート」も設けておりますので
作品ページや作中ページの最下部をご参照ください。

その他、ルビが欲しかった漢字、掲載形式(1頁に表示される文字数をもっと少な目にしてほしいなど)に関するご要望なども今後の参考になりますので、
コチラも、「ご感想アンケート」からお声をお寄せいただけましたらと思います。

それでは、こちらまでご覧頂きました方々、そして、
本作の読者様と、作品投稿の場をご提供下さるアルファポリス様へ
心よりの感謝を申し上げます。

此度の貴重なご機会、誠に有難うございました。

そして、今後も変わらず精進してまいりますので、
これからもどうぞ宜しくお願いいたします。

 
 
 
SJ-KK Presents
偲 醇壱/化景 吉猫
 
 
 
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